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生命の再定義 A First-of-a-Kind Gene Therapy Cure Has Struggled to Find a Market

相次ぐ遺伝子療法の市場撤退、GSKがストリムベリスを売却へ

グラクソ・スミスクラインが、致死性の遺伝性疾患を完全に治癒する遺伝子治療薬ストリムベリスを売却する考えを明らかにした。ストリムベリス以外に承認された唯一の遺伝子治療薬グリベラも2017年4月に市場から撤退しており、今後の遺伝子療法の開発に影響を及ぼす可能性がある。 by Antonio Regalado2017.08.10

グラクソ・スミスクライン(GSK)が、あらゆる病において完全な治癒をもたらす初の遺伝子療法の処方薬であるストリムベリス(Strimvelis)を手放す考えであることが明らかになった。

2017年7月26日に公開した損益計算書のなかでグラクソ・スミスクラインは、希少疾患部門の売却を視野に入れていると発表した。同部門は2016年、免疫不全症を治療するストリムベリスの承認をヨーロッパで得て、遺伝子療法の歴史を切り開いたことで知られている。

ストリムベリスは、これまでに承認を受けた、たった2つ目の遺伝療法であり、明確かつ完全に患者を癒す最初の治療薬であった。

グラクソ・スミスクラインによるストリムベリスおよびその他2つの未承認の試験的遺伝子療法の売却は、少数の患者向けの極めて高額な遺伝子療法が市場を形成する難しさを改めて認識させることになった。

「当社はこの分野への投資に力を入れてきました。こうした患者に向けた治療の商業的な可能性を見い出してくれる人物がいると信じています」と、グラクソ・スミスクラインのスポークス・パーソンのマリー・アン・ラインは、発表の中で語っている。

ストリムベリスは、修正した遺伝子を使って、子供の骨髄を正常な状態に修復する遺伝子治療法だ。治療の対象とするADA-SCID(アデノシン・デアミナーゼ欠損による重症免疫不全症)は、誕生時から発症し、患者の免疫力を低下することで致命的な感染症に冒されやすくなる免疫性疾患である。

ストリムベリスは世界で最も高額な66万5000ドルという治療費に加えて、遺伝子療法では初めて、患者が治癒しなかった場合の返金保証に合意したことでも注目を集めた。

グラクソ・スミスクラインはストリムベリスが大きな収益を上げるとは決して考えてはいなかった。とはいえ、控えめな商業的な期待にも関わらず、成果は不十分なものだった。2016年の承認からおよそ1年後の2017年5月までに、ストリムベリスを使って治療をしたのは一度だけで、その後も他の患者の治療をしていないという。

ストリムベリスの販売を阻害している要因の一つは、商用の治療薬を探し求める代わりに、自分の子どもを新たな遺伝子療法の臨床試験に参加させる親たちの存在だ。そうした治療は、臨床試験の一部として無料で提供されるからだ(「ブレークスルー・テクノロジー10:遺伝子療法2.0」を参照)。

「ストリムベリスは第一世代の製品でした」と語るのは、F-プライム・キャピタル・パートナーズの投資家であり、英国のバイオ企業オーチャード・セラピューティックス(Orchard Therapeutics)の暫定最高経営責任者(CEO)であるアレックス・パスツール博士だ。「ですから、今回の件で、こうした医療分野や療法が否定されるようになるとは全く考えていません」。

パスツール博士は希少疾病の遺伝子療法の売り上げは、合計でもわずか年間1億ドルにすぎないだろうと述べている。グラクソ・スミスクラインは年間360億ドルを売り上げており、遺伝子療法とは別のところに売上を求めても不思議ではない。「これはクジラの背中のできもののようなものです」と博士は言う。「しかし、この財産は、他の誰かにとっては、とても興味深いものになるでしょう」。

希少疾患部門の売却は、グラクソ・スミスクラインのその他の遺伝子療法の開発にも影響を与える。それには、恐ろしい小児疾患の異染性白質ジストロフィーも含まれている。

ストリムベリス以外に承認された唯一の遺伝子療法だったグリベラは、メーカーのユニキュア(UniQure)が需要不足から販売を中止し、2017年4月に市場から撤退した。

 

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クレジット Photograph by Ben Stansall | Getty
アントニオ レガラード [Antonio Regalado]米国版 医学生物学担当上級編集者
MIT Technology Reviewの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるかについて追いかけ、記事を書いています。2011年7月にMIT Technology Reviewに参画する以前はブラジルのサンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス誌や他の刊行物向けに記事を書いていました。2000年から2009年にかけては、ウォールストリートジャーナルで科学記者を務め、後半は海外特派員を務めていました。
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