ミリ波で地下20キロへ、
「掘削の再発明」で挑む
米スタートアップの地熱革命
従来のドリルで岩を削る代わりに、ミリ波エネルギーで溶かして掘り進む——。米スタートアップのクエイズ(Quaise)が挑む「掘削の再発明」は、地下20キロの超高温地熱を世界中で利用可能にする壮大な構想だ。 by Casey Crownhart2025.08.06
- この記事の3つのポイント
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- 米新興企業がミリ波を放射するジャイロトロンで岩石を溶解する掘削技術を開発
- 2026年に1メガワット級システムで試験を開始し、2028年の発電所稼働を目指す
- 専門家は実用化には多くの課題とコスト面での競争力確保が必要と指摘
エネルギービームが岩の板に命中すると、それはすぐに赤熱し始めた。破片が砕けて飛び散り、火花が跳ね返り、空気の突風にあおられて粉塵が舞い上がった。
改造されたトレーラーの中から、私は控えめな外観の箱型トラックに取り付けられたミリ波掘削リグが玄武岩のかけらに穴を開ける様子を、窓越しに覗き込んだ。穴が開くまでにかかった時間は2分もなかった。試験が終わり、私は米国テキサス州ヒューストンの猛暑の中、トレーラーの外に出た。砕けた岩の破片には、黒くガラス状の物質がリング状にこびりついていた。岩が溶けた場所を示す証拠だ。
地熱スタートアップ企業クエイズ(Quaise)が開発したこの岩石溶解掘削技術は、間違いなく型破りなものである。同社は、この技術が地熱エネルギーの可能性を解き放ち、あらゆる場所で利用できるようにする鍵になると期待している。
地熱発電は、適切な地質条件と、熱源が地表近くにある地域で最も効率よく機能する傾向がある。たとえば、アイスランドや米国西部は必要な条件がすべて整っているため、この常時利用可能な再生可能エネルギーのホットスポットとなっている。しかし、十分に深く掘削することができれば、理論的には地球上のあらゆる場所で地熱エネルギーを利用できる可能性がある。
ただ、それは簡単なことではない。地域によっては、効率的な発電に必要な高温に到達するには、地表から何キロメートルも掘り下げる必要がある。そのためには多くの場合、花崗岩のような非常に硬い岩盤を貫通しなければならない。
クエイズが提案するのは、硬いドリルビットで岩を削る従来の方法ではなく、新たな掘削手法である。同社は、高周波の電磁放射線を放出する装置「ジャイロトロン」の使用を計画している。現在この装置は、核融合発電業界でプラズマを1億℃まで加熱するために使われているが、クエイズはこれを使って岩を破砕し、溶融し、蒸発させようとしている。この方法を用いることで、理論的には、掘削速度と経済効率が向上し、世界中で地熱エネルギーへのアクセスが可能になる。
2018年の創業以来、クエイズは研究室の管理された環境下において、自社システムが機能することを実証してきた。そして現在では、ヒューストン本社の裏庭など半管理環境での試験も始めている。こうした取り組みは今、研究室の外へと広がりつつある。開発チームはジャイロトロン掘削技術を採石場へ持ち込み、実地環境での試験を始めた。
一部の専門家は、掘削技術の再発明はクエイズの首脳陣が期待するほどの単純さ、あるいはスピードでは進まないだろうと警告する。また同社は、今年中に大規模な資金調達を目指しているものの、経済の不透明感により投資の動きが鈍り、関税などの政策や政府支援の減少によって、米国の気候テック業界は政治的に厳しい状況に置かれている。クエイズの壮大な構想は、古くからある再生可能エネルギーの利用を加速させることを狙ったものだが、その構想がどこまで実現できるかは、この一か八かの資金調達にかかっているかもしれない。
突破する
クエイズの共同創業者でCEO補佐を務めるマシュー・ホウデによれば、地熱業界による大まかな計算では、地球内部には人類のエネルギー需要を数万年、あるいは数十万年にわたって満たせるだけのエネルギーが蓄えられているとされている。その後には、核融合のような他のエネルギー源が利用可能になっているはずだ。「ただし、私たちがそこまで長く生き延びていればの話ですが」とホウデCEO補佐は冗談めかして言う。
「私たちは、現在の掘削技術ですぐに高熱を利用できる場所に加えて、このタイプの地熱発電を広く展開できるようにしたいと考えています」とホウデCEO補佐は言う。そして、その鍵は十分に深く掘ることにあると付け加える。「もし掘削可能な深さを10〜20キロメートルまで拡張できれば、超高温の地熱を世界中で利用できるようになるのです」。
技術的には可能でも、そうした深さまで掘削した人類の事例はほとんどない。1970年に旧ソビエト連邦で始まったある研究プロジェクトでは、深さ12キロ超に到達したことがあるが、そのためには約20年の歳月と莫大な費用がかかった。
クエイ …
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