中国テック事情:世界に波紋、異例の市民デモは何を求めているのか
中国で起こっている抗議活動に参加する人々は、どの程度過激な要求をすべきかについては意見が分かれているが、中国の厳格な「ゼロコロナ」政策に反発するという中心的なメッセージの下で団結している。 by Zeyi Yang2022.12.05
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
この1週間、中国の人々にとっても、私と同じように遠く離れた場所から熱心に見守る人々にとっても、眠れない夜が続いた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生から約3年経ち、中国各地で抗議活動が勃発していることはご存じだろう。北京、上海、新疆ウイグル自治区ウルムチ、広州、武漢、成都など多くの都市や町で、何百人もの人々が街頭に出て、ウルムチのアパート火災で亡くなった犠牲者を追悼し、アパート住民が逃げ遅れる原因になったとされる厳しいパンデミック政策を撤回するよう政府に要求している。
驚くべき事態だ。おそらくこの数十年で最大規模の中国における草の根の抗議活動であり、中国政府が反対意見の監視と抑圧をこれまで以上に巧みに実施している最中で起こっている。
この抗議活動の映像は、中国と米国のソーシャルメディア・プラットフォームでリアルタイムで共有され、瞬く間に世界的トップニュースになった。米国のプラットフォームは中国国内では技術的にブロックされているにもかかわわらず、である。
諸外国では、抗議活動への参加者が習近平国家主席や共産党を直接批判するようなセンセーショナルな映像ばかりが取り上げられがちだ。だが、現実はもっと複雑だ。あらゆる自発的な抗議行動と同様に、人によって求めるものは異なる。「ゼロコロナ」政策を廃止したいだけの人もいれば、言論の自由や指導者の交代を直接要求する人もいる。
筆者は抗議活動に参加した上海市民2人にインタビューを実施し、2人が直接体験したこと、参加した理由、そして再び参加することに不安を感じる点について話を聞いた。2人とも、政府からの報復を避けるために姓のみの表記を希望した。
11月26日真夜中過ぎに上海で発生した最初の抗議活動に参加したチャンは、自分の不満を人々に知ってもらいたいという気持ちが動機だったと語った。「政府の措置に対して、誰もが黙って耐えられるわけではありません」とチャンは政府関係者に言及して語った。「黙っていられません。人々は非常に厳しい生活を続けてきました。政府は反省すべきです」。
チャンの参加時には、参加者のほとんどはゼロコロナ政策に反対するスローガンを唱えていたとチャンは言う。例えば、今では有名な「新型コロナ検査ではなく食料を。ロックダウンではなく自由を」のようなスローガンだ。このスローガンは、10月に厳重警備が敷かれた中国共産党大会の開催直前に、中国市民のポン・リーファ(彭立發)が掲げた抗議文に由来する。
以来、ポンは公の場に姿を見せていないが、この1週間、ポンのスローガンは中国のいたるところで耳にし、目にすることができた。中国の厳格なパンデミック対策は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の科学的知識を反映していないことが多い。こうした政策を緩和することが最も重要であり、最も広く合意されている要求である。
11月28日から中国のソーシャルメディアで広く拡散されている画像は、より現実的な要求の良い例だ。ここには6つの要求が示されており、政府に対して、不当な新型コロナウイルス感染症政策を謝罪すること、新型コロナウイルス感染リスクの誇張をやめること、QRコードに基づくパンデミック監視措置をやめること、レストランで食事をしたり映画館に行ったりする日常活動の再開を許すことなどを求めている。
より過激で、より政治的なシュプレヒコールがあがり始め、中国共産党と習近平の退陣を直接求める声が出たのは、11月26日深夜のさらに遅く(正確には翌朝の午前3時頃)になってからだ。その時すでに、チャンは抗議活動から立ち去っていたが、ソーシャルメディアに投稿された動画を自宅で目にした。
同じく上海に住むチェンは、翌日27日の午後に同じ場所で開かれた2回目の抗議活動に参加し、チャンが耳にしたのとほぼ同じような訴えを耳にした。チェンによると、参加者は皆、新型コロナウイルス検査システムを緩和し、自由を拡大するという要求を繰り返していたが、習近平や中国共産党に明確に言及する声もあった。しかし、そのような声は著しく小さかったとチェンは語った。
