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大学を中退してまで開発した自律自動車の基幹部品、年内製造へ
知性を宿す機械 College Dropout Says He’s Cracked Self-Driving Cars’ Most Crucial Component

大学を中退してまで開発した自律自動車の基幹部品、年内製造へ

自動車が周囲の状況を画像化するセンサーであるライダーは、グーグル(ウェイモ)とウーバーの訴訟になるほど、自動運転でもっとも重要な基礎技術だ。スタートアップ企業のルミナーは、従来製品より小型で感度の高い製品を年内には製造しようとしている。 by Tom Simonite2017.04.17

サンフランシスコで先週、スタートアップ企業ルミナーのオースティン・ラッセルCEOに取材で面会した。話題がウーバーとアルファベット(グーグル)の自律自動車部門ウェイモ(Waymo)の激しい訴訟になると、22歳のラッセルCEOは笑いをこらえられない様子だった。

ウェイモによれば、社外秘で進めていたライダー(LIDER:レーザー光線で測距し、3Dで道路状況を把握するための自動運転の基礎技術)センサーの設計図等を、当時ウェイモに在職していたトップ・エンジニアが転職先の配車サービス、ウーバーに持ち出したという。訴訟の話になると、ラッセルCEOは笑顔になる。ルミナーが5年の歳月をかけて開発してきた新型ライダー・センサーを投入する市場が、大企業同士が争うほど整ってきたからだ。「この訴訟で、自律自動車の開発競争にライダーが必要なことははっきりしました」とラッセルはいう。

自律型移動手段を開発する企業の多くは、自動車自身による運転を安全に保ち、歩行者や自転車などの障害物を識別するのにライダー・センサーが欠かせないと考えている。しかし現行製品で最上級のセンサーはやたらと大きく、値段も非常に高く、需要が伸びる一方で供給量が追いついていない(「自律自動車の重要部品「ライダー」に盗用と在庫・性能不足問題」参照)。アルファベットもウーバーも、自律自動車の実現には性能のよい独自のセンサーをゼロから開発するつもりだ。ルミナーは、センサーを自社開発したくない(したくてもできない)自動車メーカーと取引できると考えている。

ラッセルは大学を卒業していない。投資家のピーター・ティールが企業家精神を盛り上げようと始めたプログラムで10万ドルの小切手を受け取ったのと引き換えに大学を中退したのだ。しかしラッセルは、子どもの頃から電子機器を改造したり組み立てたりするのが大好きで、市販される製品よりも遠くまで鮮明に見渡せる新型ライダー・センサーを設計できるという。

現在市場をリードしているのはベロダインの最高品質センサーだが、見た目は回転する缶コーヒーのようで、1台何万ドルもする。ベロダインによると、同社のセンサーは黒っぽい服を着た歩行者や道路などを暗闇でも認識でき、反射率(物体が瞬間的に光を反射する割合)は距離50mで10%だ。10日の発表会でルミナーは、自社のセンサーが歩行者などの物体を認識する様子を公開し、反射率は距離200mで10%だと述べた。

ミシガン州立大学のダニエル・モリス助教授は、ルミナーのセンサーが商品化されれば、自動車メーカーの興味を引くはずだという。「現在市場に出回るライダーの多くは、長距離を見渡せません。高速道路の運転中は、遠くまで見渡せる必要があります」」とモリス助教授はいう。時速約112kmで現行製品より100m遠くまで見渡せられれば、自律運転ソフトが障害物を認識して行動を起こすまでの時間を今より3秒早くできる。

ルミナーのセンサーが長距離に対応できるのは、自律自動車に現在使われている光より波長が長いからだ。光が目に入ったときの安全性を保ちつつ、高輝度で物体を認識できる、とラッセルCEOはいう。ルミナーのセンサーは特定の物体に向かってレーザー光を集中して照射できるが、レーザー光線の向きを細かく制御するために可動式の小型ミラー・システムを使っている。一方、ベロダイン等の企業が開発しているセンサーは、ルミナーとは異なり、一定のパターンで光を照射する回転式ミラーが使われている。

Luminar sensors integrated into the fenders of BMW and Tesla vehicles.
BMWとテスラの自動車のフェンダーに組み込まれたルミナーのセンサー

ルミナーはすでに3600万ドルの資金を提供されており、150人以上の従業員が、シリコンバレーにある昔の戦車修理施設を改装した約3万坪の敷地にある本社と、光工学や製造部門があるフロリダ州オーランドの施設で働いている。最初に販売される1万台のライダーの製造は、年内に始まる予定だ。ただし、ライダーを改良し、一気に増えた需要にありつこうとしているのはルミナーだけではない。

ベロダインはセンサーの製造施設を拡大し、可動部分のない「ソリッドステート」ライダーを開発中だ。ライバルのクアナジーは1億3500万ドルの資金を調達し、今年9月に自社開発のソリッドステート・ライダーを量産し、250ドルで販売予定だという。クアナジーやルミナーによると、自律自動車の開発企業は、両社のセンサーを使って、一般道で試験走行中だという。

クアナジーのロエ・エルダダ最高経営責任者(CEO)は、ルミナーには脅威を感じていないという。可動式ミラーには信頼性の問題が伴う、とエルダダCEOはいう。長い波長の光を使うには、インジウム・ガリウム砒素等、高価な半導体で視界を遮る反射部分を検出する必要がある。クアナジーでは、他のライダー・メーカーと同様、もっと安価なシリコンを使っている。

ラッセルCEOは、高価な材料を使っていても、センサーを独自開発しており、信号処理用の自社製のシリコンチップにセンサーがきっちりと搭載されていることなどから、ルミナーはセンサーの製造コストを低く維持できるという。ラッセルCEOはセンサーの販売価格を明かさなかったが、クアナジーが表明している250ドル以上で、クアナジー製のライダーより性能が高く、現在市場に出回っている製品と同様の価格帯になるとしている。

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トム サイモナイト [Tom Simonite]米国版 サンフランシスコ支局長
MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
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