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「奇跡の薬」エクソソーム、
効果不明も高額治療が横行
Kelsey Dake
生物工学/医療 Insider Online限定
Exosomes are touted as a trendy cure-all. We don’t know if they work.

「奇跡の薬」エクソソーム、
効果不明も高額治療が横行

美容クリニックで「若返りの泉」と謳われ、日本でも急速に広がるエクソソーム治療。抜け毛からアルツハイマーまで、あらゆる症状に効果があるとされるが、効果や安全性の科学的な検証は不十分だ。数千ドルの治療費を払えば、誰でも受けられるという「奇跡の薬」の実態に迫った。 by Jessica Hamzelou2024.11.25

この記事の3つのポイント
  1. 細胞から放出されるエクソソームのその働きや中身は完全には解明されていない
  2. 美容や健康に効果があるとされ、日本や韓国に続き欧米でも人気が高まっている
  3. 規制当局から承認されておらず、安全性や有効性を裏付ける根拠は不十分である
summarized by Claude 3

ソーシャルメディアの広告や美容雑誌の絶賛記事で、新たな万能薬が流行しているのを目にしたことがあるかもしれない。エクソソーム(Exosomes)は、抜け毛、肌の老化、ニキビ、湿疹、痛みを伴う疾患、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症、さらにはパーキンソン病やアルツハイマー病といった神経疾患にさえも効果がある、奇跡的な治療法として宣伝されている。もちろん、利用できるのは数千ドルもの代金を支払える場合に限るが。

ユーチューブに上がっているレビュー動画は「魔法のようだ!」と主張し、米国のあるクリニックは「エクソソーム治療で若返りの泉を開こう」と勧めている。英国のあるクリニックは「エクソソーム治療で皮膚の健康のあらゆる面が改善されます」とWebサイトに掲載し、「究極の最先端療法です」と謳う。あるエクソソーム企業の創業者はユーチューブの動画でエクソソーム粒子は「考え得るあらゆる炎症性疾患、つまりほとんどすべて」の治療に役立つと語っている。

しかし、これらの大げさな約束には大きな問題がある。エクソソームの働きや、そもそもエクソソームとは何なのかさえ、完全には理解されていないのだ。

エクソソームは細胞から放出される小さな粒子(細胞外小胞)であり、その中身は細胞の供給源(よく知られているのはヒトの臍帯、サケの精巣、植物のバラなど)や健康状態、ストレス状態によってかなり大きく異なる場合があることが分かっている。細胞生物学者たちでさえ、エクソソームの正確な中身や、その有益性または危険性について、一致する意見を見出せていない。

エクソソーム治療の世界を、一部の研究者たちは「無法地帯」に例えている。厳密な臨床試験が実施されていないため、この小さな謎の粒子を吹きかけたり、注射したりすることがどれくらい安全なのか、分かっていないのだ。人気が高まっている米国、英国、欧州において、規制当局はまだエクソソーム製品を承認していない。エクソソーム治療の人気が高い日本と韓国でも医療用として承認されたものはない。それでも、「エクソソームは、ほぼすべての症状に対する万能薬のようなものとして台頭しています」と、カリフォルニア大学アーバイン校の生命倫理学者・公衆衛生研究者であるリー・ターナー教授は言う。同教授は、未承認の健康製品を消費者向けに直接販売するマーケティングについて追跡調査している。「リスクはしばしば過小評価され、効果はしばしば過大評価されます」。

そのため、エクソソーム治療を提供するエステサロン、幹細胞クリニック、メディカルスパが増加する中、奇跡的な治療を期待して訪れる顧客が後を絶たない。エクソソームを使ったスキンケア製品の世界市場は、2023年に2億5600万ドルと評価されており、今後6年間で6億7400万ドルに成長すると予測されている。

謎の塊

専門的には「小胞(しょうほう)」と呼ばれるエクソソームは、細胞内で作られた後、放出される。エクソソームは長い間謎に包まれていた。「エクソソーム」という用語は、1980年代に登場した。それ以前、現在ではエクソソームと考えられている小さな粒子は、「血小板のゴミ(platelet dust)」や「マトリクス小胞」と呼ばれていた。

科学者たちは当初、エクソソームが細胞の「ゴミ袋」として機能し、老廃物を細胞外へ運び出していると考えていた。しかし、1996年の研究で、エクソソームが細胞間のシグナル伝達によるコミュニケーションを助ける働きをしている可能性が示された。例えば、死にかけている細胞が隣接する細胞にシグナルを送り、隣接細胞が自己防御のためにより多くの保護物質を生成する時間を与えることができると考えられる。一方、がん細胞はエクソソームを利用してシグナルを送り、腫瘍の成長を促進するために他の細胞を取り込む可能性がある。しかし、実際にどのようなシグナルが送られているかは、まだ完全には解明されていない。