チェンは、市民には言いたいことを言う権利があると考えているが、抗議活動の中心的なメッセージから国民の目をそらすことになりかねないと心配している。「あまりに過激な政治的スローガンを最初から叫ぶ必要はありません。過激すぎます」。
抗議活動に参加している人々が一枚岩ではないことは明らかだ。公平を期すために、多くの人にとって実際に抗議活動に参加するのは初めてのことであり、その仕組みを学んでいるところであることを記しておく。彼らが街頭に出てきたのは、新型コロナウイルス感染症対策の強化に心底悩まされてきたからだ。中国政府が11月上旬に制限を緩和する政策を発表した後も、実際のところはほとんど何も変わっていない。地方政府当局が規制を強化している都市もある。街頭に出た人々は、自分たちの生活に最も近いことを考え、それが高い政治レベルにおいて何を意味するかは考えていないかもしれない。
中国の最高指導部への直接批判が出るのは珍しいことなので、海外では驚かれ、新聞の見出しを飾るようになったのは理解できる。しかし、国内で自発的に高まったこの動きが外国からの干渉として描写されるのではないかという懸念も起こっている。実際、それはすでに起こっている。中国の親政府系インフルエンサーの中には、反習近平のスローガンを際立たせて、他国の勢力が「カラー革命」を推進していると主張する人もいる。
(スローガンが過激であるか否かに関係なく、抗議の正当性は疑われるだろうと主張している抗議者もいる。抗議者を他国の勢力として中傷することは、昔から中国の情報統制で常用されてきた手段である。)
では、次に何が起こるのか?抗議活動がいつまで続くかはわからない。だが、中国の警察が徐々にこのような抗議活動への対応を進め、取り締まり活動を強化してきたため、デモの組織化や参加はかなり難しくなってきている。
チャンの友人には、抗議活動が続くと参加者が過激になるのではと心配する人がいるが、チャンはその点については特に心配していない。人々がさまざまな考えや感情を持っていてもまったく問題ないと思うとチャンは言う。「同意できない主張は、声に出さなければいいだけです。抗議活動では、過激すぎるスローガンがつきものです。平和的な抗議行動を選択して何も言わないこともできます。発言するのであれば怖がらずに発言すればいいのです」。
チャンが本当に懸念していることは、このような抗議活動の参加者に対し、中国の準備万全な国家監視システムが容易に展開できることだ。これは、抗議活動にすでに参加した人や、参加したいと考えている人にとって、リスクを計算する上で重要な点である。チャンはソーシャルメディアを通じて、北京の抗議活動の参加者が、参加者を判断するために自分たちの健康コードデータが使われているのではないかと疑っていることを知った。上海では警察が人々の携帯電話をチェックしているとの報告もある。チェンはとても心配になり、11月28日の出勤時には警察のいる場所を避け、別のルートで出勤することにした。
チェンは、再び抗議活動に出かけ、孤立して警察に捕まってしまうことを心配していると言う。しかし、十分な人数が参加するなら行きたいと思っている。この数日間の経験で、抗議活動が本当に重要だと学んだからだ。
10月にポン・リーファが1人で抗議活動をしたとき、注目されずに終わるだろうとチェンは考えた。しかし、ポンが横断幕上に掲げた主張が、さまざまな都市で多くの人々によって繰り返し訴えられているのを見て、チェンはどんなに小さな抗議活動でも、現在の中国ではメッセージを伝えられるのだと確信した。「このような闘いは意味のある結果をもたらします」とチェンは語る。「翌日に結果が出ることはないかもしれませんが、必ず結果は出ます」。
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中国関連の最新ニュース
1. 中国での抗議活動について、他に知っておくべきこと
- 海外で亡命生活を送るウイグル人男性が、ウルムチの火災で親族5人が死亡したことを確認した。この火災をきっかけに中国全土に抗議活動が広がった。(AP通信)
- プロパガンダ対策チームの規模を大幅に縮小したツイッターが、ポルノスパムの増加に苦慮しており、中国の都市で何が起きているかを伝えるツイートが見つけにくい状態になっているという。(ワシントンポスト紙 )
