スターリンク衛星をGPSに
イーロン・マスク協力拒否も
独自研究で実現
スペースXの通信衛星であるスターリンク衛星群をGPSの代わりに使う研究が発表された。イーロン・マスクCEOが協力を拒否したにもかかわらず、研究者が独自に信号を解析した結果、測位に使えるようにしたという。 by Mark Harris2022.10.24
スペースX(SpaceX)に対するトッド・ハンフリーズ教授の提案はシンプルなものだった。ソフトウェアにちょっと手を入れれば、急速に数を増やしているスターリンク(Starlink)衛星群から、超高精度の測位・航法・タイミング(PNT)情報を得られるというのだ。テキサス大学オースティン校でのハンフリーズ教授の研究に資金を提供している米陸軍は、立派だが脆弱な自軍のGPSシステムのバックアップを欲していた。スターリンクはその役割を果たせるのだろうか?
ハンフリーズ教授によると、このことを2020年に最初に提案したとき、スペースXの幹部たちは前向きだったという。ところが、さらに上層部からは異なる意見が返ってきた。「イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、私たちが話した幹部に対して、『他のLEO(地球低軌道)通信ネットワーク事業は全部破綻してしまった』と言ったそうです。『だからスペースXは、破綻を免れることだけに集中しなければならない。他のことに関わっている余裕はない』というわけです」。
だが、ハンフリーズ教授は諦めなかった。テキサス大学オースティン校の電波航法研究所の同教授のチームは、過去2年間にわたって、地球低軌道上の何千ものスターリンク・インターネット衛星から地上の受信機に送られてくる信号をリバース・エンジニアリングしてきた。ハンフリーズ教授は、問題を解決できたという。そして、衛星群が常に送ってくるビーコン信号(受信機が衛星に接続するのを助けるように設計されている信号)を、有用なナビゲーション・システムの基盤として使えはずだと述べる。重要なのは、このことを、スペースXの助けを全く借りずに実現できることだ。
ハンフリーズ教授は、研究室のWebサイトに掲載した、未査読論文の中で、これまでになく完全なスターリンク信号の特徴がそろったと主張。GPSやヨーロッパ・ロシア・中国の同等のシステムから独立して動作する、新しいグローバル・ナビゲーション技術開発への第一歩であると述べる。
「スターリンク・システムの信号の秘密は厳重に保護されています」とハンフリーズ教授は言う。「スペースXが協力的だった初期の交渉でも、信号構造は一切明かしてくれませんでした。信号を傍受するために、私たちは小さな電波望遠鏡のようなものをゼロから作らねばなりませんでした」。
プロジェクトの開始にあたり、テキサス大学オースティン校ではスターリンク端末を入手し、それを使ってユーチューブ(YouTube)からテニスプレーヤー、ラファエル・ナダルの高解像度動画を24時間365日配信した。そして、近くにある別のアンテナで、スターリンクの信号をいつでも受信できるようにした。
ハンフリーズ …
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