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強化学習で家事手伝いロボ
ルンバ以上の大ヒットは確実

倉庫ロボのソフトウェアを書き換え、家事手伝いロボにできれば、ルンバ以上の大ヒット商品になることは間違いない。 by Will Knight2016.07.23

オープンAIはシリコンバレーにある秘密主義の非営利企業で、AIの基礎研究のために、テスラ創業者のイーロン・マスクなど大物の支援によって設立された。

オープンAIの研究チームは現在、倉庫管理の自動化製品を提供するフェッチ・ロボティクス製ロボットを再プログラミングして、ソフトウェアによる試行錯誤で家事のやり方を少しずつ学習させている。倉庫ロボットを家事ロボットに作り替えようとしているのだ。

この研究の背後にあるのは、ソフトウェアと機械学習のイノベーションは、ハードウェアのブレークスルーよりもロボット工学に新たな可能性をもたらす、との考えだ。フェッチ・ロボティクスが製造する倉庫用ロボットには、倉庫係について荷物を運んだり、カゴに入った荷物を自動で運搬したりするシステムがある。オープンAIは、自走式で3D奥行きセンサーと2Dレーザースキャナー、7自由度のロボットアームを備えるシステムを改造している。

Through reinforcement learning, this robot developed by Fetch Robotics is figuring out how to help around the house.
フェッチ・ロボティクスが改造したロボットは、強化学習を通じて家事の手伝い方を学んでいる

オープンAIは4月、カリフォルニア大学バークレー校でロボット学習を専門にするピーター・アビール准教授を招聘した。アビール准教授は、タオルを畳んだり冷蔵庫から物を取り出したりといった人の手でプログラミングすることが難しい動作を、深層強化学習と呼ばれる機械学習を使って、ロボットが完全に新しい技能として習得する方法を発表していた。同様の手法は、グーグルの子会社グーグル・デープマインド(本社英国)が、超人的レベルでコンピューターにゲームをプレイさせるために使っている。(“Google’s AI Masters Space Invaders”参照)

アビール准教授のロボットは、センサーの入力を受け取り、物理的動作を制御するニューラル・ネットワークで、課題をゼロから学習する。ニューラル・ネットワークはなるべく目標を達成できるように、たとえば特定の物体の握り方を学習する過程で何千回も握り方を試すなど、自動的にパラメータを調整する。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの強化学習の専門家マーク・ディーゼンロス講師は「この目標が達成できれば、経済的にも産業的にも利益があります。ルンバが床の掃除だけでなく、皿洗いやシャツのアイロンがけ、窓拭き、朝食の用意までしてくれることを想像してみてください」という。

ディーゼンロス講師は既成のロボットの利用はコスト削減のメリットがあるとし、「現在のところ、ロボットのボトルネックはソフトウェアだとされています。しかし、まったく別に、より優れたハードウェアが実質的に問題を改善する可能性もあります。ロボットに猿の足に似せた柔軟なマニピュレーターや弾力性のある足を持たせるアイデアの研究もあります」と述べた。

日本企業のファナックなど、一部のロボットメーカーは、馴染みのない物体のつかみ方など、新しい課題に素早く産業用ロボットを訓練する方法として、強化学習を試している。また、多くのロボットを並行動作させると、訓練時間も少なくて済む(“This Factory Robot Learns a New Job Overnight”参照)ため、グーグルのロボット研究チームも同様の手法を試している。

デルフト工科大学(オランダ)でロボット学習が専門のイエンス・コーバー助教授は「ロボットに自律学習の能力を与えることで、人の手によるプログラミングを不要にすることがロボット工学の未来に重要です。ロボットによる学習情報の共有は不可欠でしょう」という。

フェッチ・ロボティクス製ロボットのように、工場や倉庫で活躍するロボットが増えている一方で、家庭用のお手伝いロボットはまだSFの中の話だ。乱雑な家の中で皿を洗ったり洗濯物を畳んだりするような一見単純そうな作業も、機械には非常に難しい。従来の手法でプログラムされたロボットでは、見慣れない物体や照明のわずかな変化で混乱しやすいのだ。

秘密主義でもオープンなオープンAIとは?

オープンAIはイーロン・マスクと少数の有力な(資金力のある)シリコンバレー起業家によって創設された。その中には投資家のピーター・ティール(ペイパル創業者、元CEO)、Yコンビネーターのサム・アルトマン社長、Yコンビネーターの共同創業者ジェシカ・リビングストンが含まれる。オープンAIの後援者はプロジェクトの資金として10億ドルを出資しており、グーグルを退社して参加した著名なAI研究者イリヤ・サツケバーと、デジタル決済企業ストライプの創立メンバー、グレッグ・ブロックマンが責任者だ。

オープンAIは開発中のテクノロジーを独占しないことを約束しているが、マスクやシール、Yコンピューター関係者が後援する企業に利益をもたらすのも確実だ。

オープンAIはフェッチ・ロボティクス製のロボットで研究しているとは認めたが、それ以上のコメントは得られなかった。同社創業者のメロニー・ワイズCEOからはコメントを得られなかった(“Innovators Under 35: Melonee Wise”参照)。

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クレジット Image courtesy of fetch robotics
ウィル ナイト [Will Knight]米国版 AI担当上級編集者
MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。
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