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世界を席巻した
「ゲーミフィケーション」
とは何だったのか?
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How gamification took over the world

世界を席巻した
「ゲーミフィケーション」
とは何だったのか?

ゲーミフィケーションは常に、ピクセルとポイントシステムで装飾された行動主義に過ぎなかった。なぜ私たちはそれに引っかかってしまったのだろうか。 by Bryan Gardiner2024.06.26

それは、すべてのビデオゲームプレイヤーがいつかの時点で思い浮かべる考えである。バーチャル世界でプレイしているときに入るこの奇妙な極度の集中状態を、どうにかして現実世界にも適用できたらどうなるだろう?

特に現実世界で困難な作業や退屈な作業をしている最中(たとえば小論文を書いているときや、確定申告書を作成しているとき)によく浮かんでしまうこの考えは、極めて合理的な、当然の疑問である。結局のところ、人生は難しい。ビデオゲームも同じく難しいが、一方で超人的な集中力と意思の持続を促進させることができるその方法には、ほとんど魔法のような何かがある。

一部の人にとっては、この現象がフロー状態や没入状態に対する興味につながる。その他の人にとっては、単にゲームをもっとプレイする理由でしかない。2000年代後半の少数のコンサルタント、スタートアップ企業のカリスマ、ゲームデザイナーたちにとっては、この現象が人間の真の潜在能力を解放するための鍵となった。

ゲームデザイナーのジェイン・マクゴニガルは、2010年のTEDトーク『Gaming Can Make a Better World(ゲームで築くより良い世界)』で、この没頭状態を「至福の生産性」と呼んだ。「『ワールド・オブ・ウォークラフト(World of Warcraft)』の平均的なゲーマーが週に22時間もプレイするのには理由があります」と、マクゴニガルは話した。「ゲームをプレイしているときの私たちは、一生懸命働いている方が、のんびりしていたりブラブラしていたりするよりも幸せだということを実感できるからです。私たちは人間として、難しい意味のある仕事をすることに最適化されていることを知っています。そしてゲーマーは、常に自ら進んで熱心に働こうとします」。

マクゴニガルの基本的な主張はこうだ。現実世界をビデオゲームのようにすることで、何百万人もの人々の至福の生産性を利用し、貧困、肥満、気候変動といった人類の最も厄介な問題のいくつかにその力を向けることができる。それを実現する方法の正確な詳細については少し曖昧だったが(もっとゲームをプレイする?)、彼女の目的は明確だった。「次の10年で私が挑戦する目標は、現実の生活で世界を救うことを、オンラインゲームで世界を救うのと同じくらい簡単にすることです」。

マクゴニガルの講演中に「ゲーミフィケーション」という言葉は出てこなかったが、その頃までには、ビッグアイデアのサーキット(TED、サウス・バイ・サウスウエスト、DICEなど)を追いかけている人や、「フォースクエア(Foursquare)」のような新しいアプリを使っている人なら誰でも、その基本的な考え方には馴染みがあった。ゲーム以外の活動にゲームデザインの要素や原則(ポイント、レベル、ミッション、バッジ、リーダーボード、強化ループなど)を適用することを指す「ゲーミフィケーション」は、教育、仕事、健康、フィットネス、その他数え切れないほどの生活の一部を変革する革命的な新しいツールとして、すでに売り出されていた。

「世界を救う」という潜在的なメリットを挙げることは、ビデオゲームのストーリーにこのテーマが多いことを考えれば、必然的なことだったのかもしれない。しかしそれはまた、ゲーミフィケーションの基本的な前提も示していた。つまり、現実世界は何らかの形で壊れているという考えだ。マクゴニガルや他のゲーミフィケーション推進者たちによれば、現実世界は十分に魅力的でやる気を起こさせるものではなく、私たちが幸せになれないことがあまりにも多いという。ゲーミフィケーションは、そのような設計上の欠陥を改善し、新しい現実へと設計し直すことを約束する。生活の中の退屈で、困難で、憂鬱な部分を、楽しく刺激的なものに変えるのだ。試験勉強、家事、デンタルフロス、運動、新しい言語の学習など、ゲーム化できるタスクは無限にあり、現実世界のすべてをよりよいものに変えてくれる。

今日、私たちは紛れもなくゲーム化された世界に生きている。スマートウォッチでカラフルなリングを閉じたり、達成バッジを獲得したりするために、立ち上がったり動き回ったりする。身体のバッテリーを充電するために瞑想したり睡眠をとったりする。より生産的になるためにバーチャルな木を植える。ソーシャルメディアサイトで「いいね」や「カルマ」を追いかけ、社会的なつながりを求めてスワイプする。しかし、私たちの生活にゲーム風の粗雑な要素は移植されたものの、ゲーミフィケーションが10年以上前に約束した、より希望に満ちた協力的な世界は、相変わらず遠い存在に思える。ゲーミフィケーションは私たちを退屈な仕事から解放し、潜在能力を最大限に引き出すどころか、強制、気晴らし、支配のための単なる新たな道具に過ぎないことが判明した。

ペテンゲーム

これは予想できない結果ではなかった。当初から、少数ではあるが積極的に発言するジャーナリストやゲームデザイナーたちが、ゲーミフィケーションの概念で見られるおとぎ話的な思考や、ビデオゲームへの安直な見識に対して、警告を発していた。その危険性の歴史を記録した最近の書籍『You've Been Played(あなたは遊ばれている)』の著者、エイドリアン・ホンもその一人だ。

「その概念が広まろうとしていた当時、私はいわゆる『シリアスなゲーム』を作っていた者として、ゲームが人々の行動を変え、世界を変える可能性があるということに関する主張の多くが、完全に誇張されたものであるとわかっていました」と、ホンは言う。

ホンは、短絡的な論客ではない。神経科学者として訓練を受けた後、ゲーム・デザインと開発にキャリアを転向したホンは、世界で最も人気のあるゲーム化されたフィットネスアプリの1つ、『ゾンビカーゲーム 生ける屍 (Zombies, Run!)』の共同クリエーターである。ゲームは、私たちのゲーム以外の生活に恩恵を与え、豊かにすることができると今でも信じているが、画一的なアプローチでは必ず失敗すると、ホンは言う。この理由から、ホンは、日常的な活動の上に出来合いのポイントやリーダーボード、ミッションを表面的に重ねることや、職場に入り込んだより強制的な形態のゲーミフィケーションの両方に断固として反対している。

皮肉なことに、ゲーミフィケーションへの批判を非常に難しくしているのは、このような幅広く多様な使われ方である。ホンが著書の中で指摘しているように、ゲーミフィケーションは常に高速で動く標的であり、その規模や範囲、技術は長年かけて劇的に変化してきた。今では出会い系アプリのユーザーにスワイプし続けるように促しているギャンブルの仕組みや、疲れ切ったウーバーのドラ …

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