KADOKAWA Technology Review
×
Innovators Under 35 Japan 2026 候補者募集開始!
「R1ほどの衝撃はない」、それでもディープシークV4が重要な理由
Leon Neal/Getty Images
Three reasons why DeepSeek’s new model matters

「R1ほどの衝撃はない」、それでもディープシークV4が重要な理由

中国のAI企業ディープシークが、新モデル「V4」を公開した。「R1」が世界を驚かせてから約1年あまり、今回のリリースにそれほどの衝撃はない。しかし最安値水準の価格設定、100万トークンを処理する新アーキテクチャ、そしてファーウェイチップへの対応は、AI業界に静かな変化をもたらす可能性がある。 by Caiwei Chen2026.04.27

この記事の3つのポイント
  1. DeepSeek V4は最高水準モデルと同等の性能をはるかに低コストで提供するオープン・モデルだ
  2. 新アーキテクチャにより100万トークンの長文脈処理を従来比10%のメモリで実現した
  3. ファーウェイ製チップへの対応を通じ、中国が独自AIインフラ構築へ踏み出す試金石となっている
summarized by Claude 3

中国の人工知能(AI)企業であるディープシーク(DeepSeek)は、4月24日、待望の新フラッグシップ・モデル「DeepSeek V4」のプレビューを公開した。特筆すべきは、このモデルが大量のテキストをより効率的に処理する新設計により、前世代と比べてはるかに長いプロンプトを扱える点である。ディープシークの従来モデルと同様、V4はオープン・モデルであり、誰でもダウンロード、利用、改変できる。

V4は、ディープシークが2025年1月に公開した推論(Reasoning)モデル「R1」以来、最も重要なリリースである。限られた計算資源で訓練されたR1は、その高い性能と効率性で世界のAI業界を驚かせ、ディープシークを無名の研究チームから一夜にして中国で最も知名度の高いAI企業の1つへと押し上げた。また、中国の他のAI企業によるオープンウェイト・モデル公開の波を引き起こす契機ともなった。

それ以降、ディープシークは比較的目立たない活動を続けてきた。しかし今月初め、オンライン版モデルに「エキスパート」モードと「フラッシュ」モードを追加し、V4のリリースを事実上予告したことで、これらのアップデートがより大きなリリースに向けた布石ではないか、との憶測を呼んだ。

同社は中国のAI分野における野望を象徴する存在となっているが、最先端のフロンティア・モデルへの本格的な復帰は、数カ月にわたる厳しい精査の後に実現した。その間、主要な人材の流出過去のモデル公開の遅延、そして米国と中国両政府からの監視の強化といった問題が続いていた。

では、V4はR1がもたらしたような衝撃をAI分野に与えるのだろうか。ほぼ間違いなく、そうはならないだろう。しかし、このリリースが重要である理由は大きく3つある。

1. オープン・モデルの新境地を切り開く

以前のR1と同様、ディープシークはV4の性能が最高水準のモデルに匹敵しながら、コストはその数分の一に抑えられると主張している。これは開発者やこの技術を利用する企業にとって朗報だ。フロンティアAIの能力を自分たちの条件で利用でき、コスト高騰を心配する必要がなくなるからだ。

新モデルは2つのバージョンで提供される。いずれもディープシークのWebサイトとアプリで利用可能で、開発者向けのAPIも公開されている。V4-Proはコーディングや複雑なエージェントタスク向けに構築された大型モデルで、V4-Flashは高速かつ低コストでの実行を目的とした小型バージョンだ。両バージョンとも推論モードを備えており、モデルがユーザーのプロンプトを丁寧に解析し、問題解決の各ステップを提示できる。

V4-Proの料金は入力トークン100万件あたり1.74ドル、出力トークン100万件あたり3.48ドルで、オープンAI(OpenAI)やアンソロピック(Anthropic)の同等モデルと比べて大幅に低い。V4-Flashはさらに安く、入力トークン100万件あたり約0.14ドル、出力トークン100万件あたり約0.28ドルと、トップクラスのモデルの中でも最安値水準となっている。これにより、アプリケーション開発の基盤として非常に魅力的な選択肢となるだろう。