もう1つの大きな謎は、エクソソームの中身が具体的に何であるのかという点だ。「質問する相手によって答えはさまざまです」。英国ケンブリッジ大学でエクソソームや類似の小胞を研究しているジェームズ・エドガー博士は言う。細胞生物学者たちは、エクソソームの中には細胞の代謝から生じたタンパク質、脂質、その他の分子が含まれていることでは一致している。一部の研究者はDNAやRNAも含まれていると考えているが、全員が同意しているわけではない。「それを証明することも、反証することも、非常に難しいのです」と同博士は言う。

解明が難しい理由の1つは、エクソソームが非常に小さく、幅が約70ナノメートル、つまり赤血球の100分の1程度しかないからである。エクソソームの最初の画像は1970年代に発表されているが、その形状がどうなっているのか、いまだにはっきりとは分かっていない。米国テキサス州ヒューストンにあるMDアンダーソンがんセンター(MD Anderson Cancer Center)のラグー・カルリ教授と研究チームは、エクソソームの形状について、例えば丸いのか、楕円形なのか、棒状なのかを解明しようとしている。

さらに複雑な問題は、何が引き金となって細胞からエクソソームが放出されるのか、細胞生物学者たちにも分かっていないことだ。ほとんどの細胞は比較的安定した周期でエクソソームを放出するが、大量に放出する細胞もあれば、比較的少量しか放出しない細胞もある。例えば、免疫細胞はがん細胞よりも多くのエクソソームを放出する。例えば、免疫細胞はがん細胞よりも多くのエクソソームを放出する。「その理由はよく分かっていません」とエドガー博士は言う。

「根本的に、私たちはまだ十分に理解していません」とエドガー博士は付け加える。「エクソソームが別の細胞に接触したとき、それが細胞内でどこに向かうのか(例えば細胞小器官なのか、別の細胞へのシグナルなのか)、またエクソソームがどのように細胞から放出されるのか、それらのプロセスがどのように進行するのかについて、基本的にはまったく分かっていないのです」。

エクソソーム人気の爆発

このような尽きることのない疑問にもかかわらず、エクソソームは美容や健康のための治療法として急速に人気が高まっている。カリフォルニア大学のターナー教授は長年にわたり、米国と海外両方の幹細胞クリニックを追跡調査してきた。同教授によると、2016年に米国の消費者向け治療を提供するクリニックを評価した際、エクソソームは「まったく登場していませんでした」。それが、2021年の同様の調査では、米国でエクソソーム治療を提供しているクリニックがおよそ100軒に達していた。

なぜエクソソームが突然注目されるようになったのかは不明である。「圧倒的な安全性や有効性のデータがあるわけではないようです」とターナー教授は述べ、「口コミや流行のような現象ではないかと思います。エクソソームは今、いわば『バズっている』状態なのです」と付け加えた。

市販されているエクソソームには多様な種類があり、胎盤や臍帯などのヒト細胞に由来したものから、植物、動物由来のものまである。米国ではエクソソームが「疾病の診断、治癒、緩和、治療、予防を使用目的とする場合」や、「人間または他の動物の身体の機能の構造に影響を及ぼすことが意図されている場合」に、医薬品や生物学的製剤として食品医薬局(FDA)による規制対象となる。

クリニックは、エクソソームを「化粧品」として使用することでこの規制を回避している。化粧品は法律上、「人体に塗布、散布、注入することにより、清潔化、美化、魅力増進または外観の変化を達成するもの」と定義されている。医師がエクソソームの健康上の効果について主張することは、許可されていない。実際のところ、皮膚疾患の治療を目的とするフケ防止シャンプーでさえも、FDAによって医薬品とみなされている。

デヴ・パテル医師は、英国ポーツマスで「アンチエイジングと肌の若返り」を掲げるクリニック「パーフェクト・スキン・ソリューションズ(Perfect Skin Solutions)」を経営し、エクソソーム治療を提供している。同医師は、この10年で、顧客の関心が単なる「若々しい印象を与える」注射治療(フィラーやボトックスなど)から、実際に肌を若返らせることができる治療へと移行していることに気づいたと述べている。また、肌に熱を与えて修復を促すレーザー治療の需要が急増しているこ …

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