KADOKAWA Technology Review
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The Robot You Want Most Is Far from Reality

人工知能は掃除が苦手
お掃除ロボはルンバ止まり?

ハウスクリーニングロボが開発中。でも実現はかなり先になりそうだ。 by Andrew Rosenblum2016.08.10

ロボットが家の掃除をして、人間が掃除をしなくて済むようになるには、何が必要だろうか?

イーロン・マスクは6月に、市販ロボットを家庭用掃除機に変えるソフトウェアを開発することが非営利団体「オープンAIロボット工学研究所」の第一目標だと発表した。家事ロボットがあれば間違いなく人気になる。しかし、家事ロボットの実現は、ロボット工学の大きな課題だ。家事ロボットは家庭内の汚れの種類を分析し、部屋ごとに掃除の計画を策定して実行し、予想外の出来事にも対応しなければならない。

「掃除はロボット工学で考えてきた他のタスクとは異なります。従来考えていたのは物を操作するとか、場所から場所へと移すことでした」と、ワシントン大学のマヤ・カクマク助教授(コンピューター科学・工学)はいう。昨年カクマク助教授は全米科学財団の国家ロボット工学構想から3年間で40万ドルの助成金を得て、お掃除ロボットの研究をしている。

掃除ロボットの実現は、単に掃除機を持たせるだけでは足りないとカクマク助教授彼女は指摘した。

「掃除機の角度や、どれくらい押して圧力を掛けるのか、どれくらいの速さで動かすのか、どれくらい動かすのか、そして汚れに対する道具の位置確認も必要です」

また、ロボットはタイル張りのカウンタートップの湾曲にも平らな床にも掃除方法を調整し、特殊な汚れには正しい道具を選ばなければならない。たとえば、こぼれたジュースを吸い取るにはスポンジ、棚を拭くには羽ハタキ、シャワーから石鹸カスを落すには硬いブラシ、というように使い分けなければならない。

カクマク助教授が実現しようとしているのは、こういうことだ。そこでカクマク助教授の研究室では「実演によるプログラミング」と呼ばれる手法でロボットを訓練している。ロボットの視覚システムに掃除のやり方を研究者が見せると、機械がまねして学習するのだ。3年間の助成金が支給期間うちの最初の年の末ころ、カクマク助教授と研究室の大学院生は、ロボット向けのさまざまな講習会を開催し、色付きアクアリウムクリスタルを「実習用のゴミ」としてロボットを動かし、ほうきや羽ハタキなど、さまざまな掃除道具を使って、掃除のやり方を覚えさせた。人間の実演からロボットが掃除の動作を一般化し、掃除の前後にロボットが「汚れの状態」を正しく識別できるようにした。

認識と認知の計算モデルを研究するマサチューセッツ工科大学(MIT)のイルカー・ユルドゥルム研究員は、カクマク助教授の実演に感銘を受けたと述べた。しかし、さまざまな道具を使って複数の部屋の掃除を計画して実行できるロボットにするには、装置がその環境を完全に理解する必要があるだろうという。そうした自律的な決断ができる装置を作ることは、真の人工知能に向けた重要な進展になるだろう。

家庭用ロボットは、私たちの家がより機械に優しい家に再設計されない限り、本当に自律的にはなれないとカクマク助教授は考えている。たとえば、長い廊下には、ロボットの位置認識用のマーカーが必要かもしれない。また、家庭用ロボットがありふれた存在になるには、個々の家の違いに対応するため、エンドユーザーが操作できる必要もありそうだ。この目標に向かって、カクマク助教授は技術的素養のない人も扱えるように、ロボットをプログラミングする作業を簡単にするために取り組んでいる

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アンドリュー・ローゼンブラム [Andrew Rosenblum]米国版 ゲスト寄稿者
アンドリュー・ローゼンブラムは、MIT Technology Reviewのゲスト寄稿者で、ドローンや人工知能、セキュリティ、商用宇宙旅行についてポピュラー・サイエンス誌やワイヤード、フォーチュンなどにも寄稿しています。
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