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ブタの臓器利用で新展開、脳死患者に肝臓を3日間体外接続
eGenesis
​​A brain-dead man was attached to a gene-edited pig liver for three days

ブタの臓器利用で新展開、脳死患者に肝臓を3日間体外接続

脳死状態の患者に遺伝子編集されたブタの肝臓を接続し、血液を循環させる試験が米国で実施された。複数のバイオテック企業が異種移植を目指しているが、臓器の体外利用が先行して進む可能性がある。 by Antonio Regalado2024.01.23

米国の外科医エイブラハム・シェイクドは、これまでに2500件以上の肝臓移植を手掛けてきたという。だが2023年12月、シェイクド医師が監督するペンシルベニア大学のチームは、彼がこれまで一度も試みたことのないあることを実行した。

脳死した男性の血管を、ブタの肝臓を中央に取り付けた冷蔵庫大の機械に接続したのである。男性の血液は3日間にわたってこの機械に入り、ブタの肝臓を通過して体内に戻るという循環を続けた。

この「体外肝臓」は、感染症や中毒、アルコールの過剰摂取(これが最も一般的な原因である)などによって深刻な急性肝不全を発症した患者の命を助けるために設計された。ペンシルベニア大学とバイオテック企業のイージェネシス(eGenesis)は1月18日、この肝臓を使った初期試験の結果を発表した。

損傷した肝臓は、体内からの毒素の除去や栄養素の処理、タンパク質の合成といった働きができなくなるため、体外の肝臓に繋ぐことで時間を稼げる可能性がある。「肝臓を回復させる時間を作る、あるいは移植が可能になるまで維持する必要があります」(シェイクド医師)。

ペンシルバニア州フィラデルフィアで実施されたこの肝臓の試験は、ヒトとの適合性を高めるために遺伝子編集されたブタの臓器を使った最新の実験でもある。

今回の実験に先駆け、メリーランド大学では、末期の心臓病を抱えた2人の男性の心臓を、ユナイテッド・セラピューティクス(United Therapeutics)が開発したブタの心臓と入れ替える研究も実施されている。驚くべきことにどちらの男性もブタの心臓で生きることができたが、その期間は短く、移植から2カ月以内に2人とも亡くなっている。心臓が機能しなくなった理由について科学者は精査を続けているが、少なくとも2人目の患者の心臓には拒絶反応の兆候が見られた。

A pig donor for a liver, heart and kidney.
実験に使用されたユカタンミニブタ
EGENESIS

現在、一部の医師は、限られた時間だけ機能すればいいという点で、体外で保持されているブタの臓器を利用する方が成功しやすいのではないかと述べている。

「我々のやっていることが、我々の考え通りに機能しているとすれば、このテクノロジーは正式に臨床使用される初のブタの臓器となるでしょう」とシェイクド医師は話す。

イージェネシス、ユナイテッド、マカナ・セラピューティクス(Makana Therapeutics)といったブタの応用を進める企業の大目標は、長期にわたって患者が生きられるようにする心臓や腎臓、肺を開発することにある。そのためにどの企業もブタの遺伝子を編集し、ヒトの免疫系に動物組織が検知されないようにしている。そうしなければ、ヒトの免疫系が臓器を攻撃してしまうからだ。

だが、体外で肝臓を利用する方法なら長期的な臓器の拒絶問題の大半を回避できる。この臓器は、数年ではなく数日間機能すればいいからだ。ブタに実施した遺伝子編集は、短期間における深刻な拒絶反応から臓器を守れるようだ。「ここに複雑な免疫学は絡んできません。臓器を長期間使用するわけではないので、拒絶反応の問題はなくなります。どちらかといえば、これは1つの機械のようなものです」(シェイクド医師)。

これは、ヒトの肝臓移植が可能になるまで、または患者の肝臓が回復するまで(肝臓は驚異的な再生能力を持っている)、サポートするために体外臓器を利用するという考え方だ。鎮痛剤の過剰摂取、または長期にわたるアルコールの多量摂取によって深刻な急性肝不全を発症した患者は、この体外臓器の恩恵を受けられる可能性がある。

イージェネシスのマイク・カーティス最高経営責任者(CEO)によると、同社ではブタの腎臓と心臓の試験も実施しており、共同研究者がヒヒに対する移植を実施しているという。同社は最終的に、これらの臓器をヒトに移植する試みを実施したい考えだ。

だが、1年ほど前から今回の取り組みを始めたカーティスCEOは、体外肝臓が想定よりも早く製品化する可能性があることに気づいた。「誰もが『移植だ。移植をしなければならないのだ』といった感じでした。しかし我々は、これが投資対象として適していることを証明しなければなりません。また、肝臓は競合製品が少なく、切実なニーズがあります。これは移植ではなく、少し奇妙なことではありますが、ピースが次々に集まっていったのです」。

バイオテック企業にとっては、できるだけ早くヒトを対象とした製品の試験にこぎ着けることが極めて重要だ。提携先の大手製薬会社が出てくるのは、この段階になってからだからだ。ブタの臓器移植はこれまでまったく成功せず、投機的なテクノロジーという評価を受け続けてきた。 

「常に関心は向けられていますし、誰もが話し合いに参加します」とカーティスCEOは話す。「彼らは移植こそが未来だと考えていますが、実現するのは来年なのか、それとも100年後になるのかはわかりません」。

「心臓移植は大きな賭けなのです。一方で臓器の体外利用は、一般的に製品がどのように開発されるのか、といった話に近くなります。着実な改善を目指すことができるのです」。

イージェネシスのブタの臓器がヒトに用いられたのはこれが初めてだが、同社は今年、肝臓系の正式な治験を始めるための許可を申請する準備はできているという。これが承認された場合、遺伝子編集されたブタの正式な治験としては初となる(これまでの心臓移植は患者を助けるための1回限りの試みとされており、治験とは見なされていない)。

今回の実験は2023年12月22日、脳出血を起こした高齢男性の家族が、男性の体の研究利用に同意して始まった。この男性は脳死状態だったが、心臓は動いていた。実験中、ブタの肝臓はオーガンオックス(OrganOx)の機器に取り付けられた。この機器は通常、提供されたヒトの臓器の温度を保って血液を還流させることで、移植可能な時間を伸ばすために利用されているものだ。今回のケースでは、被験者の血管に繋いだチューブが機械に接続され、その状態が72時間続いた。

体外臓器の試みはこれまでにもあった。1990年代には、研究者が複数の患者に通常のブタから摘出した肝臓を接続したが、臓器は急速に劣化した。イージェネシスによると、同社が用いた遺伝子編集済みのユカタンミニブタの肝臓は、3日後も健康な状態を維持していたという。

心臓や腎臓とは異なり、ブタの肝臓はヒトに直接移植する臓器の候補としての妥当性はおそらく低いだろう。肝臓の役割のひとつはタンパク質、脂質、グルコースの大量生産だが、ブタの肝臓から作られるそれらの分子は、遺伝子編集した肝臓に対しても強力な免疫反応を引き起こす可能性が高い。

ニューヨーク大学ランゴーン移植研究所のアダム・グリースマー外科部長によると、ブタの肝臓に関しては体外利用が「おそらくは唯一の用途」だという。

 

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MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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