性能面では、V4はR1から大幅な飛躍を遂げており、最新の主要AIモデルのほぼすべてに対して有力な代替となりそうだ。同社が公開したベンチマーク結果によると、DeepSeek V4-Proは主要なクローズド・モデルと競合し、アンソロピックのClaude-Opus-4.6(クロード・オーパス4.6)、オープンAIのGPT-5.4、グーグルのGemini-3.1(ジェミニ3.1)と同等の性能を示している。また、アリババ(Alibaba)のQwen-3.5(クウェン)やZ.aiのGLM-5.1といった他のオープン・モデルと比較しても、コーディング、数学、STEMの問題においてすべてを上回り、これまでに公開されたオープン・モデルの中で最強クラスの一つとなっている。

ディープシークによれば、V4-Proはエージェント型コーディングタスクのベンチマークでオープン・モデルの最上位に位置し、複数ステップの問題を解く能力を測る他のテストでも良好な成績を示しているという。同社が公開したベンチマーク結果によれば、文章生成能力と世界知識においても業界をリードしているとのことだ。

モデルと同時に公開された技術レポートの中で、ディープシークは経験豊富な開発者85人を対象とした社内調査の結果を公表した。90%以上がV4-Proをコーディングタスクにおけるモデルの第一候補に挙げている。

ディープシークは、Claude Code(クロード・コード)、OpenClaw(オープンクロー)、CodeBuddy(コードバディ)といった人気のエージェントフレームワーク向けにV4を特別に最適化したと述べている。

2. メモリ効率に関する新たなアプローチを実現する

V4の主要な革新の一つは、長大なコンテキストウィンドウ、すなわちモデルが一度に処理できるテキスト量だ。両バージョンとも100万トークンを処理でき、これは『指輪物語』全3巻と『ホビット』を合わせた分量を収められる規模となる。同社はこのコンテキストウィンドウのサイズをすべてのサービスのデフォルトとしており、GeminiやClaudeといったモデルの最先端バージョンが提供するものと同等だと述べている。

しかし重要なのは、ディープシークがこの飛躍を達成したという事実だけでなく、どのように達成したかという点だ。V4は同社の従来モデルに対して大幅なアーキテクチャの変更を加えており、特にアテンション機構において顕著だ。アテンション機構とは、AIモデルがプロンプトの各部分を残りの部分との関係において理解するための機能だ。プロンプトのテキストが長くなるにつれて、これらの比較処理のコストは大幅に増大し、アテンションは長いコンテキストを扱うモデルの主要なボトルネックの一つとなっている。

ディープシークの革新は、モデルが注目する対象をより選択的にした点にある。以前のすべてのテキストを等しく重要なものとして扱うのではなく、古い情報を圧縮して現時点で最も重要と思われる部分に集中しつつ、重要な詳細を見逃さないよう直近のテキストは完全な形で保持する仕組みだ。

ディープシークによれば、これにより長いコンテキストの使用コストが大幅に削減されるという。100万トークンのコンテキストにおいて、V4-Proが必要とする計算能力は前モデルV3.2のわずか27%であり、メモリ使用量は10%にまで削減される。V4-Flashではさらに削減幅が大きく、計算能力はわずか10%、メモリは7%で済む。実用的には、コードベース全体を読み込めるAIコーディングアシスタントや、長大なドキュメントのアーカイブを以前の内容を忘れることなく分析できるリサーチエージェントなど、膨大な量の資料を扱う必要があるツールの開発コストを低減できる可能性がある。

長いコンテキストウィンドウへのディープシークの関心はV4から始まったわけではない。過去1年半にわたり、同社はAIモデルが情報を「記憶」する方法に関する一連の論文を静かに発表し、AIモデルが現実的に扱える範囲を拡大するための圧縮技術や数学的手法を実験してきた。

3. エヌビディアからの脱却という困難な道への第一歩を踏み出す

V4は、ファーウェイ(Huawei)の「Ascend(アセンド)」など中国国産チップ向けに最適化されたディープシーク初のモデルだ。この動きにより、今回のリリースは中国の国産AI産業が米国の半導体大手エヌビディア(Nvidia)への依存を緩め始められるかどうかの試金石となっている。

これはある程度予想されていたことだ。ジ・インフォメーション(The Information)が今月初めに報じたところによると、ディープシークはエヌビディアやAMDといった米国の半導体メーカーにV4への事前アクセスを提供しなかった。新モデルのリリース前に半導体メーカーがサポートを最適化できるよう、事前アクセスを提供するのが一般的であるにもかかわらずだ。代わりに同社は、中国の半導体メーカーにのみ事前アクセスを提供したと報じられている。

