「超キャッシュレス社会」を
制した最強の中国企業が
世界市場を攻略できない理由
もはや「現金はいらない」とまで言われる、急激なキャッシュレス化が進む中国。中国のスマホ決済で4割のシェアを占めるウィーチャット(WeChat)はグローバル市場を攻略しようとしているが、いまのところ大きな成功は得られていない。 by Emily Parker2017.09.06
米国の優れたテクノロジー企業の中には、中国に進出した会社も多い。だが、中国ではそれらの企業の強大な力が消えうせるようなのだ。アマゾンやアップル、ウーバーは、中国市場で鼻を折られた代表的な企業の例だ。中国で成功できないのは、政府による検閲や規制のせいにしたくなるかもしれない。では、逆のケース、つまり中国のスーパースター企業が米国でなかなか成功できないのはなぜだろうか。
毎月のアクティブユーザーが9億人以上もいる携帯電話メッセージ・支払いアプリである、テンセント(Tencent)の「ウィーチャット(WeChat)」はいい例だろう。中国を一度訪れた外国人は、この「神アプリ」が市場を完全に支配していることに畏敬の念すら覚えるものだ。人々はメッセージの送信からタクシーの手配、不動産の購入に至るまで、あらゆる場面でテンセントのアプリを使っている。ウィーチャットは、本人確認済みの公式ユーザーアカウントだけでも数百万を有する。著名ブランドから有名人、さらには病院までウィーチャットにアカウントを持っており、ウィーチャットのネットワークを使って携帯電話の支払いを受け付けている。多くの中国人にとって、ウィーチャットはお財布アプリであり、通信プラットフォームでもあるので、ウィーチャットなしの生活は想像できない。
2013年にテンセントは、ウィーチャットを米国で普及させるため、米国オフィスを開設することを発表した。母国市場で成功していたテンセントが次のステップとして海外での成長を求めたのは、当然のことだった。テンセントはこれを成長の好機と捉えていた。米国にもメッセージアプリはあったが、どれも市場を攻略してはいなかったからだ。ウィーチャットが米国市場を揺さぶる余地があるように思えたが、実際にそうはならなかった。現在、中国と関係のある人以外で、どれだけのアメリカ人がこのアプリの名前を知っているだろうか。
テンセントはウィーチャットの国際的な市場拡大についてコメントを拒否したが、思惑とは異なり、まだ世界的なアプリではないのは事実だろう。2013年にはテンセントはサッカー界のスター、リオネル・メッシの協力を得て、テレビとオンラインでブランドを宣伝した。だが、インドネシア、インド、ブラジルなどでの派手な広告攻勢も大きな成果にはつながらなかった。中国の国営通信、新華社の報道によると、ウィーチャットがメッセージアプリの第一選択肢となったマレーシア以外でのユーザーは、主に華僑だという。この報道でテンセントの創業者であるポニー・マは、海外進出が難しいことを認めている。ブルームバーグによれば、ウィーチャットはインドネシア、インド、ブラジルなどの主要市場において、iOSアプリのランキングトップ5に入っていない。
中国のインターネットに強力な検閲がかかっていることはよく知られており、ウィーチャットも例外ではない。このため、ウィーチャットが国際市場を拡大できるかどうかは、よく言っても「分からない」のだ。国際アカウントであっても、検閲対象となるコンテンツは中国国内ではブロックされる。しかし、米国でウィーチャットの人気が出ない一番の理由は、少なくとも現在のところは検閲ではないようだ。
実のところ、ウィーチャットが米国で直面するネットワーク効果の問題は、米国企業が中国で出会う状況と同じである。たとえば中国では現在、フェイスブックがブロックされており、そのことが間違いなくウィーチャットの成功に貢献している。もし中国でフェイスブックが許可されたとしても、すでにほとんどの人はウィーチャットを使っているのだ。もちろんフェイスブックとウィーチャットは別ものだが、極めて多くの中国人が使っているので、ウィーチャットの使い勝手はとてもいい。ユーザーのお気に入りのブランドや有名人も、友人や家族、同僚も、みんなウィーチャット上にいるのだ。フェイスブックが今から中国で同じようなネットワークを作り上げるのは、ほとんど不可能だ。
もっとも、ネットワーク効果は話の一部でしかない …
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