危険行為を自動検出、
生成AIは建設現場の
命綱になるか?
米国の建設現場では年間1000人以上が業務中に転落などの事故で死亡している。こうした悲劇を防ぐため、生成AIを活用した安全監視システムが登場している。AIは本当に作業員の命を救えるのか。 by Andrew Rosenblum2025.07.04
- この記事の3つのポイント
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- 米国の建設現場では年間1000人以上の作業員が業務中に転落などで死亡している
- ドローンデプロイ社の生成AIを使った安全監視システムは95%の精度で違反を検出
- 専門家は誤認識率やハルシネーション問題を指摘し人間の監督も必要だと警告する
昨冬、米国マサチューセッツ州マーサズ・ヴィニヤードの低価格住宅の建設現場で、32歳の作業員、ホセ・ルイス・コジャグアゾ・クレスポが死亡した。2階のはしごから足を滑らせ、地下室まで転落してしまったのだ。米国では毎年1000人以上の建設作業員が業務中に命を落としており、建設業界は滑倒・つまずき・転落による死亡事故が最も多い危険な業界となっている。
「誰もが『安全が最優先だ』と口にします」。起業家のフィリップ・ロレンツォは、2025年4月にカリフォルニア大学バークレー校で開催された「コンストラクション・イノベーション・デイ2025」カンファレンスでの講演で語った。「しかし、社内では実際にはそれほど優先されていないこともあります。現場では手順が省略されることもあるのです。安全性と生産性の綱引きは、そこから始まります」。
こうしたショートカットや危険行為に対処するため、ロレンツォはサンフランシスコを拠点とする企業ドローンデプロイ(DroneDeploy)で、あるツールの開発に取り組んでいる。ドローンデプロイは、動画や画像をもとに作業の進捗をデジタルモデル化する「リアリティ・キャプチャー」と呼ばれるタイプのソフトウェアを提供している。 同社の「セーフティAI(Safty AI)」は、日々のリアリティ・キャプチャー画像を分析し、職業安全衛生局(OSHA)の規則に違反する状況を検出するもので、ロレンツォによるとその検出精度は95%に達するという。
つまり、このソフトウェアが安全上のリスクを検出した場合、それが正確かつOSHAの何らかの規制に抵触している確率は95%だということだ。2024年10月にリリースされたこのシステムは、現在米国内の数百の建設現場に導入されているほか、カナダ、英国、韓国、オーストラリアなど各国の建築基準に対応したバージョンも展開しているという。
近年、AIを活用した建設現場向けの安全ツールが、シリコンバレーや香港、そしてエルサレムなどから次々と登場している。セーフティAIもその一例だ。こうしたツールの多くは、低賃金国にいる「クリック作業員」と呼ばれる人々の手に支えられている。彼らは、はしごなどの重要な物体の画像にバウンディングボックスを手動で描き、アルゴリズムの訓練用の大量のデータにラベル付けをしている。
ロレンツォによれば、セーフティAIは安全規則違反の検出に生成AIを用いた最初のツールであるという。つまり、このアルゴリズムは単にはしごやヘルメットといった物体を認識するだけでなく、現場画像から「推論」をし、OSHA違反の有無を判断できる。これは、現在業界標準とされる物体検出よりも高度な解析手法であると彼は主張している。ただし、成功率が95%であることが示す通り、セーフティAIは万能でも全知でもない。経験豊富な安全管理者による監督が必要だ。
現実世界の視覚言語モデル
ロボットやAIが力を発揮するのは、工場の床や配送ターミナルのように制御された静的な環境に限られることが多い。一方で、建設現場は本質的に毎日少しずつ変化していく。
ロレンツォは、視覚言語モデル(VLM)と呼ばれる生成AIの一種を使い、現場監視のより優れた方法を構築したと考えている。VLMとは、視覚エンコーダーを備えた大規模言語モデル(LLM)のことで、現実世界の画像を「見る」ことができ、そのシーンで起きていることを分析できる。
顧客から明示的な許可を得て収集した数年分のリアリティ・キャプチャー画像を活用し、ロレンツォのチームは、OSHAの規則違反が写された数万枚の画像を含む「ゴールデン・データセット」を構築した。データは長年にわたって慎重に蓄積されたものであり、たとえ数十億ドル規模の巨大テック企業であっても、それを模倣して潰すことは不可能だと彼は考えている。
モデルの訓練を助けるために、ロレンツォは建設現場の安全専門家からなる少人数のチームを編成し、 …
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