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2025年の「気候テック企業10」、難航した選出の舞台裏
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How we picked promising climate tech companies in an especially unsettling year

2025年の「気候テック企業10」、難航した選出の舞台裏

MITテクノロジーレビューは、「気候テック企業10」の2025年版リストを発表した。トランプ政権による気候テックへの逆風が吹く中、3回目となる今年のリスト作成をどのように進めたのか、説明する。 by James Temple2025.10.18

この記事の3つのポイント
  1. MITテクノロジーレビューが2025年注目すべき気候テック企業10社を選定し発表した
  2. トランプ政権の気候政策撤回と関税政策により米国気候テック業界は不確実性が高まっている
  3. 中国や欧州企業への注目拡大とAIデータセンター需要が新たな機会を創出している
summarized by Claude 3

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、「気候テック企業」の2025年版の候補を検討し始めた際、あるジレンマに直面した。

「気候テック10 2025年版」特集ページ

第2次トランプ政権が気候変動の危険性を軽視し、クリーン・テクノロジーへの支援政策を撤回し、多くの業界のコストを押し上げサプライチェーンを混乱させる関税を制定している。このような非常に不確実性が高い時代に、成功する可能性のある気候テック企業をどのように選べば良いのだろうか?

我々はメディアとして、純粋に市場での成功を狙っている企業よりも、深刻化する気候変動の脅威に対処できる技術を開発している企業を特定することに重点を置いている。我々は自分たちを株式銘柄を選ぶ専門家や、金融アナリストだと考えているわけではないのだ。

しかし、それでも読者を惑わせたくはない。制御不能な政策の急変によって半年後に破産申請するようなスタートアップを取り上げて、読者を誤った方向に導きたくはない。

そこで我々は考え方を多少変える必要があった。

基本的な原則として、温室効果ガス排出量を大幅に削減する可能性を持つ企業、あるいは地域社会が熱波、干ばつ、その他の異常気象の危険性を有意に軽減するのに役立つ製品を提供する企業を探した。

資金調達、工場建設、製品提供によって実績を確立した企業を取り上げることを基本原則の一つとした。また、一般的に、再生可能エネルギーを副業として営んでいたとしても化石燃料の採掘と燃焼が中核事業の企業、強制労働やその他の問題のある慣行に関連する企業は除外した。

記者と寄稿者はまず、一次候補をスプレッドシートでリスト化した。そして、学者や投資家、その他の信頼できる情報源にさらなる候補を挙げてもらった。その後、さまざまな候補を調査し、議論し、リストに追加または削除し、さらに徹底的に調査と議論を重ねた。

2023年の最初の気候テック企業リストから、我々は地理的に多様な企業構成になるよう努めてきた。しかし、昨今の米国における気候テック分野特有の課題を考慮し、早い段階で下した決定の一つは、米国以外の国や地域で進展している企業をより熱心に、より広範囲に探すことだった。

ありがたいことに、多くの国は、高まる脅威に立ち向かう必要性と、それによる経済的な機会を信じ続けている。

特に中国は、エネルギー転換を経済と世界的影響力を拡大する道筋として捉えており、世界最大かつ最も革新的なクリーンテック企業のいくつかを生み出している。今年のリストにはその中から2社が含まれている。ナトリウムイオン電池企業のハイナ・バッテリー・テクノロジー(HiNa Battery Technology)と風力タービン大手のエンビジョン・エナジー(Envision Energy)である。

同様に、欧州連合(EU)のますます厳格な排出規制と排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード・システム)は、ヨーロッパ大陸全体でエネルギー、重工業、輸送部門のクリーン化の取り組みを加速させている。この地域から2つの有望な企業を取り上げた。ドイツの電動トラック企業トレイトン(Traton)とスウェーデンのクリーン・セメント製造企業セムビジョン(Cemvision)である。

また、特定の企業を米国の変化する状況から比較的無傷で抜け出すか、あるいはそれらから利益を得る可能性さえあると我々は判断した。特に、関税の引き上げが重要鉱物の輸入コストを押し上げるという事実は、米国最大のバッテリー材料リサイクル企業の一つであるレッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)のような企業にとって優位に働く可能性がある。

最後に、人工知能(AI)データセンター開発のブームが新しい電力生産への膨大な需要を生み出すことで、いくつかの有望な機会をもたらしている。選定した企業のうち数社は、地熱発電企業ファーボ・エナジー(Fervo Energy)や次世代原子力スタートアップ、カイロス・パワー(Kairos Power)を含む、カーボンフリー・エネルギー源を通じてこれらの需要を満たすのに有利な位置にある。さらに、レッドウッド・マテリアルズは、これらの需要に対応する、特定の地域で電力を自給・自足できる仕組みを構築するため新しくマイクログリッド事業部門を立ち上げた。

それでも、今年は世界に発表するのに十分な自信を持てるリストを作成することが特に難しかった。まさにそれこそが、選定していた企業数を、昨年までの15社から10社に絞り込むことにした主な理由である。

しかし、ビジネスの方法や生活様式のクリーン化において真の進歩を遂げており、今後高まる気候変動の課題に対処するのに適した位置にある、世界中の堅実な企業群を特定したと確信している。

読者にもそう思ってもらえることを願っている。

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MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
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