- 新たに「白い紙」が抗議の象徴になっている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
- これとは別の、しかし関連する抗議行動で、中国のフォックスコン(Foxconn)工場で働く労働者が、給与支払いの変更や新型コロナウイルス感染に対する懸念をめぐって治安部隊と対峙し、激しい衝突が起こった。(CNN)
2. 中国は独占禁止法の改正を計画しており、テクノロジー・プラットフォームを対象とした多くの新しい規則が追加される予定だ。(サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙)
3. 最近、オクラホマ州の大麻栽培場で働いていた中国人移民4人が殺害された。(NBCニュース)
- 今回の事件が当てはまるかどうかはまだ不明だが、パンデミックの間、米西海岸に住む何千人もの中国人移民が、ニューメキシコ州、オクラホマ州、ナバホ・ネイション(アリゾナ、ユタ、ニューメキシコの3つの州にまたがる米先住民族・ナバホ族の準自治領)の大麻栽培場におびき寄せられ、人身売買された。(サーチライト・ニューメキシコ)
4. ローマ教皇庁は、認識していない中国の教区に司教が就任したことに驚きを隠せなかった。(バチカン・ニュース)
5. セルビア警察は、ファーウェイ(Huawei)製の監視装置を購入し、逃亡者の特定やデモ参加者の録画のために使用した。(ラジオ・フリー・ヨーロッパ)
6. 中国のシノ・バイオファーム(Sino Biopharm)は、サル痘を予防するためのmRNAワクチン3種の開発に成功したと発表した。(ニュース・メディカ)
7. アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)と中国企業ネットイース(NetEase)の契約が決裂したため、「ワールド・オブ・ウォークラフト(World of Warcraft)」や「オーバーウォッチ(Overwatch)」などの人気ビデオゲームが中国でプレイできなくなる。(BBC)
8. 現在、中国が最大の気候汚染国かもしれない。だが、データによると、これまでの歴史を通じて最も多くの温室効果ガスを排出しているのは米国である。(MITテクノロジーレビュー)
隔離部屋がアート作品に変身
四川省の集中隔離施設に収容された3人の中国人アーティストは、8日間の隔離生活をアート実験に変えることにした。
中国共産主義青年団中央委員会が発行する「氷点週刊」が報じたところでは、メン・リーチャオ(孟立超)、チェン・ユー(陳雨)、ヤン・ヤン(楊洋)の3人は11月上旬開催の芸術祭に参加する予定だったが、開催直前に宿泊先のホテルで新型コロナウイルス感染者が発生し、隔離施設に移されることになった。芸術祭に参加できなくなった3人は、代わりに各自の部屋でアート展を開くことにした。メンは壁の隅々に至るまでびっしりと落書きをし、エレクトロニック・ダンス・ミュージックに「あなたは監視されています」という音声サンプルをミキシングしたオーディオ作品を制作した。チェンは、社会的制裁を受けさせるために公表されていた映像を利用し、管理者の承認なしにドアを開けている同隔離施設滞在者の監視カメラ映像を印刷した。ヤンは、医療廃棄物のゴミ袋、綿棒、隔離期間に食べた食品のパッケージを使って壁面にコラージュを作成した。
しかし、隔離施設なので、3人が退去してから数時間後に到着した次の入居者以外、誰も3人の部屋に展示されたアートを見に来ることはできなかった。
あともう1つ
スマホで安らぎを得られないなんて思い込みなのかもしれない。中国の若者は、仏教の僧侶が儀式でリズミカルにたたく特殊な木の塊「木魚」を模したアプリを使用し、自らの罪を清め、「功徳スコア」を獲得している。ほとんどのユーザーは、真面目な宗教行為というより冗談として遊んでいるが、アプリ開発者はその後、さまざまなバリエーションのデジタル木魚を考案してきた。中には木魚を叩く修行をゲーム化し、ユーザーが友人と功徳スコアの最高得点を競い合うことができるようにしたものもある。
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- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。