KADOKAWA Technology Review
×
「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集中!
ES細胞から作成した人工胚、サルの子宮へ移植
Getty Images
生物工学/医療 無料会員限定
Synthetic embryos have been implanted into monkey wombs

ES細胞から作成した人工胚、サルの子宮へ移植

中国の研究チームが、サルのES細胞(胚性幹細胞)から「人工胚」を作成し、サルの子宮に移植して妊娠したような反応を作り出すことに成功した。今回は途中で発達が止まったが、いずれは胎児にまで成長するかもしれない。 by Jessica Hamzelou2023.04.13

精子と卵子からではなく、サルの幹細胞から初めて、胚が作られた。研究チームがこの「人工胚」を成熟したサルの子宮に移植したところ、一部のサルに妊娠初期の兆候が現れた。実験室で培養された胚を霊長類の体内に移植してここまで発達させたのはこれが初めてである。いつの日か同じ方法で、胎児を作り出せるかもしれない。

「すばらしい成果です」と語るのは、オランダのライデン大学の発生生物学者スサナ・シュバ・デ・ソウザ・ロペス教授だ(同教授は今回の研究には関与していない)。「人工胚がここまで発達したのは初めてです。質も良好でした」。このような胚に類する構造体がサルの体内に移植されたことも今回が初めてのことだ。

中国科学院上海分院のチェン・リウ博士らの研究チームは、マカクザルの胚に由来する胚性幹細胞(ES細胞)を使って研究をスタートした。ES細胞は数世代に渡って研究室で培養が続けられた。後は条件さえ整えば、ES細胞は臓器、血液、神経系などをはじめとする、あらゆる種類の体細胞に成長する可能性がある。

研究所で培養された胚

研究チームはES細胞の発達を促すため、複数の実験環境を用意した。実験環境はチームが調整・改善して作ったものだ。ES細胞は数日かけて胚と同じような発達を始めた。こうしてできた細胞の塊は、初期の胚である胚盤胞に似ていることから、胚盤胞様構造と呼ばれる。

胚盤胞様構造を培養皿の中で7日間培養した後、研究チームは典型的な胚との類似性を確かめるため、一連の試験を実施した。ある試験では胚盤胞様構造内の細胞をひとつひとつ分離し、細胞ごとにどの遺伝子が発現しているかを確かめた。チームはこの方法で6000個以上の細胞を個別に分析した。

こうした試験を通じて、幹細胞由来の胚と通常のサルの胚が非常によく似ていることが明らかになった。「分析の結果は驚くばかりでした」とシュバ・デ・ソウザ・ロペス教授は言う。「胚盤胞様構造は、胚にとてもよく似たものへと変化しようとしていたように思えました。本当に驚くべきことです」。

一部の胚盤胞様構造は、17日間を上限として、もう少し長期間培養されていた。研究チームによると、それらの構造は一般的な胚と非常によく似ていたという。ただ、研究に参加していない科学者からは、類似の度合いを証明するためのさらなるエビデンス(科学的根拠)が必要だという意見も出ている。

これらの胚盤胞様構造がどれほど胚に近いかを知る唯一の方法は、サルの子宮内で発達するかどうかをテストすることだ。そこで研究チームは、8頭の成熟したサルの子宮に、7日間培養した胚盤胞様構造を8~10個ずつ移 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI can make you more creative—but it has limits 生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2024 「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集のお知らせ
  3. A new weather prediction model from Google combines AI with traditional physics グーグルが気象予測で新モデル、機械学習と物理学を統合
  4. How to fix a Windows PC affected by the global outage 世界規模のウィンドウズPCトラブル、IT部門「最悪の週末」に
  5. The next generation of mRNA vaccines is on its way 日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る