米モンタナ州、
未承認治療法を解禁へ
医療ツーリズムの拠点に
米モンタナ州議会で、米国食品医薬品局(FDA)未承認の医薬品や治療法を利用できるようにする新法案が可決された。実験的治療の中心地になる可能性があるが、安全面や倫理面で懸念する声が上がっている。 by Jessica Hamzelou2025.05.20
- この記事の3つのポイント
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- モンタナ州で未実証の治療法を販売するクリニック開設を認める法案が可決された
- この法案により第1相臨床試験を経た州内製造の医薬品の販売が可能となる
- 支持者は個人の選択の自由を主張するが倫理学者らは安全性に懸念を示している
未実証の治療法を医療クリニックで販売することを認める法案が、米国モンタナ州で可決された。
この法律の下では、医師は実験的治療クリニックを開設するためのライセンスを申請し、米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けていない治療法を患者に推奨・販売できるようになる。州知事が署名すれば、十分に試験されていない医薬品の使用を認める法律として、全米で最も包括的なものとなる。
この法案により、モンタナ州で製造された医薬品で、かつ第1相臨床試験を経ている限り、州内での販売が可能となる。第1相臨床試験とは、新しい治療法が有害でないかを確認するために実施される、初期段階かつ通常は小規模なヒトでの試験。その薬剤が有効であるかどうかを評価するものではない。
この法案は4月29日に州議会を通過し、グレッグ・ジアンフォルテ州知事による署名が見込まれている。これは、モンタナ州における既存の「試用権(Right to Try)」法を基本的に拡張するものだ。元々の法律は末期患者に実験的な医薬品へのアクセスを許可することを目的としていたが、今回の新法案は、人間の寿命を延ばすことに関心を持つ長寿志向の人々によって起草され、ロビー活動が展開された。推進派には科学者や自由主義者、インフルエンサーなどが含まれている。
長寿を志向するこれらの人々は、モンタナ州が実験的な医薬品の使用を解禁するためのテストベッドとして機能することを望んでいる。「他のほとんどの州で採用されない理由はないと思います」。4月末にワシントンD.C.で開催されたイベントで講演したトッド・ホワイトは、集まった政策立案者や他の長寿に関心を持つ人々にこう語った。老化研究を専門とする研究機関の代表で、今回の法案の策定にも関わったホワイトはさらに、「試用権法の普及を後押しするために、連邦レベルで取り組めることがいくつかあります」と述べた。
法案の支持者たちは、自身の身体についての選択を個人に委ねる自由を認めるものだと主張している。同じイベントで、リッチモンド大学の生命倫理学者ジェシカ・フラニガン教授はこの方策について、自身は「楽観的である」と語った。「人々に医療上の自主性を取り戻そうとする試みは、誰によるものであれ、常にすばらしいことです」と彼女は述べた。
支持者たちは最終的に、この新法によって、人々が長寿に役立つ可能性のある未実証の薬を試せるようになり、米国人が海外に行かずとも実験的な治療法を容易に受けられるようになることを期待している。これにより、モンタナ州が医療ツーリズムの拠点になる可能性もある。
しかし、倫理学者や法学者の間ではこうした楽観論は共有されていない。ニューヨーク大学の生命倫理学者アリソン・ベイトマン=ハウス助教授は、「私は反対です」と述べた。彼女や他の研究者たちは、未実証の治療法を宣伝・販売する倫理性や、問題が発生した場合のリスクについて懸念を抱いている。
簡単に利用できる?
ヒトの老化に対する治療薬は、これまでに1つも承認されていない。長寿分野の関係者の中には、規制がそうした薬の開発を妨げてきたと考える者もいる。米国では、医薬品を販売する前に、その安全性と有効性の両方を示すことが連邦法で義務付けられている。この要件は、1960年代に起きたサリドマイド事件を受けて法制化された。つわりの治療薬を服用した女性たちが、重い障害を持つ子どもを出産した薬害事件である。それ以来、新薬の承認はFDAが担っている。
通常、新薬は一連のヒト臨床試験を経る。第1相試験では通常20人から100人のボランティアが参加し、その薬がヒトにとって安全かどうかが評価される。安全性が確認されれば、次に数百人、さらに数千人規模のボランティアを対象に、適切な投与量や有効性が検証される。薬が承認された後も、処方を受けた人々は副作用についてモニタリングされる。こうしたプロセス全体には非常に時間がかかり、10年以上を要することもある。自身の老化を意識している人々にとって、この長さは深刻な問題となる。
しかし「試用権」法の下では、末期患者に限り例外が認められている。この法律により、特定の患者は第1相臨床試験は終えているがFDAの承認を受けていない実験的治療を利用する申請が可能となる。
モンタナ州は2015年に初めて試用権法を可決した(連邦法としてはその3年後に成立した)。そして2023年にモンタナ州はこの法律を拡大し、末期患者だけでなく同州のすべての患者を対象に含めた。つまり、モンタナ州では理論上、誰でも第1相臨床試験しか経ていない薬を使用できる。
この改正は当時、長寿を志向する多くの人々に歓迎された。その中には、この改正措置の策定に関わった人々も含まれていた。
だが実際には、この試用権法の拡大は、当初の期待どおりには機能しなかった。「そのような薬を提供したいと考えるクリニックのための免許制度も、手続きも、登録制度も存在しませんでした」とホワイトは語る。「サービス提供者に規制上の明確な枠組みを与える、新たな法案が必要だったのです」。
新しい法律は、「クリニックがモンタナ州でどのように開業できるか」という点に対応していると語るのは、ワシントンD.C.でのイベントを主催した長寿イニシアチブ同盟(Alliance for Longevity Initiatives、略称A4LI)の創設者兼CEOであるディラン・リビングストンだ。彼は数年前、人間の老化と長寿に関する科学を推進するためのロビー団体としてA4LIを設立した。
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