AI大国の終わりの始まりか
トランプ新方針が破壊する
米国のイノベーションの源泉
トランプ政権は7月23日、AI分野におけるリーダーシップを強化するための行動計画を発表した。しかし、同政権は、AI分野における世界的優位性を米国にもたらした基盤そのものを解体しようとしている。 by Asad Ramzanali2025.07.30
- この記事の3つのポイント
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- トランプ大統領がAI分野のリーダーシップ継続をテーマに行動計画を発表
- 現政権は研究開発費削減や反移民政策により米国のAI優位性を弱体化させている
- 米国がAIで世界をリードするには公的研究投資と移民支援、公正競争が必要である
トランプ大統領は7月23日、人工知能(AI)分野における米国のリーダーシップの継続をテーマとした演説の中で行動計画を発表し、3つの大統領令に署名した。
この「AI行動計画」には、イノベーションの加速、インフラの構築、国際外交・安全保障の主導という3本「柱」に分類された数十の提案が含まれている。提言の中には、たとえ漸進的であっても思慮深いものもあれば、明らかにイデオロギー的な目的を掲げるものもあるが、多くは、大手テック企業の利益を増大させるものである。しかし、この行動計画自体はあくまで推奨される行動を羅列したものに過ぎない。
一方、3つの大統領令は、3つの柱それぞれで提言された行動の一部を実行に移すためのものである。
これらの一連の政策提言が、トランプ大統領による1時間に及ぶ演説や壇上での大統領令署名などとともに華々しく発表された。(テック業界の財源を膨らませることになる)この発表はテック業界から歓迎された一方で、トランプ政権が現在、米国をAI分野の世界的リーダーへと押し上げた政策そのものを壊滅させようとしているという事実を覆い隠してしまった。
AI分野において米国が指導的立場を維持するには、それをもたらした要因を理解する必要がある。そこで、米国がこのリーダーシップを達成するのに役立った4つの具体的な長期公共政策を以下に示す。この利点を現政権は弱体化させようとしている。
連邦政府資金による研究開発への投資
「チャットGPT(ChatGPT)」など、近年米国企業から発表された生成AI製品は、産業界からの資金提供を受けた研究開発によって開発された。しかし、現在のAIを可能にした研究開発の大部分は実際、1950年代から国防総省や米国立科学財団(NSF)、米国航空宇宙局(NASA)、米国立衛生研究所などの連邦政府機関によって資金が提供されてきた。これには、1956年の世界初のAIプログラムや1961年の世界初のチャットボット、1970年代の最初の医師向けエキスパートシステムに加え、機械学習、ニューラル・ネットワーク、バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)、コンピュータービジョン、自然言語処理におけるブレークスルーが含まれる。
米国民が支払った税金はまた、AIシステムの基盤となるハードウェア、通信ネットワーク、その他の技術の進歩にも資金を提供してきた。公的研究資金は、現在のスマホに搭載されているリチウムイオン電池(バッテリー)、マイクロハードドライブ、液晶画面、GPS、無線周波数信号の圧縮などの開発を支えてきた。AIデータセンターで使用されるチップやインターネットそのものもその例外ではない。
トランプ政権は、長い年月をかけて築き上げてきた世界トップクラスのこうした研究実績をさらに発展させるのではなく、研究開発費を削減し、連邦政府機関で働く科学者を解雇し、一流研究大学への締め付けを強化している。23日に発表されたAI行動計画では、研究開発への投資が推奨されているが、現政権が提出した予算案では、国防分野以外の研究開発費の36%削減が提案されている。また、連邦政府の研究開発をより適切に調整・指導するための行動も提案されているが、調整だけで資金は増えない。
企業による研究開発投資がその差額を埋め合わせると主張する人もいる。しかし、企業は自社の利益になる研究をするものであり、必ずしも国益に資するわけではない。公的投資は、幅広い科学研究を可能にする。その中には、すぐに商業化につながるわけではない基礎研究も含まれる。そして、そのような基礎研究が数年後、あるいは数十年後に巨大な市場を開拓することもある。現在のAI産業がその好例である。
米国への移住と移民の支援
米国は長年にわたり、公的な研究開発投資に加え、世界で最も優秀な研究者やイノベーターを惹 …
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