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Webの発明者ティム・バーナーズ=リーがチューリング賞を受賞
Web’s Inventor Tim Berners-Lee Wins the Nobel Prize of Computing

Webの発明者ティム・バーナーズ=リーがチューリング賞を受賞

Webの発明者ティム・バーナーズ=リーがチューリング賞を受賞した。受賞に際してインタビューに応じ、Webのアクセスは人権であり、Webを再考する必要があると述べた。 by Tom Simonite2017.04.05

この記事を読めるようにした男が、コンピューター科学分野最高の賞を受賞した。

1989 年、物理学研究所のCERN(欧州原子核研究機構)のプログラマーだったティム・バーナーズ=リーは、インターネット経由でリンクされた文書やマルチメディアをコンピューターが公開し、アクセスできる仕組みを提案した。現在、世界はWebで動いているといってもよく、バーナーズ=リーは、コンピューター科学のノーベル賞に相当するACMチューリング賞を受賞した。バーナーズ=リーは、MIT Technology ReviewにWebの発明の過去と現在、未来について語った。

1989年当時、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)のもとになった仕事を始めたときに解決したかった問題は何だったのでしょうか?

私がCERNで働いていたとき、皆がありとあらゆる種類の素晴らしいコンピューターを持ち込むので、イライラさせられていました。それぞれのコンピューターには文書やマニュアル、ヘルプファイル等を整理する方法がありますが、すべて異なる方法だったのです。私は、これらのシステムすべてを何とかしてひとつの大きなメタシステムの一部にするとか、一部とみなされるようにできれば素晴らしいのではないか、と考えたのです。

私たちが最初にしたのは、電話帳としてCERNのWebサーバーを起動することでした。電話帳プログラムは以前メインフレーム上で実行されていて、多くの人がメインフレームにわざわざログオンして電話番号を調べていました。電話帳のWebサーバーを使うためにWebブラウザーをインストールする人がわずかに現れ、その後、CERNらしく高いエネルギーでCERN外部にまで広がり、飛躍的に拡散したのです。

ティム・バーナーズ=リーの経歴
  1. 1989年 「分散型ハイパーテキスト システム」を提案
  2. 1991年 最初の Webサイトがオンラインになる
  3. 1994年 Web の標準化団体WWWCを設立
  4. 2001年 コンピューターが解釈できるセマンティックWebの開発を呼びかける
  5. 2009年 Webアクセスを拡大するためにWWW財団を設立

Webは今や不可欠であり、多くの人々にとって毎日の個人的な生活や仕事の一部となっています。 今後は何に取り組むつもりですか?

そうですね、今後については人権としてお話しすることになります。Webは水ほど根本的ではありませんが、持っている人と持っていない人では、経済的、社会的な影響力に格差が生じます。つまり、持たざる者は圧倒的に不利な状況にあるのです。アフリカの村にいたとして、お金がないのでWeb にアクセスできない、アクセスできるが文字を読めないので使いこなせないことは、人権の問題です。

2009年にワールド・ワイド・ウェブ財団を立ち上げたとき、世界の20%がWebを利用すれば、残りの80%の人をなるべく早くWebに接続できるようにする、と指摘しました(国連は昨年11月、世界人口の47%がWebを利用していると発表した)。

今後について、Webは「再分散化」する必要があるとおっしゃっていますね。また、再分散化のテクノロジーを開発するコミュニティの一員でもあります。 この動きの背後には、どんな考え方があるのでしょうか?

1990年代後半、Webは信じられないほどの力をもたらすシステムだと、大いに盛り上がっていました。再分散化はWebが注目された理由の重要な部分でした。誰かに頼まなくても、コンピューターを手に入れ、ソフトウェアをインストールしてインターネットに接続すれば、ブログを立ち上げて意見を表明できるのです。多くの人が意見を表明することで大変なことが起きるとワクワクしたのです。現在、ウィキペディアやクラウド・ファンディングなど、当時の考えを受け継ぐサイトがある一方で、ソーシャル・ネットワークで一日中過ごす人も多くいます。ソーシャル・ネットワークは、Webに本来備わっている価値を損なっています。ユーザーはソーシャル・ネットワークに多くのエネルギーを注ぎ込み、すべての個人データを曝し、誰が友だちなのかをデータ化しています。ところが、そうして登録した情報が使えるのは、ソーシャル・ネットワークの中だけなのです。

私たちはワークショップを何度か開催し、MITのSolidプロジェクトのように研究者が関わるようになり、誰もが自分のデータを所有できる世界を実現しようとしています。自分が使っているすべてのアプリケーションで、自分が支配しているデータが何かわかる状態を想像してみてください。そういう世界こそ、これから私が関わりたい、ワクワクするような新しいWebの姿です。

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MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
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