新型ARメガネ「スペクタクルズ」でようやく未来がやってきた
スナップ(Snap)が発表した新型ARメガネ「スペクタクルズ(Spectacles)」は驚くほどすばらしい。現実世界とデジタルを重ね合わせて見せる体験は、これまでさまざまなデバイスが約束してきたことをようやく実現している。 by Mat Honan2024.09.19
- この記事の3つのポイント
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- スナップの新型ARメガネ「スペクタクルズ」は現実世界に視覚情報を直接表示できる
- レゴ積み上げやARゴルフ、バーチャル生物との散歩など多彩な体験ができた
- 月額99ドルのデベロッパープログラムに参加すれば利用できる
スナップチャット(Snapchat)で有名な「スナップ(Snap)」が出した新型AR(拡張現実)メガネ「スペクタクルズ(Spectacles)」を紹介する前に、告白しておきたいことがある。 私には、風変わりな新しいものを顔に装着しては楽しんできた過去がある。2011年には、ソニーのヘッドマウント3Dメガネを試してそれなりに気に入っていたようだ。2013年の初めには、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で目にした、キックスターター(Kickstarter)のプロジェクト「オキュラス・リフト(Oculus Rift)」に夢中になった。その後、滑稽な見た目の「グーグル・グラス(Googe Glass)」を顔に装着して1年の大半を過ごし、それが未来だと考えていた。マイクロソフトの「ホロレンズ(HoloLens)」は? 大のお気に入りだ。グーグルの「カードボード(Cardboard)」は至極当然のように使っていたし、アップルの「ビジョン・プロ(Vision Pro)」はまさに画期的だと思った。
それはさておき、スナップは9月17日、スペクタクルズの新バージョンを発表した。このARメガネは、「マジック・リープ(Magic Leap)」やホロレンズ、あるいはグーグル・グラスのようなデバイスが何年も前に約束したことを、ついに実現できるかもしれない。数週間前に、最新のスペクタクルズを試す機会を得たが、かなりすばらしいものだった(冒頭に書いた通り、私の感想はあてにならないかもしれないが)。
発表されたスペクタクルズの第5世代モデルは、現実世界が見える透過型レンズに視覚情報やアプリケーションを直接表示でき、物体があたかも現実世界にあるかのように見せてくれる。インターフェイスは、スナップの新しいオペレーティングシステム「スナップOS(Snap OS)」によって動作する。一般的なVRゴーグルや空間コンピューティング・デバイスとは異なり、このARレンズは視界を遮ったり、カメラで視界を再現したりしない。視界を覆うスクリーンもない。その代わり、映像や画像は浮遊して周囲の世界に三次元で存在しているように見え、空中に浮かんでいたり、テーブルや床の上に静止したりしているように見える。
スナップのボビー・マーフィー最高技術責任者(CTO)は本誌に対し、「人々を孤立させたり、その体験から引き離したりするのではなく、周囲の人々との体験を向上させる、実世界に重ね合わせられたコンピューティング」を目指したと語る。
デモでは、レゴのパーツをテーブルの上に積み上げたり、ARゴルフボールを打って部屋の向こう側にあるカップに入れたり(トリプルボギー以上を叩いてしまった)、天井や壁に花やつるの絵を手で描いたり、見ているものについて質問してスナップのバーチャル人工知能(AI)チャットボットから回答を受け取ったりできた。ナイアンティック(Niantic)の小さな紫色の犬のようなバーチャル生物「ペリドット(Peridot)」もいて、部屋の中を私と一緒に歩き回ったり、外のバルコニーまでついてきたりした。
しかし、テーブルから顔を上げれば、そこに見えるのは普通の部屋だ。ゴルフボールは床の上にあり、バーチャル・ゴルフコースの上にあるわけではない。ペリドットは本物のバルコニーの手すりに乗っている。重要なポイントとして、それはつまり、部屋の中で周囲の人々とアイコンタクトを含めたコミュニケーションを維持できるということだ。
これらを実現するために、スナップは(デバイスの)フレームに多くのテクノロジーを詰め込んだ。内部には2つのプロセッサーが埋め込まれており、すべての演算処理はメガネの中で実行される。今回のデモでは、側面の冷却チャンバーが効果的に熱を放出していた。4つのカメラが周囲の世界を捉え、手の動きを追跡してジェスチャー操作も可能だ。映像や画像は、ピコ・プロジェクター(小型で携行可能なポータブル・プロジェクター)に似たマイクロ・プロジェクターで表示され、初期設定をほとんど必要とすることなく、立体的な映像や画像を目の前にうまく映し出すことができる。スナップによると、比較的小型で軽量なデバイス(226グラム)でありながら、3メートル離れた場所から100インチの大画面を見るような、高さと奥行き感のある視界を生み出すという。 さらに、外に出ると自動的に暗くなるため、家の中だけでなく屋外でも使いやすい。
操作は音声と手のジェスチャーの組み合わせででき、そのほとんどは私にとってごく自然にできるものだった。例えば、ピンチ操作でオブジェクトを選択し、あちこちにドラッグできる。AIチャットボットは、例えば、「遠くに見えるあの船は何ですか?」といった 自然言語での質問に答えられる。一部のやり取りにはスマートフォンが必要だが、ほとんどの場合は単独で使用できるスタンドアローン型のデバイスだ。
ただ、価格は安くない。スナップはARメガネを消費者に直接販売しておらず、「スペクタクルズ・デベロッパー・プログラム(Spectacles Developer Program)」のアカウントを契約し、最低1年間、月額99ドルを支払う必要がある。スナップは、誰がこのプラットフォーム向けの開発ができるかについて、非常にオープンに定義しているようだ。スナップはまた、マルチモーダル機能を活用するオープンAI(OpenAI)との新しいパートナーシップも発表した。実際に見たり聞いたり(あるいは言ったり)することに関する、現実世界の文脈を活用した体験を開発者が生み出すのに役立つ取り組みだという。
とはいえ、すべてが驚くほどうまく機能していた。三次元のオブジェクトは、それを配置した空間の中に存在し続け、見ている自分が動き回ってもそのまま残っていた。AIアシスタントは、私が尋ねたものをすべて正しく認識した。レゴのブロック同士がぶつかり合うなど、いくつかの不具合はあったが、全体としては優れた小型デバイスだった。
ただし、決して目立たないデザインではない。普通のメガネやサングラスと見間違える人はまずいないだろう。私の同僚は、このARメガネを「強化された3Dメガネ」と表現したが、まさにそのような印象だ。このARメガネは、私が今まで顔につけたコンピューターの中でもっとも滑稽なものではないものの、クールな気分になれるものでもない。写真は、このARメガネを試してみたときの私だ。結論は読者ご自身でお考えいただきたい。
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- マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
- MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。