水素燃料電池搭載の航空機、英スタートアップ企業が試験飛行
スタートアップ企業のゼロアヴィアが水素燃料電池の一部を動力源として利用する航空機の試験飛行に成功した。温室効果ガスの排出削減が難しい航空産業にとって、重要な一歩となる。 by Casey Crownhart2023.02.09
低炭素飛行にとって記録に残る旅となった。スタートアップ企業のゼロアヴィア(ZeroAvia)が1月19日、水素燃料電池で部分的に駆動する19席の航空機の試験飛行に成功したのだ。ゼロアヴィアは航空機向けの水素電気システムを開発している企業で、今回の試験飛行で使われた航空機は過去最大級となる。
英国のコッツウォルズ空港を離陸し、飛行時間は全体で約10分間。航空機の左翼には水素燃料電池と蓄電池の組み合わせで駆動するモーターを搭載し、右翼には化石燃料のケロシンで駆動するエンジンを搭載して飛行した。
世界の温室効果ガス排出量の約3%を占める航空産業は、急速な成長を続けている。航空会社や一部の業界団体は、2050年までに排出量を実質ゼロにすると謳っているものの、化石燃料なしには航空需要に応えられない可能性が指摘されている。
水素燃料電池は、航空機の温室効果ガスの排出削減に役立つと複数の企業が期待している方法の1つである。だが、業界の排出量を大幅に削減するためには、この技術を比較的大きな航空機の動力源として利用できるようにスケールアップする必要がある。
ゼロアヴィアのヴァル・ミフタコフ創業者兼CEOは試験飛行後の記者会見で、「これで実際の商用飛行の離陸への道をまっしぐらに進むことができます」と述べた。
ゼロアヴィアは、ユナイテッド航空やアメリカン航空、ビル・ゲイツのエネルギー関連ベンチャーファンドであるブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ(Breakthrough Energy Ventures)などから、1億4000万ドルを超える資金を調達済み。また、ミフタコフCEOによれば、同社の水素燃料電池システムはすでに1500件以上の事前注文を受けているという。
ゼロアヴィアは数年前から小型航空機で試験飛行を実施してきたが、その結果はさまざまだった。2021年の試験飛行では、蓄電池のバックアップシステムが停止した後に強制着陸となり、機体が損傷した。この時は水素燃料電池だけで稼働していたため、航空機は電気モーターへの電力を失った。
当初計画の2022年の夏から延期された今回の試験飛行では飛行中、常に蓄電池システムがサポートする構成を採っている。左翼の動力源のうちおよそ50%を蓄電池で供給し、残りの50%を水素燃料電池システムで供給した。
燃料電池は、空気中の酸素と水素を結合させることで、大気中に水だけを放出しながら電力を発生させ、航空機を動かすことができる。ゼロアヴィアの試験機であるドルニエ228は、燃料電池の推進システムと動力源となる水素タンクを格納するため、機内の座席を取り外す改造が施されている。
同じく航空機向けの水素電気推進装置を開発中の米国のスタートアップ企業、ユニバーサル・ハイドロゲン(Universal Hydrogen)は、2023年初頭に50人乗り航空機、ダッシュ8-300(Dash 8-300)改造機の試験飛行を計画しているとされる。
テストの遅れや問題はあるものの、ミフタコフCEOによると、ゼロアヴィアは以前発表した2025年の商用飛行開始の計画を達成すべく、順調に進んでいるいう。商用運行開始に使用する航空機の種類やビジネスパートナーについては明言を避けたが、10席から20席規模の機体になるという。ミフタコフCEOは、商用化のための追加資金を調達する予定だと説明した。
「すばらしい第一歩ですが、もちろん最初の一歩にすぎません」。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの航空輸送システム研究所(Air Transportation Systems Laboratory)の所長を務めるアンドレアス・ シェーファー教授はこう話す。
シェーファー教授によると、短距離輸送用の小型民間航空機は、10年以内に水素燃料電池で飛ぶようになる可能性があるという。だが、そうした路線は、今日の航空業界のごく一部に過ぎない。「エネルギー使用量や排出量の点では、本当に微々たるものです」。
シェーファー教授は、より長距離の大型航空機に電力を供給できる技術が、気候変動への対応にはるかに大きな影響を及ぼすと話す。 だが、燃料電池は重く、大型航空機への搭載は難しい。さらに、航空機内に水素の保管スペースを見つけるのも厄介だ。水素はケロシンよりもエネルギー密度が低いため、液体で保存するために極低温まで冷却しても機内に大量の燃料を貯蔵するスペースが必要となる。
ミフタコフCEOは記者会見で、ゼロエミッションの商用飛行達成への道には多くの障害が残されていることを認めた。「今日、私たちはその目標達成に向けた大きな一歩を目の当たりにしました。ですが、まだやるべきことは多く残されています」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。