スタートアップの聖地で
深刻化する都市問題
解決のための3つの処方箋
日本でもスタートアップ企業による活性化に期待する地方都市は多い。しかし、いまや聖地となったサンフランシスコなどの米国のスタートアップ都市では、都市問題が深刻化している。トロント大学のリチャード・フロリダ教授の提言から学べることはあるはずだ。 by Richard Florida2017.07.04
1980年代、私はハイテク業界を対象とした地理学的研究チームの一員だった。その頃、都市近郊に主要ハイテク企業は1つもなかった。そうした企業はすべて郊外にあったのだ。インテルやアップルはシリコンバレーにあり、マイクロソフトはシアトル郊外にあった。ボストン郊外の環状線ルート128地区や、ノースカロライナのリサーチ・トライアングルにある企業キャンパスなどもそうだ。
ところが、今ではすべてが変わってしまった。2016年の米国におけるベンチャーキャピタルの投資額トップはサンフランシスコ大都市圏で、その額は234億ドルにも上る。シリコンバレーにおけるベンチャーキャピタル投資額の3倍以上だ。1980年代、ニューヨークではベンチャーキャピタルが出資するスタートアップ企業は実質的にゼロだった。しかし昨年は76億ドルとなり、サンフランシスコ同様にシリコンバレーの影を薄くしている。また、ボストンとケンブリッジは、ほぼ同額の60億ドルだった。ロサンゼルスは55億ドルを集めた。グーグルやアップル、マイクロソフト、フェイスブックらは郊外のキャンパスを維持し続けているものの、ベンチャーキャピタルの出資を受けたスタートアップ企業の半数以上が、今では密集した都市部に居を構えている。アマゾンの本社はシアトルのダウンタウンにあり、グーグルは最近、マンハッタンにある古いポート・オーソリティの建物を取得した。
ハイテクスタートアップ企業が都市に移ってきているのは、逆転現象ではなく歴史の修正である。ベンチャーキャピタルのアイコンであるポール・グレアムは2006年に「大きな力を持ちながら、シリコンバレーには大きな弱点がある」と述べている。1950年代から1960年代に作られたハイテク企業の「楽園」は、「今や巨大な駐車場だ」。「サンフランシスコやバークレーは素晴らしいが、そこから40マイル(64キロ)も離れている。シリコンバレーはスプロール(虫食い状態)化した郊外都市で、気の滅入る場所だ。気候は素晴らしく、同じくアメリカのスプロール化した他の大部分の都市に比べ、その点では明らかに優れている。しかし、スプロール現象が起きないように管理できている競合都市こそ、真の勝者になるだろう」。
現実はグレアムの言うとおりになった。都市部には多様性があり、創造的なエネルギーがあり、文化的な豊かさ、活気あるストリートライフ、そしてスタートアップ企業の才能あふれる人材を引きつける、新しいアイデアに対する開放性がある。都市部の工場や倉庫には、従業員にとって柔軟で再構成可能な職場空間がある。都市とスタートアップ企業はごく自然にマッチしているのだ。
長い …
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