KADOKAWA Technology Review
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群ドローンを一斉無力化、
米軍注目のマイクロ波兵器は
ミサイル防衛よりも高コスパ
Yoshi Sodeoka
ビジネス Insider Online限定
This giant microwave may change the future of war

群ドローンを一斉無力化、
米軍注目のマイクロ波兵器は
ミサイル防衛よりも高コスパ

安価なドローンの大群攻撃に、数百万ドルのミサイルで対抗するのは持続不可能——。防衛技術スタートアップのエピラス(Epirus)が、費用対効果に優れたマイクロ波による対ドローン兵器を開発し、米軍の関心を惹き付けている。米陸軍は8000万ドル超の購入契約を締結し、中東などでテストを始めた。 by Sam Dean2025.10.02

この記事の3つのポイント
  1. 米陸軍がエピラス社の対ドローン用マイクロ波兵器を総額8300万ドルで調達、実戦配備テストを開始
  2. 安価なドローン群による攻撃が軍事的脅威として急浮上、従来の高額ミサイル防衛では対応困難な状況
  3. 大規模生産と射程距離向上が今後の課題、ドローン戦術の進化に対応する技術開発競争が激化
summarized by Claude 3

想像してほしい。中国が数十万の自律型ドローンを空・海、そして水中に配備し、そのすべてが爆発弾頭や小型ミサイルを搭載している。それらの無数のマシーンが、台湾の軍事施設や近くの米軍基地に向かい群れをなして押し寄せ、数時間のうちに、たった一度の機械化された電撃戦によって、米国の太平洋軍が反撃を開始する前に圧倒してしまう。

マイケル・ベイ監督の新作映画のように聞こえるかもしれない。しかし、これは米陸軍の最高技術責任者(CTO)を夜も眠れなくさせるほど懸念しているシナリオなのである。

「声に出せば現実になってしまいそうなので、口するのもはばかられます」と、長年にわたり陸軍情報将校を務め、2023年に陸軍参謀総長配下のCTOに就任したアレックス・ミラーは言う。

たとえ第三次世界大戦が南シナ海で勃発しなかったとしても、世界中のすべての米軍施設はこれと同じ戦術に対して脆弱である。他の世界中のあらゆる国の軍隊も同様だ。安価なドローンの拡散は、どのような組織でもちょっとした資金があれば大量のドローンを集めて飛ばすことが可能になり、大規模な破壊を引き起こせることを意味する。高価なジェット機も、巨大なミサイル施設も不要なのだ。

米国にはドローンを撃ち落とすことができる精密なミサイルがあるものの、常に成功するわけではない。昨年、ヨルダン砂漠のある基地では、ドローン攻撃によって米兵3人が殺害され、数十人が負傷した。また、米国のミサイルは1発あたりのコストが標的よりも桁違いに高く、供給量に限界がある。1発あたり数十万ドル、あるいは数百万ドルもするミサイルで、数千ドルのドローンに対抗するのは、来年には1兆ドルに達するかもしれない防衛予算をもってしても、それほど長くは続けられない。

米軍は今、ソリューションを探し求めている。そして、早急に必要としている。米軍のすべての部門と多くの防衛テックのスタートアップは、ドローンを一斉に無力化することを約束する新兵器をテストしている。そのような新兵器には、昔の破城槌のように他のドローンに体当たりして破壊する特攻ドローンや、網を撃ち出してクアッドコプターのプロペラを絡め取るドローン、単純にドローンを空から撃ち落とす精密誘導式のガトリング砲、GPSジャマーや直接的なハッキングツールなどの電子的手法、そして標的の側面を溶かして穴を開けるレーザー兵器などがある。

マイクロ波装置もそのうちの1つだ。この装置は、数キロワットもの電力を放出してドローンの回路を破壊する高出力電子機器だ。まるで、残り物の料理を電子レンジで温めるときに外し忘れたアルミホイルのように、ドローンの回路を焼き切るのだ。

ここで、エピラス(Epirus)が登場する。

私は今年初め、カリフォルニア州トーランスにあるこの社員185人のスタートアップ、エピラスの本社を訪ねた際、同社の巨大なマイクロ波装置「Leonidas(レオニダス)」でその舞台裏を見ることができた。米陸軍はすでに、最先端の対ドローン兵器として、この装置に賭けている。陸軍は同社に対し、2023年初頭に6600万ドルの購入契約を締結し、昨年秋にはさらに1700万ドルの契約を追加した。現在は、中東と太平洋の米軍にこのシステムを少数配備し、テストを実施している(陸軍は中東のどこにこの装置を配備しているか詳しく触れようとしないが、5月初旬にフィリピンにおける実射テストの報告を公表している)。

エピラスが陸軍のために作り上げたLeonidasは、近くで見ると、回転台の上に取り付けられた、ガレージのドアほどの大きさの、厚さ約60センチメートルの金属の厚板のような姿をしている。背面のカバーを開けると、この厚板に数十個のマイクロ波増幅器ユニットが格子状にぎっしりと並んでいるのが見える。それぞれの増幅器は貸金庫ほどの大きさがあり、窒化ガリウム製のチップを中心に構築されている。窒化ガリウムは、一般的なシリコンよりもはるかに高い電圧と温度に耐えられる半導体だ。

