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クリーンエネ投資、化石燃料を上回る=IEA報告書から見えてくること
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The world is finally spending more on solar than oil production

クリーンエネ投資、化石燃料を上回る=IEA報告書から見えてくること

国際エネルギー機関(IEA)が発表した年次投資報告書で、クリーン・エネルギーへの投資額が化石燃料への投資額を上回った。間違いなく良いニュースだが、気候変動目標を達成するには、まだ投資額が足りないのが現実だ。 by Casey Crownhart2023.08.07

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

お金は世界を動かす。そして今やエネルギーの世界には、かつてないほどの投資が流入している。企業、研究機関、政府の誰もが、未来の世界を支えるであろうテクノロジーに資金を注いでいるのだ。

国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)は、世界のエネルギー投資に関する年次報告書を発表した。すべての投資金額の内訳が掲載されている。2022年、世界ではおよそ2兆8000億ドルがエネルギー分野に投資され、そのうち約1兆7000億ドルがクリーン・エネルギーに投入された。

クリーン・エネルギーに対する単年の投資額としては過去最大であり、その行方は非常に興味深い。良いニュースもあれば、悪いニュースもある。さらには驚くような話もある。データを詳しく見てみよう。 

低迷する化石燃料

まずは、良いニュースから紹介しよう。再生可能エネルギー、原子力、そして電気自動車(EV)やヒートポンプのような排出量削減に役立つ機器など、クリーン・エネルギーに多くの資金が流れ込んでいる。しかも、ただ大金が流れているだけでない。クリーン・エネルギーへの投資が化石燃料への投資を上回ったのだ。2022年には、化石燃料に1ドルが支払われるごとに、クリーン・エネルギーに1.70ドルが使われた。ほんの5年前までは互角だったにもかかわらずだ。

クリーン・エネルギーが優位に立っていることは、特に太陽光発電を見れば明白だ。2023年には、初めて太陽光発電への投資が石油生産への投資を上回ると予想されている。石油への投資が太陽光発電への投資の6倍に達していた10年前と比べると、その差は歴然としている。

 

石油とガスに関して、1つ非常に興味深い点を指摘しておこう。先述のようにクリーン・エネルギーへの投資額は増加しているものの、化石燃料企業による投資額を見ると、クリーン・エネルギーへの投資が占める割合はそれほど大きくはないのだ。

 

2021年と2022年に、細くて黒い線があるのが分かるだろうか。これは、石油・ガス会社の支出のうち、クリーン・エネルギーに回された割合を表している。石油インフラへの支出は減少しているが(そのおかげで太陽光発電が追い付いた)、その分企業は低排出技術への投資を増やすのではなく、配当の支払いや株式の買い戻し、債務の返済に費やしている。

排出量削減に役立つ自然エネルギーや技術革新への投資、注目が集まることはすばらしいことだし、特に石油・ガス会社は、自らが専門知識を持つ分野で新技術を後押しする役目を果たせるはずだ(個人的には地熱に注目している)。だが、石油・ガス会社が再生エネルギーに投入している金額は、広告キャンペーンで言われているよりも少ないことを念頭に置いておいておきたい。

増産

クリーン・エネルギーの分野では、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー、送電網の整備、エネルギー効率の向上への取り組みへの出費が、支出の大部分を占めている。

しかし特に今年の予測を見ると、より小さな分野が急速に成長しているのが分かる。電気自動車への資金移動の速さには本当に驚かされる。2020年の時点では290億ドルだったが、2023年には1290億ドルになると予想されている。また、エネルギー貯蔵用のバッテリーへの支出は、2022年から2023年の間に倍増すると言われている。

こうした新たに投入された資金がすべてを変える可能性があり、実際バッテリー業界ではすでに大きな変化が起きている。ほんの数日おきのペースでバッテリー工場新設の発表が続いているのだ(直近では、ジョージア州にまた数十億ドル規模の工場ができた)。

一連のバッテリー工場新設計画がすべて実現すれば、2030年にはリチウムイオン電池の製造能力が7テラワット時近くに達することになる。これは、年間1億台以上のEVにバッテリーを供給できる量だ。そのほとんどが中国で生産されることになるが、米国や欧州では、中国がEVの分野で覇権を握ることを阻止しようとする動きが始まっている。

 

今後の展望

これだけ聞くと大金に思えるが、それで十分なのだろうか?

地球温暖化を産業革命前と比べて1.5℃以下に抑え、気候変動による最悪の影響を回避するためには、2050年頃に温室効果ガスの排出量をゼロにする必要がある。IEAによると、この目標を達成するには、2030年に年間4.5兆ドル(現在の約3倍)の投資が必要だという。

 

絶好調のテクノロジーもある。太陽光発電への投資額は、2050年の目標達成に向けて、これまでと同じペースで拡大していく必要がある。しかし、特にエネルギー貯蔵や送電線などの技術にはさらに多額の投資が必要だ。太陽光発電やその他の間欠性の再生可能エネルギー電源が続々と送電網につながっていく中で、エネルギー貯蔵や送電線などの技術が送電網のバランスを取るのに一役買っているためだ。また、地理的な不均衡も大きい。貧しい国々は電力網の整備や新しいテクノロジーの確立に向けた大きな後押しが必要だ。

投資はおおむね正しい軌道に乗っており、来年の報告書がどのようなものになるか楽しみだ。しかし、まだまだ長い道のりであることは間違いなく、やるべきことはたくさん残っている。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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