炭素クレジットは誰のもの? 高級EVメーカーが横取り画策か
米国で人気の高級EVメーカー「リヴィアン」が、充電器の設置で得られる炭素クレジットの所有権を主張している。二酸化炭素排出量削減のために直接行動した企業や個人に付与されるはずの炭素クレジットの「横取り」とも取られかねない行動だ。 by James Temple2023.06.22
カリフォルニア州に拠点を置くリヴィアン・オートモーティブ(Rivian Automotive)は、大自然を探検しつつも地球環境改善に向けて正しいことをしたいと願う、気候変動対策への意識が高い消費者に向けて高級EVトラックを売り込んでいる。そしてこのほど同社は、自社のピックアップ・トラックやSUV向けの充電器で、炭素クレジットを獲得するために申請を出した。顧客の自宅に設置された充電器も対象に含まれる。同社のこの取り組みは、MITテクノロジーレビューが今回、初めて明らかにするものだ。
リヴィアンの新たな取り組みは、電気自動車(EV)などのグリーン製品関連の環境への貢献は、誰によるものとして認められるべきかという、新たな疑問を引き起こす。7万5000ドルのEVピックアップ・トラックや800ドルの充電器を購入する消費者か? それともそうした製品を製造・販売する企業か? そして、その便益が定量化可能だとしたら、自ら排出を続ける温室効果ガスの量を相殺したい個人や企業が購入すべきものなのだろうか?
リヴィアンは、世界最大級の炭素クレジット認証機関である米国の非営利団体ヴェラ(Verra)に昨年提出したプロジェクト申請書で、同社の充電器の使用から生じる「環境属性はすべて(同社が)保持する」と書いている。リヴィアンはそれらの充電設備から得られた排出削減で、ヴェラが認証する炭素クレジットを獲得しようと目論んでいる。そうして獲得したクレジットは第三者に売却し、自らの排出量をオフセットするために使用できる。
カーボン・オフセットの基本的な考え方は、例えば植樹や木の伐採計画の中止等によって大気から温室効果ガスを除去する方策を講じている個人や企業が、ヴェラやカリフォルニア州の「キャップ・アンド・トレード(cap-and-trade)」システムなどの政府推進プログラムのような登録制度で認められたクレジットを獲得できるというものだ。そうして獲得したクレジットは、温室効果ガス1トン分の気候汚染を相殺するためにお金を払ってもいいと考える第三者に売ることができる。もし炭素をめぐるこの計算が取引の双方で折り合えば、気候面でもプラスマイナスゼロとなるはずだ(とはいえ多くの複雑な要因が絡むが)。
資料によると、リヴィアンが提案しているプロジェクトには、同社が運営するアドベンチャー・ネットワーク(Adventure Network)充電ステーション、第三者がリヴィアンから充電器を購入して設置・運営しているウェイポイント(Waypoint)、そして「米国本土各地」の個人の自宅に設置された充電器が含まれる。
申請書によると、充電器購入者と交わした契約書には「リヴィアン・オートモーティブは単独かつ絶対的な裁量により、環境属性を移譲、販売、所有または伝達する権利を留保する」と明記されているという。また、自宅用充電器に関しては「追加の文言が(中略)含まれるものとする」と付け加えられている。
炭素クレジット市場の専門家は、「充電ネットワーク」プロジェクトが、信頼性のある炭素クレジットやオフセットの基本的基準の1つを満たしていないのではないか疑っており、提案に自宅用充電器が具体的に含まれていることをことを批判している。顧客が自宅用に購入・設置・使用する充電器からリヴィアンが炭素クレジットを獲得しようと目論んでいるように読めるからだ。
リヴィアンの車両には、普通のコンセントで使える携帯型充電器が付属する。同社のWebサイトによると、壁面に設置するタイプのウォール・チャージャー(Wall Charger)の価格は800ドルだ。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で都市計画学を研究し、UCLA交通研究所(UCLA Institute for Transportation Studies)の所長代理を務めるアダム・ミラード=ボール教授は、顧客の大多数はそのような条項に気づかないだろうし、営業マンもその部分を強調することはないだろうと指摘する。
「もし誰かが充電器を買って、そこからの便益をリヴィアンが売ることで他者がもっと地球環境を汚染できるようになるというのでは、リヴィアンのマーケティングやブランディングの精神に反するし、EVを購入する多くの人の動機にも反すると思います」と、ミラード=ボール教授は語る。
リヴィアンは、高級EVピックアップトラック「R1T」や、高級SUV「R1S」の現代的なデザイン、パワー、豪華な装備により、顧客や自動車評論家から極めて高い評価を得ている。
リヴィアンがヴェラに提出した申請書には、充電設備の増設は「EVの充電・使用の増加を促進」し、その結果、ガソリンを燃料とする自動車やトラックがEVに置き換わり、温室効果ガスが削減されるとある。また、問題の充電ネットワークについては、7年間のプロジェクト期間の終わりには温室効果ガスの排出量を年間20万トン削減すると試算している。
ヴェラはプロジェクトの提案書をまだ審査中で、現時点では炭素クレジットの発行にも売却にも至っていない。
リヴィアンの再生可能エネルギー担当部長のアンドリュー・ピーターマンは、事前に用意された回答で、このプログラムはカーボンフリーな輸送部門への転換を加速する一助になり得ると述べ、弁解に回った。
「このようなプログラムによる代替収入源はクリーンな電気自動車への大規模な( …
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