米国務省、外国デマ監視部門を廃止 「言論の自由」理由に
ルコ・ルビオ米国務長官は、外国勢力によるデマ・キャンペーンを監視し対抗する機能を担う部署の廃止を発表した。「米国の言論を解放する」との主張だが、批判派はロシアや中国による巧妙化するプロパガンダへの対抗手段を失うリスクを指摘している。 by Eileen Guo2025.05.14
- この記事の3つのポイント
-
- マルコ・ルビオ米国務長官が外国勢力によるデマを監視する部署を廃止する方針を発表した
- 廃止されるのは対外国情報操作・干渉ハブで保守派の評論家たちに大勝利をもたらすことになる
- 米国務省は外国政府による巧妙さを増すデマ・キャンペーンに対抗する手段を失うことになる
マルコ・ルビオ米国務長官は、外国勢力によるデマを監視する国務省内の唯一の部署の廃止を発表した。MITテクノロジーレビューは政府関係者への取材に基づき、この計画を先行して報じていたが、それが裏付けられた形だ。
廃止されたのは、対外国情報操作・干渉(R/FIMI)ハブ。国務省の公共外交部に設置され、外国勢力によるデマ・キャンペーンを追跡し、対抗措置を講じる小規模な部署である。
物議を醸しているダレン・ビーティー公共外交・広報担当国務次官代理は、R/FIMIの廃止によって、国務省が保守的な意見を検閲していると主張してきた保守派の評論家たちに大勝利をもたらそうとしている。2024年末に創設されたR/FIMIは、同様の使命を持つ大規模な組織だったグローバル・エンゲージメント・センター(GEC)を再編したもの。GECは、その国際的な使命にもかかわらず、米国の保守派を検閲していると主張する保守党支持者から長らく批判されていた。2023年にイーロン・マスクはGECを、「米国政府の検閲とメディア操作における最悪の犯罪者」と呼び、「我々の民主主義に対する脅威」であると非難した。
R/FIMIの廃止により、米国務省は、ロシアやイラン、中国などの外国政府による、巧妙さを増す一方のデマ・キャンペーンに積極的に対抗する手段を失うことになる。
この記事のオリジナルが4月16日に公開された直後、R/FIMI職員は午前11時15分から始まるビーティー国務次官代理の会議へ参加するよう求めるメールを受け取った。会議ではR/FIMIの廃止が伝えられた。
その後、マルコ・ルビオ国務長官は、ザ・フェデラリスト(The Federalist)のブログ投稿で我々の報道内容を認めた。同メディアは昨年、言論の自由を侵害したとしてGECを提訴している。「かつてグローバル・エンゲージメント・センター(GEC)として知られていた組織を永久に廃止することで、米国の言論を解放するという大統領の約束を守ることに向け、国務省が重要な一歩を踏み出そうとしていることを発表でき、うれしく思います」。ルビオ国務長官はこう記している。また、ルビオ国務長官はユーチューブのインタビューで、第1次トランプ政権の高官であり、オルタナ右翼の考えを持っていると報じられていたマイク・ベンツに、「我々は国務省を通じて行なわれていた米国での政府主導の検閲を終わらせました」と語った。
検閲の主張
政府内外の保守派は長年にわたり、巨大テック企業に対して、保守的な意見を検閲していると非難してきた。そしてしばしば、そのような検閲を可能にしているとして、GECの責任を追求した。
GECは、オバマ政権時代の大統領令によって創設された対テロ戦略的コミュニケーションセンター(CSCC:Center for Strategic Counterterrorism Communications)にルーツを持つ。だが2016年、外国政府やテロ組織によるプロパガンダやデマとの闘いに任務を変え、GECとなった。GECは常に国際情報の領域に明確な焦点を当てていたが、組織の一部は予算が割り当てられ、米国内でも活動していた。昨年12月、GECは6100万ドルの予算の再承認を目指したが、共和党議員によって議会で阻止され、廃止された。阻止した共和党議員らは、米国の保守派に対する巨大テック企業による検閲をGECが支援している、と非難した。
R/FIMIも、外国勢力によるデマと闘うという同様の目的を持っていたが、規模はもっと小さく、この新設部署の予算は5190万ドルだった。職員の数も、GEC時代の125人から4月中旬までにわずか40人まで減っていた。今回の会議で職員は30日以内に休職となり、解雇されることが告げられた。
2025年1月の政権交代後、R/FIMIが本格始動することは一度もなかった。ビーティー国務次官代理の抜擢は物議を醸すものだった。彼は第1次トランプ政権時代にある白人ナショナリズム会議に出席したことでスピーチライターの職を解雇されたほか、1月6日の連邦議会襲撃はFBIが計画したものであると指摘し、台湾を中国から守る価値はないと発言した。そのビーティー国務次官代理が、残った数少ない職員に対し「ペンを置く」ように指示したと、ある国務省職員が話してくれた。つまり、仕事を止めろということだ。
現政権の「検閲に対抗し、言論の自由を回復する」という大統領令は、GECに対する保守派の非難を要約したかのように読める。
「偽情報」「デマ」「悪意ある情報」と闘うという名目の下、連邦政府は、公共の議論における重要な事柄について政府の好むシナリオを進める形で、すべての米国市民が持つ、憲法で保護された言論の自由を侵害した。 政府による言論の検閲は、自由社会において容認できない」。
