KADOKAWA Technology Review
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Poll on Human Enhancement Shows Divided Public

「強化人間」の是非
米国民の5割以上は否定的

米国人の5~6割は、最新のバイオテクノロジーによって、人間を強化することに反対であることがわかった。 by David Ewing Duncan2016.07.29

脳の外科手術でマイクロチップを埋め込んで記憶力を高める。子どものDNAを編集して、病気につながる家系的突然変異を除去する。身長や頭のよさに関わる遺伝子を改変したり、筋肉が素早く収縮するように改良して我が子が本当に風のように速く走る。

いま現在はどれも不可能だが、一部の科学者や未来学者は、もともと病人やけが人を治療するための生物強化テクノロジーが、数十年以内には健康な人を強化するためにも利用できるようになり、社会的に受容するか決断することになる、と考えている。

今週、ピュー研究所(米国ワシントンDCに本部があるシンクタンク)は、米国の成人を対象に、生物学的に強化される心の準備ができているか尋ねた大規模なオンライン調査の結果を発表した。結論として、社会的な合意は形成されていない。

調査では、近い将来利用できそうな強化テクノロジーである、脳に埋め込んで認識能力を向上させるマイクロチップ、乳児が病気にかかるリスクを「大幅に減少させる」遺伝子編集、身体能力を大幅に向上させる人工血液の3つについて、4685人に不安があるかを尋ねた。

回答は概してネガティブだった。60%以上が新テクノロジーは「やや」または「非常に」不安だと答えた。また、同じ割合で、血液や脳に強化技術を使って欲しくないと答えた。子どものDNA強化とは意見は真っ二つに分かれた。50%トが反対で48%が賛成だ。おそらく、質問内容がテクノロジーを健康な子どもの改善ではなく、病気の治癒目的であると示されていたのが原因だ。

 

確かに、社会はバイオテクノロジーの進歩について、わずかにしか知らない。調査対象の約90%が、遺伝子編集について「ほとんど」あるいは「まったく」知らなかった。まだ初期段階である脳インプラントの研究について知っている人はさらに少なく、知っていたとしてもあまり深くは知らなかった。

しかも、最近のバイオテクノロジーの進歩について知っていることは、不安を抱かないこととは関係がなかった。金持ちだけがテクノロジーの恩恵を受けたり、強化人間は通常の人間に優越感を持ったりする警戒心があり、そもそもテクノロジーによる改善は道徳的に受け入れ難い、といった思いがあるのだ。

 

また調査では、信仰心の強い人ほど強化人間に否定的で、男性より女性はどのテクノロジーにも懐疑的だとわかった。また、遺伝子編集テクノロジーについて理解している人ほど、使用についても受容しやすい傾向があることもわかった。だが、急激ではなく段階的に変化が起こるほうが違和感がなく、生物強化装置のスイッチを入れたり切ったりできることを望んでいるようだ。

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デビッド・ユーイング・ダンカンは、テレビやラジオの特派員、プロデューサー、起業家であり、21言語に刊行され、数々の賞を受けたベストセラー9冊の著者です。アーク・フュージョンのキュレーター兼CEOであり、IDEOでは保健衛生担当の常勤戦略アドバイザーを務めています。米国のニュースサイト「デイリー・ビースト」のコラムニストで、米国のラジオ放送局NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)のトーク番組「バイオテック・ネーション」の支局長です。ニューヨーク・タイムズ紙やアトランティック誌、MIT Technology Review誌、フォーチュン誌、ワイアード誌等、多くのメディアで記事を書いています。NPRの番組「モーニング・エディション」のコメンテーターやABCの番組「ナイトライン」、「20/20」の特派員を務めていました。近刊書として「164歳になったとき:急進的寿命拡張の新科学(When I’m 164: The New Science of Radical Life Extension)」(未邦訳)や「実験人類の成功で何が起きるか( What Happens If It Succeeds and Experimental Man)」(未邦訳)がある。カリフォルニア大学バークレー校では、生命科学センターの創設者兼所長を務めています。
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