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CNET炎上で物議、チャットGPTはジャーナリストの仕事を奪うか?
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Could ChatGPT do my job?

CNET炎上で物議、チャットGPTはジャーナリストの仕事を奪うか?

オープンAIが開発したAI言語モデル「チャットGPT」をジャーナリストの仕事に活用しようという動きがある。AI言語モデルは、ジャーナリストから仕事を奪ってしまうのだろうか。 by Melissa Heikkilä2023.02.15

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

ジャーナリストやコピーライターがAIに置き換わる可能性はあるか、あるいは置き換えるべきなのかというについて、多くの議論が起こった。個人的には心配していない。その理由を述べていこう。

これまでのところ各社のニュース編集室は、世間を賑わす新たなAIツールであるチャットGPT(ChatGPT)を業務に取り入れるに当たって、まったく異なる2つのアプローチを採用している。テック系ニュース・サイトのシーネット(CNET)は、チャットGPTを使って密かに記事を丸ごと書き始めたが、この実験は大炎上した。最終的に盗用の批判を浴び、訂正記事を出さざるを得なくなった。その一方でバズフィード(Buzzfeed)は、より注意深く慎重なアプローチをとっている。バズフィードの幹部は、クイズの答えを生成するのに使うことを想定している。トピックと質問は記者が作成する。

これらの話は、多くの業界が現在直面している根本的な疑問へと行き着く。AIシステムにどこまで任せるべきかということだ。シーネットは任せ過ぎて混乱を招き、面目丸つぶれとなった。一方でバズフィードは、チャットGPTを生産性向上ツールとして使うという、より慎重なアプローチをとったことで広く好意的な評価を受け、結果として株価が急騰した。

だが、ここにはジャーナリズムの薄汚い秘密がある。ジャーナリズムの驚くほど多くの部分を自動化できると主張するのは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでジャーナリズムAI(JournalismAI)というプログラムを運営するチャーリー・ベケット教授だ。ジャーナリストは、日常的に通信社の文章を使い回し、記事の着想や情報源を競合他社から盗んでいる。各社のニュース編集室が、こうしたプロセスを効率化するのに、新しい技術がいかに役立つかを探ろうとするのは、極めて理にかなっているというのだ。

「ジャーナリズムを独創性と創造性を開花させる場だと考えるのは、全くのナンセンスです」とベケット教授は言う。痛い指摘だ。

ジャーナリズムの退屈で反復的な部分を一部AIに任せられるのなら、それは必ずしも悪いことではない。実際、それによってジャーナリストは解放され、より創造的で重要な仕事に費やす時間を増やすことができる。

私が見てきたその良い一例が、ニュースワイヤーの文章をチャットGPTを使って「スマート・ブレビティー(smart brevity、賢い簡潔さ)」形式でまとめ上げるというものだ。スマート・ブレビティは米ニュースサイトのアクシオス(Axios)が提唱している。チャットGPTはその作業を十分にこなしているようであり、この形式で仕上げることを任された記者なら誰も、チャットGPTのおかげでもっと楽しい業務に充てる時間が増えたと喜ぶ姿が想像できる。

これは、ニュース編集室がAIをうまく活用できるという一例に過ぎない。AIはジャーナリストにとって長い文章を要約したり、データセットを入念に調べたり、見出しのアイデアを考えたりするときにも活用できる。私自身、記事を書く過程で、ワープロソフトののオートコンプリート機能や、インタビュー音声の書き起こしなど、コンピューターの力を使ってきたのだ。

だがニュース編集室でAIを使うことには、大きな懸念がいくつかある。 1つがプライバシーの問題だ。情報源の身元を秘匿しなければならないような、慎重な扱いが必要な記事の場合に、特に問題となる。これは、MITテクノロジーレビューの記者たちが音声書き起こしサービスでぶつかった問題でもある。残念なことにこの問題を回避するには、匿名性を要するインタビューは手作業で書き起こすしかない。

また、扱いに気をつけなければならない情報をチャットGPTに入力するときも、ジャーナリストには慎重さが求められる。我々は、チャットGPTを開発したオープンAI(OpenAI)がこのチャットボットに入力したデータをどのように扱っているかを知らない。我々が入力した文章が、モデルを訓練するためのデータとしてそのまま使われる可能性は大いにある。つまり、入力した情報が、将来チャットGPTを使う人々に流れ出る可能性もあるということだ。企業はすでに気づいている。アマゾンの弁護士は、社内文書にチャットGPTを使わないよう従業員に警告したと言われている

チャットGPTはまた、シーネットが痛い目に遭って実感したように、悪名高きほら吹きでもある。AI言語モデルは、次の単語を予測することで機能するが、意味やコンテキストについては何も知らない。終始、嘘を吐き続ける。要するに、AIが生成するものはすべて注意深く再確認することが必要だということだ。そうこうしていると、自分で記事を書いたほうが手っ取り早いと感じてくる。

エクササイズの計画を立てるのにチャットGPTを活用

エクササイズ愛好家の中には、チャットGPTをパーソナル・トレーナーとして活用し始めている人もいる。本誌のリアノン・ウィリアムズ記者は、AIがエクササイズの方法に変化をもたらし得るかという検証記事を書くに当たり、チャットGPTに自身のマラソン・トレーニング・プログラムを考案するよう頼んでみた。  ウィリアムズ記者にとって、その後事態がどのように進展していったか。こちらでお読みいただきたい。 

この記事は読み物として興味深いだけでなく、我々がAIモデルを信用するときは、あくまで自己責任であるということを再認識させてくれる。ウィリアムズ記者が指摘するように、AIは、実際にエクササイズすることがどのようなことであるかを知らないため、効果的ではあっても退屈なルーティンを示してくることが多い。チャットGPTは、少し新鮮味のなくなったエクササイズにスパイスを加える楽しい方法として、あるいは自分では思いつかないようなエクササイズを見つける方法として扱うのが良いのかもしれないと記者は結論付けている。

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チャットボットのウォーターマーク(透かし)はAIが書いた文章を暴くことができる。AI生成の文章に埋め込まれた隠れたパターンにより、我々が読んでいる文が人によって書かれたものかどうかを判別できる可能性がある。小論文をAIに書かせた学生を見分けるのに役立つかもしれない。(MITテクノロジーレビュー

オープンAIはチャットGPTを稼働させ続けるためにマイクロソフトに依存している。チャットGPTを開発したオープンAIは膨大な費用を必要とする。こうした巨大モデルの問題点は、この種のコンピューティング・パワーを最大の資金力を持つ企業しか持てないということだ。(ブルームバーグ

メタ(Meta Platforms)は広告のエンゲージメント率を上げるためにAIを取り入れている。メタは、広告収入とエンゲージメント率を上げるべく、AI技術を製品にさらに深く統合することに賭けている。同社は業界でも最大級のAI研究機関を保有しており、売上に直結するAI開発へのシフトがAIの将来にどう影響するのか、気になるところだ。AI研究は、本当に広告収入をもたらすだけの手段になってしまうのだろうか。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

グーグルはAIの活用法という難問をどのように解決するのか。グーグルは最先端のAI言語モデルを持っているが、活用することには消極的だ。この技術をオンライン検索に統合することで、大規模な風評リスクを起こす可能性があるからだ。オープンAIやマイクロソフトからのプレッシャーが強まる中、グーグルは難しい問題に直面している。有害な検索結果を出してしまい、反発を招くことを覚悟して、競合製品を投入するのか。それともAI開発の最先端の波から外れるというリスクを取るのか。 (フィナンシャル・タイムズ紙

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MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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