KADOKAWA Technology Review
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移動難民を救う小さなクルマ「カンタ」が注目される理由
Niamh Ní Hoireabhaird
This tiny Dutch vehicle for people with disabilities is taking off

移動難民を救う小さなクルマ「カンタ」が注目される理由

オランダでマイクロモビリティの普及に貢献している「カンタ」は、コンパクトな二人乗りの四輪マイクロカーだ。高齢者や障害者の移動手段としていま、注目を浴びつつある。 by Niamh Ní Hoireabhaird2023.01.11

オランダの自転車文化は、世界的に知られている。そのオランダは今、より多くの人が利用しやすい移動手段「カンタ(Canta)」の本拠地でもある。

オランダの障害を持つ人にとって、このコンパクトな二人乗りの四輪車はマイクロモビリティの主役となりつつある。マイクロモビリティとは、通常、時速約24キロメートル以下で走行するさまざまな種類の小型軽量移動手段を指す。カンタは小型車のフィアットやミニに少し似ており、エンジン、ドライブトレイン、屋根、窓、ドアといった、自動車の主要装備をすべて備えている。ただし、とりわけコンパクトなのだ。オランダ国内の少し広めの自転車用レーンを走行するのに十分な、幅1メートルほどのマイクロカーで、車椅子や他の移動用補助器具を収容できる。

障害者向けに特別設計されたカンタは、1995年にオランダのワーイエンベルク・モビリティ(Waaijenberg Mobility)という小さな自動車メーカーが作った。通常は時速45キロメートル以下で走行し、高速道路での走行は禁止されている。

「カンタの製造を始めたのは、需要があったからです」とワーイエンベルク・モビリティのオーナーであるフランク・バーミンは言う。彼の説明によると、多くの顧客は障害があるため運転免許を取得できない人たちだという。カンタは一見すると自動車のように見えるかもしれない。しかし、同国ではモビリティ・デバイスに分類されるため、運転免許がなくても「ドア・ツー・ドアの移動」が可能になる。

カンタのさまざまなモデルはカスタマイズが可能で、車椅子ユーザーなど幅広い乗り手の移動ニーズに応えられる。例えば、カンタ2インライワーゲン(Canta 2 Inrijwagen)は座席がなく、後ろのドアから車椅子のまま乗り込めるように床が下がっている。アクセルやブレーキの操作についても、運転者に合わせてさまざまな種類の制御装置を搭載できる。オランダを走行するマイクロカーはカンタだけではないが、こうしたアクセシビリティへの配慮や優位性があるのはカンタだけだ。

価格は、カンタ・コンフォート(Canta Comfort)の約1万5500ユーロから、カンタ2インライワーゲンの2万3000ユーロ超まである。

カンタの旧モデルはガソリン駆動だったが、最新モデルは自治体の取り組みに従った電気駆動だ。例えば、オランダの首都アムステルダムは、2025年までに排気ガスゼロ都市を目指している。マイクロモビリティは、そうした自治体の取り組みに大きな役割を果たすことができるだろうし、実際そうすべきだろう。

「自動車以外に目を向ければ、移動ソリューションに大きな機会が見えてきます」とマイクロモビリティの専門家であるホレス・デディウは言う。「つまりマイクロモビリティは、短距離を移動するとき、より効率的で負担の少ない代替手段を意味するだけでなく、低年齢層や高齢者、身体障害者にとっての乗り物にもなる得るということです」。

「80億人が移動手段を必要としています。それなのに現在運転できるのはたった10億人なのです」とデディウは言う。「そういったすべての人が、マイクロモビリティによって恩恵を受けられるようになるでしょう」。

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