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菌類は「話し好き」?最新研究で分かっていること
Kate Dehler
How do fungi communicate?

菌類は「話し好き」?最新研究で分かっていること

生物のコミュニケーションと聞くと動物あるいは植物を思い浮かべる人が多いが、実は菌類も他の多くの種と「会話」をしている可能性を示す研究が進んでいる。 by Willoughby Arévalo2023.04.27

私たちの大半が、菌類といえば「キノコ」を思い浮かべる。だが、胞子を作り出すキノコ本体は、分散型で網のように枝分かれした管を持つ、菌糸体の生殖器官にすぎない。これらは通常は微細であるが、巨大にもなり得る。既知の中で最大のものは、10平方キロメートル近い面積に広がり、数千年もの間生き続けているハチミツタケ(アルミラリア)である。

他の生命体と複雑な関係を持ちながら生きる生物である菌類は、コミュニケーションなしでは存在できない。菌類はまた、昔から、固着性か、1カ所に永久に固定されていると見なされてきたが、菌糸は土や倒れた丸太の小片といった基材を通過し、管の先端を伸ばすことで移動する。

成長の過程で、菌類は絶えず感知し、学習し、決断している。菌類は多言語を操る人のようなものだ。さまざまな化学信号を「話し」、「理解」する。空中を漂ったり、水中を流れたりする化学物質を放出して反応する。興味深いことに、菌類は化学物質を感じ取るだけでなく、状況や他の化学物質との関係に基づいて、その意味を積極的に解釈する。

菌類のコミュニケーション方法に関する研究は、植物や、特に動物のコミュニケーションに関する研究と比較して大きく後れをとっている。研究のほとんどが数種の「実験台」に基づいており、他の種についての知識は限られているが、この記事では、「1つの菌体内」「同種の菌体間」、そして「他の生物との」コミュニケーションという3つの領域について、分かっている事柄を要約してお届けする。

1つの菌体内でのコミュニケーション

成長する菌糸の先端には、菌体全体に対する自律性と責任がある。それは、社会性昆虫と巣の関係に似ている。すべての菌糸体内にある細胞の間には、化学物質、栄養素、電気インパルスが流れている。それらの動きは、起こっていることについて全体へ最新情報を伝え、ネットワーク上で活動を調整するためのものである。西イングランド大学ブリストル校で非従来型計算を教えるアンドリュー・アダマツキー教授の研究は、それらが菌糸体の内部の生体電気信号に影響を与え、ある種の「言語」を形成している可能性を示唆している。菌糸体は神経系ではないし、神経系を含んでもいないが、菌糸には神経系と多くの共通点がある。いずれも枝分かれした構造を有し、必要に応じて経路の補強や剪定をする。そして、情報伝達のために数種の同じアミノ酸を利用する。

同種の菌体間でのコミュニケーション

菌類の多くは有性であり、繁殖のために交配しなければならない。菌体はフェロモンを出し、他の菌体のそれらを「嗅ぎ」分ける。そして、魅力的(何であれ、菌類が惹かれるものに基づいて)に感じた菌体の方へ向かって成長するのだ。2つの菌糸体が出会うたび、関係を交渉するためのコミュニケーションが起こる。それは、(生殖的または非生殖的パートナーシップを形成するための)融合から、無関心、物理的排除、さらには化学的拮抗にまで及ぶ可能性がある。交配を終えたそれぞれの菌糸は、融合の物理的ダイナミクスと、その後の相互関係における生命のダイナミクスについて交渉する。

他の生物とのコミュニケーション

菌類は、他の多くの存在に「話し」かけ、反応する。菌根での共生を通して、植物のパートナーと水や食料を共有することもある。寄生菌類は、植物の成長調節因子を無数に生成し、自分たちのニーズに合わせて寄生対象を変化させる。トリュフなど一部の菌類は、彼らにとって送粉者(ポリネーター)に該当するスポリネーター」として役立つ哺乳類や昆虫を引き寄せるために、動物の性フェロモンを模倣する。線虫(線形動物ともいう)の餌食になる菌類の中には、近くにいる線虫に気づくと、防御のための化合物を生成して追い払うことができるものもある。他に、化学的に感知した線虫を狩る菌類もいる。

菌根菌は、「WWW(ウッド・ワイド・ウェブ)」に関する現在の議論の重要トピックである。しかし多くの意見が、木々が互いに「会話」できるようにするための生きた光ファイバーケーブルとして菌根菌を不当に扱っている。菌類は、単なる受動的な配線以上のものである。実際のところ、積極的に自らを知覚し、解釈し、信号を送っているのだ。菌類は、さまざま存在と常にこうしたやり取りを交わしている。化学的、電気的なノイズの中で、キノコがこうした信号をどのように生成し、解釈しているのかは興味深い謎に包まれている。

筆者のマイケル・ハサウェイは『What a Mushroom Lives For: Matsutake and the Worlds They Make(きのこは何のために生きているのか:松茸とその世界』(未邦訳)の著者。同じく、ウィロビー・アレバロは、『DIY Mushroom Cultivation: Growing Mushrooms at Home for Food, Medicine, and Soil(DIYきのこ栽培 ~食用・薬用・土用のきのこを家庭で育てる~)』(未邦訳)の著者。

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