ファーウェイは24日、Ascend 950シリーズをベースとしたAscendスーパーノード製品がDeepSeek V4をサポートすると発表した。これにより、DeepSeek V4の独自カスタマイズ版を自前で運用したい企業や個人は、ファーウェイのチップを容易に使用できるようになる。

ロイターはかつて、中国政府当局者がディープシークに訓練プロセスへのファーウェイチップの統合を勧めたと報じた。この圧力は中国の産業政策における広範なパターンに合致している。戦略的分野は国家の自立目標に沿うよう促され、時には事実上の義務化が行われる。しかしAIに関しては特別な緊迫感がある。2022年以降、米国の輸出規制により中国企業はエヌビディアの最高性能チップへのアクセスを遮断され、その後は中国市場向けに性能を落としたバージョンへのアクセスも制限された。北京の対応は、チップからソフトウェアフレームワーク、データセンターに至るまで、国産AIスタックの構築推進を加速させることだった。

中国当局は、データセンターや公共の計算プロジェクトに対して国産チップの使用を増やすよう求めていると報じられており、その手段には外国製チップの禁止調達割当、そしてエヌビディアのチップをファーウェイやカンブリコン(Cambricon)などの中国製代替品と組み合わせることを義務付ける要件が含まれるとされている。

しかし、エヌビディアの代替は単純にチップを交換するほど簡単ではない。エヌビディアの優位性はチップだけでなく、開発者が長年かけて構築してきたソフトウェアエコシステムにもある。ファーウェイのAscendチップへの移行は、モデルのコードを適応させ、ツールを再構築し、そのチップを中心に構築されたシステムが実用に耐えるほど安定していることを証明することを意味する。

明確にしておくと、ディープシークはエヌビディアを完全に脱却したわけではないようだ。同社の技術レポートによれば、モデルに何らかのタスクを実行させる際の推論には中国製チップを使用している。しかし、清華大学のコンピュータサイエンス教授リュウ・ジーユアンはMITテクノロジーレビューに対し、ディープシークはV4の訓練プロセスの一部のみを中国製チップに適応させたと見られると語った。レポートでは、長いコンテキストに関する主要な機能が国産チップに適応されているかどうかが明記されていないため、リュウ教授はV4の訓練が依然として主にエヌビディアのチップで行われた可能性があると述べている。この問題の政治的な繊細さを理由に匿名を条件に取材に応じた複数の情報筋は、中国製チップはエヌビディアのチップほどの性能にはまだ及ばないものの、訓練よりも推論に向いていると、MITテクノロジーレビューに語った。

ディープシークはまた、V4の将来的なコストをこのハードウェアシフトに結びつけている。同社によれば、ファーウェイのAscend 950スーパーノードが今年後半に本格的な出荷を開始した後、V4-Proの価格は大幅に下落する可能性があるという。

それが実現すれば、V4は中国が並行するAIインフラの構築に成功しつつあることを示す、初期の兆候となるかもしれない。

人気の記事ランキング
  1. It’s time to address the looming crisis in entry-level work. 「コーディングを学べ」もう通用せず、AIが若者の雇用を奪い始めた
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2026 「Innovators Under 35 Japan」2026年度候補者募集のお知らせ
  3. Anthropic’s Code with Claude showed off coding’s future—whether you like it or not 「Claudeに任せてしまおう」 たった1年で激変したソフトウェア開発
ツァイウェイ・チェン [Caiwei Chen]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューの中国担当記者として、グローバルなテクノロジー業界における中国に関するあらゆるトピックを取材。これまで、ワイアード(Wired)、プロトコル(Protocol)、サウスチャイナ・モーニング・ポスト (South China Morning Post)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World )などのメディアで、テクノロジー、インターネット、文化に関する記事を執筆してきた。ニューヨークのブルックリンを拠点に活動している。
▼Promotion
社会実装都市「ひろしま」の魅力に迫る ローカル ✕ イノベーション
MITテクノロジーレビューが選んだ、AIの10大潮流 [2026年版]

AIをめぐる喧騒の中で、本当に目を向けるべきものは何か。この問いに対する答えとして、MITテクノロジーレビューはAIの重要なアイデア、潮流、新たな進展を整理したリストを発表する。

特集ページへ
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る