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フォードがLFP電池を26年から米国生産、EVは安くなるか?
Ford Motor Company
Meet the new batteries unlocking cheaper electric vehicles

フォードがLFP電池を26年から米国生産、EVは安くなるか?

フォードは電気自動車(EV)向けのリン酸鉄リチウムイオン電池を生産する米国初の工場を2026年に稼働させる。充電速度の向上と寿命の延長を実現する同電池は、EVの選択肢を広げ、価格低下にも貢献しそうだ。 by Casey Crownhart2023.02.27

新しい電池が米国にやってくる。

フォード(Ford)は2月13日、ミシガン州に新工場を建設し、自社の電気自動車(EV)用のリン酸鉄リチウムイオン電池を生産する計画を発表した。新工場建設には35億ドルの費用を見込み、2026年に稼働を開始する予定だ。完成すれば、米国でリン酸鉄リチウムイオン電池を生産する最初の工場となる。

ミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事は、工場建設計画を発表する記者会見で「重大な出来事です」と述べた。電池の選択肢が広がることで、フォードは「より多くのEVをより迅速に製造し、最終的にはより手頃な価格で提供できるようになります」とフォードのビル・フォード会長は話す。

新工場で生産されるリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池は、現在欧米のほとんどのEVで使われているニッケルやコバルトを用いた電池に代わる低コストな電池だ。LFP電池は中国で普及が進んでいるが、中国のバッテリー大手であるCATL(寧徳時代新能源科技)と提携したフォードの工場建設は、欧米では節目の出来事となる。コスト削減だけでなく、充電速度の向上と寿命の延長を実現するLFP電池は、EVの選択肢を広げることになるだろう。

リチウムイオン電池にはリチウムが用いられており、電池のカソード(正極)と呼ばれる部分に電荷を蓄える働きがある。しかし、リチウムは単独で働くわけではなく、他の材料の補助を受けて正極に移動する。

現在、自動車に使われているカソードは、リチウムにニッケルやマンガン、コバルトを加えたものが主流だ。また、テスラ(Tesla)など一部の自動車メーカーは、ニッケル、コバルト、アルミニウムによる化学反応を利用した正極を採用している。これらのカソードはいずれもエネルギー密度が高く、同じ量のエネルギーを蓄えることができる他の電池よりも小型・軽量にできるため、注目されるようになった。

EV用電池のカソードは、以前は上記の2種類が主流だった。だが、古くから知られるリン酸鉄リチウムによる化学反応が、ここ数年、主に中国での大きな成長によって復活を遂げた。

LFP電池には鉄が用いられているため、現在、同じ容量の他のリチウムイオン電池よりも20%程度安い傾向にある。安価な理由の一つとして、近年大きな価格変動があったコバルトやニッケルといった高価な金属が、LFP電池には用いられていないことが挙げられる。電池メーカーはまた、コバルト含有量の削減にも取り組んでいる。コバルトの採掘は特に有害な労働条件と結びついているためだ。 

コバルトやニッケルを使わないカソードを作れれば、自動車メーカーのコスト削減につながる可能性があり、すでに一部のメーカーは米国で販売される車の化学電池を変更し始めている。現在、テスラ は「モデル3」を含む一部のモデル用に、中国からLFP電池を輸入している。フォードは、2023年に「Mach-E」、2024年に「F-150 Lightning」で、LFP電池の使用を開始すると以前に発表した

今回発表された工場によって、フォードはLFP電池を生産する米国で最初の自動車メーカーとなる。新工場ではCATLのテクノロジーが使用され、米国における、より広範なLFP生産の促進に役立つ可能性がある。エネルギー関連の調査会社ブルームバーグNEFのバッテリーテクノロジー・アナリストであるエベリーナ・ストイクは、新工場建築は「北米の製造業の展望にとって極めて重要なポイントになります」と述べる。

いくつかの小規模なLFP電池生産施設も、フォード工場と同時期に稼働を始める可能性がある。

米国連邦政府は2022年10月、ICL-IPアメリカ(ICL-IP America)という企業がミズーリ州に工場を建設するのに約2億ドルを投資すると発表した。この工場ではLFP電池のカソード用材料を作り、それを使用した電池を生産する。生産開始予定は2025年となっている。

一方、ユタ州にあるアメリカン・バッテリー・ファクトリー(American Battery Factory)という企業は、アリゾナ州ツーソンにLFP電池の生産施設の建設を計画している。この施設の建築には約12億ドルかかる見込みで、2026年に稼働を始める予定だ。

代替電池の可用性が高まることで、自動車メーカーや運転手の選択肢は大きく広がるが、LFP電池が他のテクノロジーに完全に取って代わることはないだろう。ストイクは「LFP電池は究極の電池ではありません」と言う。

LFP電池は他の化学物質よりも安価で、寿命も長いが、重くかさばる傾向があり、自動車にとって問題となり得る。電池が重くなれば、移動するのに必要なエネルギーが増え、航続距離が短くなるからだ。また、電池が大きくなると、座席や貨物のスペースを奪う可能性がある。

欧米のドライバーは、航続距離の長い大きな車を好む傾向にある。そのため、限られたスペースにより多くのエネルギーを詰め込む必要があり、欧米では中国のようにLFP電池が主流になることはないかもしれない、とストイクは言う。

ストイクによると、LFP電池の成長は2023年以降横ばいになり、世界のEV用電池市場の約40%で安定するだろうという。そして今後は、すぐに、他の新しい化学物質が自動車に搭載されるようになる可能性が高そうだ。 

鉄を用いた電池にマンガンを添加すれば、コストを抑えながら効率を上げられる可能性がある。自動車メーカーは、リチウムイオン電池の使用を完全にやめて、さらにエネルギー密度の高い固体リチウム金属電池に移行する可能性もある。また将来的には、リチウムイオン電池をもはや使用せず、ナトリウムイオン電池を使用した安価なEVが登場するかもしれない。

これらの化学物質の組み合わせは、いずれも将来の輸送の鍵を握っているかもしれない。今はLFP電池の時代だが、その背後には他の多くの電池が控えている。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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