KADOKAWA Technology Review
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デジタル格差と気候変動
「ネット不足」が拡大する
自然災害のリスク
Alyssa Schukar
気候変動/エネルギー Insider Online限定
How climate vulnerability and the digital divide are linked

デジタル格差と気候変動
「ネット不足」が拡大する
自然災害のリスク

ジョージタウン大学のモニカ・サンダース非常勤教授率いるアンディバイド・プロジェクトは、マイノリティや低所得者層が住むコミュニティがさらされている「連鎖的リスク」を理解するための調査に取り組んでいる。その1つが、インターネット回線速度と災害リスクとの関連を調べることだ。 by Colleen Hagerty2023.11.22

ワシントンD.C.の歴史的アフリカ系米国人地区、アナコスティアにあるフレデリック・ダグラス国定史跡の外は、Wi-Fiの電波が弱い。奴隷制度廃止運動の指導者がかつて暮らした住居は、賑やかな界隈の中で青々とした丘の上に静かに佇んでいる。そこは、雲で覆われた12月のある日の午後、モニカ・サンダースが最後に立ち寄った場所の1つだった。建物に向かって立ったサンダースは、Wi-Fi速度を測るためアイフォーン(iPhone)を持った腕を伸ばした。数値は1桁と2桁の間を行き来した後、最終的には下り速度が毎秒10.8メガビット(Mbps)、上り速度が毎秒8.23メガビットに落ち着いた。ダイヤルアップ接続よりはるかに速いことは間違いない。しかし、自治体による複数の無料Wi-Fiアクセス・スポットが地域内にあるにもかかわらず、この速度は米国連邦通信委員会の定めるブロードバンド・サービスの最低要件を満たしていない。

ジョージタウン大学法学部の非常勤教授であるサンダースが確認しているのは、Wi-Fi速度だけではない。インターネットの利用可能性、環境リスク、そして歴史的な人種的不平等が交差する、多数の指標の関連性を見出そうとしている。その調査結果は、同非常勤教授と同僚が2022年に立ち上げた非営利団体「アンディバイド・プロジェクト(Undivide Project)」が作成する報告書に加えられる予定だ。同団体はコミュニティのために、デジタル・ディバイド(情報格差。十分なインターネット・アクセスがある地域とない地域間の隔たり)のエビデンスと、この歪みの根本的な原因や関連する影響を文書化するのを支援するため、無償の調査を実施している。

これまでのところ、アナコスティアでの調査結果は、サンダースが米国中の低所得者層の過半数を占めるマイノリティ地区を歩き回って気づいたパターンに一致する。インターネット・アクセスの不足が、他の不平等を反映しているというものだ。人種差別や不十分なインフラ投資などの構造的な選択によって形成された地域では、住民は気候変動からの不均衡なリスクに直面する可能性がある。洪水脆弱性から災害警報を受け取る能力まで、あらゆるものに影響が及ぶからだ。

研究者はこれを「連鎖的リスク(カスケード・リスク)」と呼ぶとサンダース非常勤教授は言う。「インターネットの速度に関して起きていることを、どうすれば理解できるでしょうか」。「一部地域がサービスエリアから外れていることについての、法的、社会的、また地理的な理由」とは何だろうか。

Wi-Fiの数値を記録した後、サンダース非常勤教授は気温を確認する。8.3℃だ。そして、記録管理のために携帯電話を持ち上げ、その場所の写真を撮る。その日、アナコスティア駅の外や地元のチャーター・スクール、建設中の病院といった一連の場所ですでに何度も繰り返している作業だ。

マイノリティが多数を占める地域の多くで、長年にわたりローン利用を制限し、住宅価格を抑制してきた「レッドライニング(redlining)」のような排他的慣行は、米国全土で世代的格差を引き起こしている。レッドライニングは数十年前に禁止された。それでも、対象となっていた地域は依然として経済的に衰退していることが多く、公共サービスが資金不足に陥りやすい。サンダース非常勤教授は、デジタル・ディバイドもこうした政策が生み出した遺物だと考えている。酷暑や洪水の他、気候変動によって激化するその他の災害がもたらす脅威を乗り切る中で、地域社会は、同じ過去の政策が遺したさらなる困難に直面する可能性がある。

2021年に実施された最新のピュー研究所(Pew Research)の調査によると、米国の黒人およびヒスパニック系の成人は、白人成人に比べて自宅にブロードバンド接続を持っていないことが繰り返し明らかになっている。研究者はまた、木陰や下水設備といったインフラへの投資不足が一因であるとして、洪水リスクの高まりや気温上昇をレッドライニングの歴史に結び付けている。

インターネット・アクセスと災害からの回復力(レジリエンス)の間にも、関係性が立証されている。米国緊急事態管理庁の2022年国家準備報告書には、特定のコミュニティにおいて災害の深刻度に影響すると判明している社会的要因がいくつか挙げられており、そこには「テクノロジーへのアクセス」が含まれている。それがなければ、コミュニティは重要な警告、避難勧告、支援提供など他の災害関連情報を見逃す危険にさらされるのだ。メディア報道や、インターネット上の他のリソースへのアクセスについては言うまでもない。

アンディバイド・プロジェクトは、助成金と寄付金の組み合わせから資金を得ている。また、ジョージタウン大学や他いくつかの大学と覚書を交わしており、それによってサンダース非常勤教授は学生インターンを雇える。同プロジェクトがアナコスティアだけでなく、ワシントンD.C.やルイジアナ州の他の地区でまとめた報告書は、Webサイトで無料で公開されている。

アンディバイド・プロジェクトが収集した情報について、どのような選択をするのかは住民次第だ。しかし、サンダース非常勤教授は、災害状況に関する自身の理解を活かして次の段階についてのアドバイスを提供している。同非常勤教授はその他にも、政府の専門用語や要求を住民が分かりやすい用語に落とし込んだり、資金調達やインフラ開発などの直接的な支援を提供できる他の組織と住民をつないだりする手助けをしている。

サンダース非常勤教授は、住民の自立を最終的な目標に挙げている。新たに何が起ころうと、同非常勤教授の組織からの追加支援なく、住民が問題への対処や緩和を実行できるようになることを目指しているのだ。

ルイジアナ出身のサンダース非常勤教授は、世界を一変させる災害がどのようなものか、身をもって知っている。2005年にハリケーン「カトリーナ」が上陸したとき、ニューオーリンズの自宅でロースクール第1学期の準備をしていた。嵐によって1400人近くが死亡し、推定100万人が避難を余儀なくされ、被害額は1250億ドルになった。その体験がキャリアを形成した。直後の余波は第1学期の開始を遅らせ、その後の数年間、自身が興味をもって追求する仕事の種類に影響を与えた。同非常勤教授は、米上下両院の国土安全保障委員会で上級委員会顧問を務めた。そして、中小企業庁の災害対応に従事してハリケーン「マリア」を含む被害対策に取り組み、米国赤十字社の上級政策・法律顧問や、インターネット・インフラの継続的な発展に取り組む「インターネット・インフラストラクチャー連合(i2Coalition)」の政策責任者を務めた。

アンディバイド・プロジェクトはサンダース非常勤教授の、被災への理解と、ワシントンと災害関連政策がどのように機能するかについての知識が結び付いている。同非常勤教授は、外部の機関や組織が大きな約束を掲げてやって来ることに、地域住民がどのような想いを抱くのかを知っている。そうした団体が、資金や支援を最も必要としている地域社会に手を伸ばし損ねるという事例も何度か目にしてきた。

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