Leonidasは、標準仕様の陸軍トラックで牽引可能なトレーラーの上に設置される。電源を入れると、エピラスのソフトウェアから指示を受けた格子状に並ぶ増幅器とアンテナが、発射する電磁波の波形をフェーズドアレイ技術を使って制御し、マイクロ波信号を正確に重ね合わせて、エネルギーを集束ビームに成形する。飛来する数千機のドローン1機1機に物理的に銃やパラボラアンテナを向ける必要なく、Leonidasはソフトウェアによって標的とするドローンをほぼ瞬時に切り替えることができる。

もちろん、これは魔法ではない。1つの装置配列で与えられるダメージの量と範囲には、現実的な限界がある。しかし、その全体的な効果は、電子機器に対する殺人光線である電磁パルス放射装置、あるいは軍事施設の周囲に防護バリアを作り出し、電気虫取り器で蚊の群れを焼き尽くすようにドローンを墜落させられるフォースフィールド(力場)のようなものと言えるかもしれない。

私は、Leonidas製造施設のフロアの非機密区画を歩いた。そこでは、ウェポニアリングに取り組むエンジニアの集団が、雑然と並ぶ外部からの電磁波を遮断し、内部の電磁波反射を吸収する小さな電波暗室(anechoic rooms)でテストをしていた。ウェポニアリングとは、期待する効果を達成するのに必要な爆薬やマイクロ波ビームなどの兵器の量を正確に算定することを示す軍事用語である。その中で、エンジニアたちは個々のマイクロ波ユニットをさまざまな商用・軍用ドローンに向けて発射し、波形や出力レベルの調整を繰り返しながら、それぞれのドローンを最大の効率で破壊できる信号を見つけようとしていた。

防音材で覆われた部屋の1つの中から配信されるライブビデオで、私は、クアッドコプター型のドローンがプロペラを回転させ、マイクロ波放射装置のスイッチが入れられると、瞬時に動きを止めるのを見た。最初に左前方のプロペラが止まり、それから残りのプロペラも停止した。Leonidasのビームを受けたドローンは爆発することなく、ただ落下する。

ミサイルの爆風やレーザーのジリジリと焼くような音に比べれば、大したことはないように見える。しかし、敵がよりコストのかかる攻撃方法を考案せざるを得なくさせ、ドローン編隊による攻撃の優位性を低下させられるかもしれない。また、純粋に電子的な、あるいは厳密に物理的な防衛システムの本質的な限界を回避できる可能性もある。そして、命を救うことにもつながるかもしれない。

エピラスのアンディ・ロウリー最高経営責任者(CEO)は、非常にエネルギッシュで、イリノイ州南部の訛りで早口に話す長身の男性だ。ロウリーCEOはためらうことなく、自社製品のことを得意げに話す。私の訪問中に同CEOが話してくれたように、Leonidasは、このマイクロ波装置の名前の由来となったスパルタ人のように、最後の抵抗戦を担う存在となることを目的としている。Leonidasの場合、相手となるのは無人航空機(UAV)の大群である。Leonidasシステムの実際の射程距離は秘密にされているが、同CEOによれば、陸軍は数キロメートル以内のドローンを確実に阻止できるソリューションを探しているという。「彼らは当社のシステムを最後の防衛ラインを担う存在とし、すり抜けてくるようなドローンをすべて仕留めたいと考えています」と同CEOは私に話した。

ロウリーCEOはさらに、「フォースフィールドを発明した」ことを世界に発表した今、焦点は大規模な製造になっていると付け加えた。ドローンの大群が本格的に押し寄せたり、大きな軍事力を持つ国が新たな戦争を始める決心をしたりする前に、Leonidasを大量生産する必要がある。つまり、ミラーCTOの悪夢のシナリオが現実になる前に、そうする必要があるのだ。

なぜマイクロ波なのか?

ミラーCTOは、武器化された小型ドローンの危険性が初めてレーダーに現れた時のことを、よく覚えている。ISIS(イスラム過激派組織)の戦闘員が市販のクアッドコプター「DJIファントム」の底部に手りゅう弾を括り付けているという報告が、イラクの主要都市を奪還するための軍事作戦「モスルの戦い」の最中の2016年後半に初めて表面化した時だ。「『ああ、まずいことになるだろう』と思いました。その時点でそれは、基本的に空を飛ぶIED(即席爆発物)なのですから」と同CTOは言う。

それ以来、着実に高まる危険性を、ミラーCTOは追跡してきた。マシンビジョン、人工知能(AI)協調ソフトウェア、特攻ドローン戦術の進歩は加速する一方だ。

その後のウクライナでの戦争は、安価なテクノロジーが戦争の姿を根本的に変えたことを世界に示した。小型爆弾を搭載できるように改造された安価な市販のドローンを、遠くのトラックや戦車、あるいは部隊に向けて操縦して直接突入させることで、甚大な被害をもたらす様子を、私たちはハイビジョン映像で目撃してきた。また、「徘徊型兵器」とも呼ばれる大型の特攻ドローンは、わずか数万ドルで製造することができる。それらを大量に一斉発射することで非武装の人や施設である「ソフトターゲット」を攻撃したり、膨大な数によってより高度な軍事防衛システムを圧倒したりすることも可能だ。

その結果、ミラーCTOや、ペンタゴン(米国防総省)とワシントンD.C.の広範囲な政策立案の関係者たちは、そのような兵器を防ぐ現在の米国の兵器はコストがかかりすぎており、脅威と真に釣り合うツールがあまりに不足していると考えている。

イエメンの例を見てみよう。この貧困国のフーシ派軍事組織は、過去10年にわたり絶え間なく攻撃にさらされてきた。にもかかわらず、この新しいローテク兵器を手にしたこの反乱組織は、過去18 …

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