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気候変動がボードゲームの題材に向いている理由
Allie Sullberg
These board games want you to beat climate change

気候変動がボードゲームの題材に向いている理由

気候変動に対処する差し迫った必要性は、楽しい夜のための娯楽には不向きだと思うかもしれない。だが、ベストセラー・ゲーム「カタン」の新バージョンなど、気候変動を取り上げるゲームが増えている。 by Casey Crownhart2024.06.17

この記事の3つのポイント
  1. 気候変動をテーマにしたボードゲームが増えている
  2. 「デイブレイク」は細部まで作り込まれているが難しい
  3. この夏発売の「カタン」の新作もまた気候変動を題材にしたゲームだ
summarized by Claude 3

ゲームナイトの夜。私はハリケーンが来ることを祈りながら、サイコロを振った。

サイコロは、カタカタとボードの上を転がって止まった。サイコロの目は、木の切り株の小さなアイコンだった。悪い知らせだ。私はアマゾンで森林破壊を引き起こしてしまった。これで決着がついた。私は気候変動を止めることに失敗した。少なくとも、このボードゲームでは。

気候変動に対処する差し迫った必要性は、楽しい夜のための娯楽には不向きだと思うかもしれない。しかし、ベストセラー・ゲーム「カタン」の新バージョンなど、気候変動を取り上げるゲームが増えている。

気候変動担当記者として、気候危機という課題をゲームがどう表現できるのか、私は興味があった。おそらくもっと重要なのは、そうしたゲームは一体全体楽しいのかどうか、ということだ。

私の調査は「デイブレイク(Daybreak)」から始まった。このボードゲームは、「パンデミック(Pandemic)」(感染症もまた、ゲームには扱いづらいことで有名なもう1つのテーマだ )のクリエーターで構成されるチームによって2023年後半にリリースされた。デイブレイクは、プレイヤー同士が協力して温暖化ガスの排出を削減し、災害を生き延びる、協力型ゲームである。グループが全体として勝者か敗者のどちらかになる。

箱を開けると、気弱な人にはこのゲームは向かないであろうことがすぐに分かった。中には、何百もの小さなボール紙と木製のピース、3種類のカードデッキ、そして驚くほど分厚いルールブックが入っている。準備を整えて、ルールを覚え、初めてプレイするまでに2時間以上かかった。

the components of the game Daybreak which has Game cards depicting Special Drawing Rights, Clean Electricity Plants, and Reforestation themed play cards
気候変動を止めることがテーマの協力型ボードゲーム『デイブレイク』
COURTESY OF CMYK

デイブレイクは細かいところまで非常によく作り込まれており、その細部の多くが正確であることに驚かされた。歩行可能な都市からメタン除去まで、あらゆるものを表すカードがあるだけでなく、それぞれのカードにはQRコードが印刷されており、プレイヤーがそれを使って詳しく学べるようになっている。

プレイヤーはターンごとに、テクノロジーを配置したり政策を実施したりして、気候汚染の削減を目指す。現実世界と同じように、温室効果ガスの排出は悪影響を及ぼす。ゲームに勝つには、温室効果ガスの排出量を実質ゼロ(排出されたものがすべて、森林や海洋、または直接空気回収(DAC)によって吸収できる状態)にまで削減する必要がある。しかし、世界の平均気温を2℃上昇させてしまったり、単純にターン数を使い果たしてしまったりすると、グループ全体が負けになる。

いつも気候変動のことばかり考えている記者にとって恥ずかしい展開が続き、私がプレーしたデイブレイクのほぼすべてのラウンドで、目標の達成は失敗に終わった。おまけに、楽しかったかどうかもよく分からない。確かに、この抽象的なパズルは魅力的でやりがいがあったし、負けた後は時計をチェックして、もう一度プレイする時間があるかどうか確認していた。しかし、すべてのピースを箱に戻すと、私は熱波と化石燃料に関するデマのことで頭をいっぱいにしながらベッドに入った。たぶん、このゲームが気候変動を少しうまく表現しすぎていたのだろう。

私は、クラシックゲームの新しいバージョンなら、もっと良いものになるのではないかと思った。「カタン(旧『カタンの開拓者たち』)」とその関連ゲームは、1995年にオリジナル版が発売されて以来、全世界で4500万本以上を売り上げてきた。このゲームの目的は、道路や植民地を建設し、文明を築くことだ。

2023年末、カタン・スタジオが、気候変動に焦点を当てたカタンの新しいバージョン「ニュー・エナジーズ」のリリースを予定していると発表した。今夏に発売されるこの新たなバージョンが採用する主要な前提は、オリジナルと同じものが維持されている。しかし今回は、プレイヤーが発電所も建設し、化石燃料か自然エネルギーのどちらかでエネルギーを生み出すことになる。化石燃料はより安価であり、迅速な拡張を可能にするが、公害を引き起こしてプレイヤーの社会に害を及ぼし、ゲームが早期に終了することさえある。

私はこのゲームを手にする前に、クリエイターの1人であるベンジャミン・テューバーに話を聞いた。テューバーは、亡き父クラウス・テューバー(初代『カタン』の立役者)と共にこのゲームを開発した人物だ。

テューバーにとって気候変動は、人が予想する以上にゲームと自然にかみ合うテーマである。「良いゲームは常にジレンマを中心にして展開されるものであると、私たちは信じています」と、テューバーは話した。重要なのは、問題を十分に単純化することである。ニュー・エナジーズの開発中、チームは何度も試行錯誤してこの課題に取り組んだ。しかしテューバーは、少なくとも多少は励みになるものにする必要があるとも考えている。「深刻なテーマにしていますが、あるいはもしかしたら、深刻なテーマにしているからこそ特に、つまらない夜を過ごさせることで人々を怖がらせることはできません」と、テューバーは言う。

ニュー・エナジーズでは、プレイヤーのそれぞれのエネルギー供給がどれだけ汚染されているかに関係なく、先に10点を獲得した方が勝ちとなる。しかし、プレイヤーが集団としてあまりに多くの化石燃料プラントを建設し、汚染がひどくなり過ぎた場合、ゲームは早期に終了する。その場合、自分たち自身のエネルギー供給をクリーンにすることに最も貢献した者が勝者となる。

それが、私が初めてこのゲームを試したときに起こったことだ。私はポイントで遅れをとっていたが、ライバルよりも多くの再生可能エネルギー発電所を建設していたため、最後は勝利を掴むことになった。

この比較的バラ色の結末が、私を葛藤させた。一方では、たとえそれが残念賞のようなものだとしても、私は喜んだ。

しかし他方、私はニュー・エナジーズがプレイヤーに送るメッセージについて心を悩ませていた。勝者に栄冠を与える単純なゲームの方が遊びやすいかもしれないが、それでは気候危機の複雑さや、それに対処することの差し迫った必要性を表せない。

私は、気候変動が私のゲーム棚で1つの場所を占めていることを嬉しく思う。そして、これらのゲームや他のゲームがオーディエンスを見つけ、人々がこの問題について考えるきっかけになることを願っている。しかし私は、ゲームナイトが近づくと他の選択肢に手を伸ばしたくなる衝動を受け入れるだろう。現実の世界ではピースをリセットして再挑戦することはできないという事実について、どうしても思い悩んでしまうからだ。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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