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サーバー設置でお湯代タダに、英スタートアップのユニークな試み
Luigi Avantaggiato
This UK startup engineered a clever way to reuse waste heat from cloud computing

サーバー設置でお湯代タダに、英スタートアップのユニークな試み

コンピューティングの際にサーバーから発生する熱を有効活用することを目指すユニークなスタートアップ企業が登場した。サーバーをデータセンターに置く代わりに家庭に設置し、サーバーの熱を利用して各家庭で使うお湯を沸かそうというのだ。 by Luigi Avantaggiato2023.08.21

コンピューターが生み出す熱を利用して無料の温水を供給するアイデアが生まれたのは、ハイテクな研究所ではなく、英国イングランド地方サリー州ゴダルミングの森にあるぼろぼろの作業場だった。

「コンピューティングの排熱を利用するアイデアは、しばらくの間、形になることなく宙に浮いていました」。48歳の物理学者、クリス・ジョーダンは説明する。「しかし、テクノロジーによって、ようやく十分実現可能になりました」。

「ここが、その熱導体のプロトタイプを作った場所です。この熱導体で、コンピューター・プロセッサーの熱を、水で満たされたシリンダーに伝えます」とジョーダンは言い、作業場のドアを開けて90リットルの電気ボイラーを見せてくれた。「最初のテストを実施し、うまくいくことがわかりました」。ジョーダンは、英国のスタートアップ企業であるヒータ(Heata)の共同創業者兼最高技術責任者(CTO)である。同社は、一般の人々の家のボイラーに取り付けられたコンピューターによる革新的なクラウド・ネットワークを作成した。

aerial view of neighborhood and park space in Godalming
英国サリー州ゴダルミングの景色。英国では400万人以上の人々が暖房費の負担に苦しんでいる。
Luigi Avantaggiato

作業場のボイラーの隣にあるコンピューターには、こんなステッカーが貼られている。「この強力なコンピューター・サーバーの演算処理によって発生した熱をシリンダー内の水に伝えています」。緑色のLEDライトはボイラーが稼働していることを示すと、ジョーダンは説明する。「このサーバーがデータを受け取って処理した結果として、平均的な家庭の約1日の使用量に当たる、4.8キロワット時相当のお湯に変えることができます」。

ヒータと契約すると、自宅にサーバーが設置され、Wi-Fiネットワークを介して他の家庭にある同様のサーバーと接続される。それらのサーバーはすべて、さまざまな企業から送られてくるデータを処理する。これらの企業はヒータのクラウド・コンピューティング・サービスに対し、お金を支払う。それぞれのサーバーの廃熱を利用してお湯をわかすことで、年間1トン相当の二酸化炭素の排出を防ぎ、住宅所有者は年間平均250ポンド(約4万6000円)の給湯費を節約できる。住民の13%が暖房費の負担に苦しんでいるこの地域では、かなりの節約額だ。中央政府機関イノベートUK(Inovate UK)の助成金を利用して実施しているヒータの試験運用は、サリー州で1年以上続いている。現在までに80台が設置されており、10月末までにさらに30台がボイラーと接続され、熱を供給する予定だ。

ヒータのクリス・ジョーダンCTOの作業場。
Luigi Avantaggiato
レーザーカッターで、クラウドコンピューティングの廃熱を利用するヒータユニットの断熱材を作成する。
Luigi Avantaggiato
ヒータの実験室のヒートパイプの束。
Luigi Avantaggiato
ヒータの実験室でサーバーの動作をテストする無線技師のデイブ。
Luigi Avantaggiato
組み立て前のヒータ・ユニットの部品。
Luigi Avantaggiato
サリー州のアパートにヒータのユニットを設置する機械技師のアンドリュー。ユニット使用率が75%で、英国の平均的な家庭の温水の約80%を供給できる。
Luigi Avantaggiato
住宅所有者のジェームス・ヘザーはヒータについて、「廃熱を利用するので、コンピューティングユニットを冷却するためのエネルギーも、お湯を加熱するためのエネルギーも必要ありません」と述べる。
Luigi Avantaggiato

ヒータのソリューションは「特にエレガントです」と、イノベートUKで副チャレンジ・ディレクターを務めるマイク・ピッツは言う。ピッツはこのソリューションを、「電力を2倍利用する」方法と呼んでいる。「急成長しているクラウド・コンピューティング産業にはサービスを提供し、家庭には温水を供給しています」。ヒータは現在、イノベートUKの「ネットゼロ・コホート(Net Zero Cohort)」に参加している。この取り組みは、二酸化炭素排出をゼロにする、または他のテクノロジーによる相殺によって実質ゼロにする経済の実現を推進しており、ヒータは重要な役割を果たすと考えられている。

ヒータのプロセスはシンプルでありながら、持続可能なデータセンター運営に向けた根本的な変化をもたらす。費用がかかりエネルギーを大量に消費するファンを使って冷却する代わりに、特許取得済みのサーマルブリッジを使ってプロセッサーの熱をボイラーのシェルに伝えてコンピューターを冷却するのだ。ヒータの仕組みは、エネルギーを大量に消費する場所にあるデータセンターで稼働するのではなく、コンピューティングの仲介役として機能する。ワークロードを受け取り、それを地方の家庭に分配して処理するのだ。データ処理を必要とする企業は、従来のコンピューティングに代わる持続可能な代替手段としてヒータのネットワークを利用している。

ヒータの仕組みについて、このシステムの設計者でもある共同創業者のマイク・ペイズリーは「拡散型(diffuse)データセンター」と表現する。多くのサーバーを収容するビルを冷やすのではなく、「熱を必要としている場所へデータ処理を移すのが、当社の持続可能性モデルです。捨てられている熱エネルギーを利用して、必要としている人々に無料で温水を提供することで、演算処理の問題を社会的・気候的な利益に変えるのです」と、ペイズリーは説明する。

ヒータの実験に参加した人々の年齢や世帯構成はさまざまだ。参加理由も、料金を節約する必要性や、環境への愛情、気候変動対策に貢献することへの関心、コンピューターが水を温める様子を見てみたいという興味など、多様である。

このアイデア発祥の地であるゴダルミングのウッド・ファームで、木々に囲まれるヒータのチーム。
Luigi Avantaggiato

サリーヒース市長であるヘレン・ウィットクロフトも、ヒータに満足する顧客の中の1人だ。「私たちは何年も前に、太陽光発電パネルを設置することで二酸化炭素排出量の削減を始めました」と、ウィットクロフト市長は言う。「最近、生産したエネルギーを貯蔵するためのバッテリーを購入しました。好奇心にも突き動かされました。コンピューターがお湯を沸かすなんて可能だとは思えませんでしたが、ちゃんと機能しています」。

筆者のルイジ・アヴァンタッジャートはイタリアのドキュメンタリー写真家。

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