世界覇者への道に暗雲、
欧州が中国製EVを調査へ
欧州委員会が中国の電気自動車(EV)メーカーに対する調査を開始すると発表した。欧州は中国政府からの不当な補助金がメーカーに流れ、競争が阻害されていると主張しており、調査の結果次第では自動車産業に大きな影響を与えそうだ。 by Zeyi Yang2023.10.11
ついに中国の電気自動車(EV)企業の勢いにブレーキがかかった。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が9月13日、欧州議会での施政方針演説で、欧州委員会が「中国製EVに対する中国の補助金支援が競争を阻害していないか調査」を始めると発表したのだ。
世界の自動車メーカーに深刻な影響を及ぼす可能性があるこの動きは、かなり前から準備が進められてきた。
中国は近年、自動車の主要輸出国となっているが、その主な理由にはEV生産における中国の大きなシェアの確立が挙げられる。かつて英国のスポーツカー・ブランドだったMGは、2005年から中国企業が所有・経営しているが、2023年上半期には欧州で2番目に市場シェアを伸ばした。一方、BYD(比亜迪)やニオ(Nio、蔚来汽車)といった他の中国企業も欧州市場で大きく 成長している。こうした中国企業の成長に対して、欧州連合(EU)の雇用全体で6%以上を占める域内自動車産業が警戒感を強めている。
ロンドンに本社を置く自動車産業コンサルタント企業、ジェイトー・ダイナミクス(JATO Dynamics)の上席アナリストであるフェリペ・ムニョスは、「今回の発表は今後、欧州が域内産業を保護するために検討することになる複数の措置の第一弾に過ぎないと私は考えます」と話す。
戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)の上級研究員で、最近発表された中国のEV輸出に関する報告書の共著者であるイラリア・マゾッコによると、今回の反補助金調査は競争上の問題だけでなく、政治的な問題だという。「欧州が中国依存を強め、脱炭素化の恩恵がEU内に留まらずに中国に流れているのではないか、といった懸念に応えるものだと思います」。
公式な調査の結果がどう転ぶにせよ、重要な局面で中国のEVビジネス拡大に打撃を与える可能性がある。MITテクノロジーレビューが2月に報じたように、中国車ブランドは史上初めて、中国国内で外国ブランドを打ち負かす可能性がある。だが、今回の調査や、EV分野での競争を目指す他の国々が今後実施する可能性がある調査によって、中国製EVのシェア拡大はEV普及が本格化する前に止まってしまう可能性は十分にある。フォン・デア・ライエン委員長の演説後わずか24時間の間に、欧州で最も好調な中国の自動車企業である上海汽車集団(SAIC)とBYDの株価は3%以上下落した。
変化する競争環境
今回の調査の背景には、中国製EVが欧州経済、特に世界をリードする欧州の自動車産業に与える影響への懸念がある。
欧州はこれまでの歴史で、中国への自動車輸出台数が輸入台数を上回っていたが、2022年12月に初めてその貿易黒字がマイナスに転じた。中国がEVとバッテリーのテクノロジーで優位に立てるようになり、中国ブランドとテスラのような欧米ブランドの両方が中国国内でのEV生産能力を増強した。そして、その製品の一部が欧州へ出荷・販売されるようになった。
中国の自動車産業アナリストで黄河科技学院の客員教授でもあるチャン・シャンによると、欧州は現在、中国製EVにとって理想的な輸出市場になっているという。欧州の人々は他地域の人々と比べてどちらかといえば裕福であり、EVの購入時には高額の補助金が受けられる。そしてその補助金が、海を越えて車両を運ぶための高額な輸送費を補填している。このことが、中国から輸出される自動車のほぼ半数が欧州市場で販売されている理由だとチャン客員教授は説明する。
中国がEV貿易でかなり有利なスタートを切っていることを考えると、欧州の自動車メーカーが技術面ですぐに追い付けるとは思えない。おそらく中国の優位は強くなるばかりだろう。
ベルリンを拠点とする研究者で、コンサルタント企業 …
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