2023年、保守系メディアのパーソナリティであるベン・シャピロが創設したザ・デイリー・ワイヤー(The Daily Wire)は、ザ・フェデラリストに続いてGECを提訴した。その主張によれば、GECは2つの非営利団体に資金を提供することで、同社が持つ合衆国憲法修正第1条の権利を侵害したという。その2つの非営利団体とは、ロンドンを拠点とする「グローバル・ディスインフォメーション・インデックス(GDI)」と、ニューヨークを拠点とする「ニュースガード(NewsGuard)」で、ザ・デイリー・ワイヤーのことを「信頼できない」「リスクが高い」および(または)(GDIによれば)外国勢力によるデマの影響を受けやすいと決めつけていた。両団体のそのような事業は、GECの資金提供を受けたものではなかった。訴訟ではさらに、この事業が「広告収入を奪い、報道と言論の流通を減らす」ことによる検閲に相当すると主張された。
2022年にはミズーリ州とルイジアナ州で、共和党所属の司法長官が、保守的な意見を検閲するようにソーシャル・ネットワークに圧力をかけているとそれぞれが主張する連邦機関の1つとして、GECの名前を挙げていた。この訴訟は最終的に最高裁まで持ち込まれ、憲法修正第1条違反はないと判断されたものの、下級裁判所ですでにGECの名前が被告のリストから削除されていた。GECのソーシャルメディア・プラットフォームとのやり取りが、「『外国勢力が使用するツールや手法』についてプラットフォームを教育する」以上のものであったという「証拠はない」という判決が下されたのだ。
利害
GEC、そしてR/FIMIは、保守派に対抗する「兵器」にされていると非難された団体を廃止するための、より広範なキャンペーンの一環として標的にされたのだ。
デマ(または検閲)産業複合体とも呼ばれているものに対し激しい非難をぶつけている保守派の評論家らは、米国国土安全保障省のサイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(CISA)のほか、選挙中のデマの流れに関する研究が広く引用されている著名な研究グループであるスタンフォード・インターネット観測所も標的にしてきた。
CISAのクリス・クレブス前所長は、4月9日付けの大統領覚書で個人的に標的にされた。一方、スタンフォード大学は、批判を受け、また数百万ドルの訴訟費用を考慮して、2024年の大統領選挙を前にスタンフォード・インターネット観測所を閉鎖した。
しかし、いくつもの団体が標的となったこの時期は、特にロシア、中国、イランに代表される外国勢力によるデマ・キャンペーンがますます巧妙化してきた時期だった。
ある推定によると、ロシアは対外影響力キャンペーンに年間15億ドルを費やしているという。イランの主要な対外プロパガンダ部門であるイラン・イスラム共和国放送は、2022年に12億6000万ドルの予算を有していた。また、2015年のある推定では、中国が外国人をターゲットにするメディアに対し、年間最大100億ドルもの予算を費やしているとの指摘がある。金額が年々大きくなっていることは、ほぼ間違いない。
2024年9月、米司法省はロシアの国営プロパガンダ機関であるテレビ局「RT(旧ロシア・トゥデイ)」の従業員2人を起訴した。あるメディア企業を通じて米国の視聴者に影響を与えることを目的とする1000万ドル規模のプロパガンダ計画に加担していたという容疑だ。このメディア企業は後に、保守派のテネット・メディアと特定された。
GECは、そのようなキャンペーンに対抗するための組織の1つだった。最近のプロジェクトの中には、ミームやディープフェイクを検出するAIモデルの開発や、ウクライナ戦争に反対するラテン・アメリカの世論に影響を与えようとするロシアのプロパガンダ活動を暴く取り組みも含まれていた。
公共外交部は法律の定めにより、議会から配分された100万ドル以上の資金を再割り当てする目的を示す15日前通知を、議会に提出しなければならない。その後、議会はそれに対応し、質問し、決定に異議を唱える時間が与えられている。しかし、政府機関を骨抜きにするようなこれまでの行政府の一方的な決定の実績から判断すると、議会がそうする可能性は低いだろう。
- 人気の記事ランキング
-
- Why Chinese manufacturers are going viral on TikTok 「ほぼエルメス」を工場直送 中国の下請け企業が ティックトックで反旗
- A long-abandoned US nuclear technology is making a comeback in China 中国でトリウム原子炉が稼働、見直される過去のアイデア
- Here’s why we need to start thinking of AI as “normal” AIは「普通」の技術、プリンストン大のつまらない提言の背景
- The US has approved CRISPR pigs for food CRISPR遺伝子編集ブタ、米FDAが承認 食肉として流通へ

- アイリーン・グオ [Eileen Guo]米国版 特集・調査担当上級記者
- 特集・調査担当の上級記者として、テクノロジー産業がどのように私たちの世界を形作っているのか、その過程でしばしば既存の不公正や不平等を定着させているのかをテーマに取材している。以前は、フリーランスの記者およびオーディオ・プロデューサーとして、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ナショナル・ジオグラフィック誌、ワイアードなどで活動していた。