動画生成は別次元、思ったより深刻だったAIの電力問題
AIによるエネルギー需要の増大についての特集記事を執筆するために多くの専門家に取材した結果、大きく3つの教訓を得ることができた。衝撃的だったのは、低品質の5秒間のビデオでさえ、大量のエネルギーを必要とすることだ。 by James O'Donnell2025.06.13
- この記事の3つのポイント
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- AIのエネルギー消費は初期段階だが将来的に増大する可能性がある
- AI動画の生成には膨大なエネルギーが必要とされている
- AIのエネルギー問題で重要なのは個人の二酸化炭素排出よりも企業の透明性だ
数カ月間にわたる取材と執筆の末、私たちはついに人工知能(AI)のエネルギーと排出量の負担に関する記事を公開するに至った。
当初、目標は単純そうに思えた。チャットボットとやり取りするたびにどれだけのエネルギーが使われるかを計算し、それを合計するのだ。そうすることで、AI企業のリーダーからホワイトハウスの職員に至るまですべての人が、AIを動かすために、かつてない量の電力を利用し、送電網を再構築したいと考えているのかを理解できると考えた。
もちろん、そう簡単な話ではなかった。何十人もの研究者と話した後、私たちはAIのエネルギー消費に関する一般的な理解には多くの穴があることに気づいた。この記事を読んでいただきたい。この記事には、AIに対する1回の問い合わせに使用されるエネルギーから、わずか3年後にAIに必要とされるエネルギー(米国の家庭の22%に電力を供給できる量であることがわかっている)まで、あらゆることを理解するのに役立つすばらしい図版が掲載されている。このプロジェクトを終えた私は、次3つの教訓を得た。
1. AIはまだ初期段階だ
私たちは、AIを使用したチャットボットの使用、画像生成、動画生成に必要なエネルギーの測定に注力した。しかし、これらの3つの用途は、AIの次なる方向性と比較すると、比較的小規模なものである。
多くのAI企業が現在構築している推論(reasoning)モデルはより長く思考し、より多くのエネルギーを使用する。ジョナサン・アイブ(アップルの元最高設計責任者)が携わっていたようなハードウェア・デバイス(オープンAIが65億ドルで買収)も開発中で、それらは会話の背景で常にAIが動作し続けるようになっている。こうした企業は、私たちに代わって行動するエージェントや私たちのデジタルクローンを設計しているのである。こうした動向はすべて、よりエネルギー集約型の未来を示唆している(繰り返しになるが、これはオープンAIなどがエネルギーに信じられないほどの金額を費やしている理由を説明するのに役立つ)。
しかし、AIがまだ初期段階にあるという事実は、別の観点を提起している。このAI革命の背後にあるモデル、チップ、冷却方法はすべて、ウィル・ダグラス・ヘブン(AI担当上級編集者)が説明しているように、時間とともにより効率的になる可能性がある。この未来は予め決められているわけではない。
2. AI動画は別次元
さまざまなモデルのエネルギー需要をテストして非常に衝撃的だったのは、低品質の5秒間のビデオでさえ、生成するのに大量のエネルギーを必要とすることだ。チャットボットがレシピに関する質問に答えるのに必要な量の4万2000倍であり、電子レンジを1時間以上動かすのに十分な量であった。エネルギーの消費を心配すべきタイプのAIがあるとすれば、それは動画生成である。
私たちが記事を公開したすぐ後に、グーグルは最新版の動画生成AIモデル「Veo(ベオ)」を公開した。人々はすぐに非常に印象的なクリップのコンピレーションを作成した(このクリップが私にとって最もショッキングだった)。記事で指摘したように、グーグルと、独自の動画生成ツール「Sora(ソラ)」を持つオープンAIは、自社のAIモデルが使用するエネルギーの具体的な数値の開示要求を拒否した。それでも、私たちの取材によると、VeoやSoraのような高解像度の動画生成AIモデルは、私たちがテストしたモデルよりもはるかに大きく、エネルギー需要も大きいと考えられる。
AI動画の使用が近い将来、防ぎようがないような量の二酸化炭素を排出するかどうかの鍵は、それがどのように使用され、どのように価格設定されるかにかかっていると思われる。先ほどリンクした例では、ティックトック(TikTok)風のコンテンツが多数示されているが、AI動画の作成が十分に安価であれば、ソーシャルビデオ・サイトはこの種のコンテンツであふれかえることになると予測される。
3. 個人による二酸化炭素排出よりも重要な問題がある
当然のことながら読者の多くは、自分の個人的な二酸化炭素排出という観点からこの話を考え、自分のAI使用が気候危機を助長しているのではないかと懸念するだろう。パニックにならないでほしい。チャットボットに旅行計画の助けを求めても、二酸化炭素の排出量が意味のある程度、増えることはないだろう。動画生成もそうかもしれない。しかし、何カ月も取材した結果、より重要な問題があると私は考えている。
例えば、ジェームス・テンプル(ネルギー担当上級編集者)による驚くべき記事で詳述されているように、税制優遇措置と容易な許可手続きによってデータセンターを誘致している米国で最も乾燥した州であるネバダ州で、帯水層から水が排出されていることを考えてみよう。あるいは、デビッド・ロットマン(本誌編集主幹)の記事によると、メタ(Meta)の最大のデータセンター・プロジェクトがルイジアナ州で、業界がクリーンエネルギーを使用すると約束しているにもかかわらず、天然ガスに依存していることを見てみよう。あるいは、原子力エネルギーがAI企業がしばしば主張するような特効薬ではないという事実もある。
AIの企業が利用できるエネルギー量とそれを提供するエネルギー源の種類を形作るグローバルな力がある。一方で、主要なAI企業は、これらの計画への公的支援を求めているにもかかわらず、現在および将来のエネルギー需要についてほとんど透明性がない。個人の二酸化炭素排出について考えることは良いことだ。しかし、私たちが話を聞いた気候研究者やエネルギー専門家が夜も眠れなくなっているのは、個人の排出というよりも、これらの他の要因であることを覚えておく必要がある。
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- ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。