量子もつれを利用する「量子暗号」の新手法、中国の研究者が実証
原理的に完全な安全性を持つ「量子暗号」はこれまで、暗号化・復号化の鍵のやり取りにのみ量子的なプロセスを利用していた。しかし、中国の精華大学の研究者が「量子もつれ」を利用して、メッセージ自体を量子的なプロセスで送信する新たな手法の実証実験に成功した。 by Emerging Technology from the arXiv2017.11.06
1980年代、量子物理学者は量子力学の奇妙な法則を発見した。その法則に従えば、秘匿性を完全に確保しつつ、情報を宇宙のある地点から別の地点へ送信できるというのだ。この仕組みは「量子暗号」と呼ばれており、メッセージのセキュリティが物理法則そのものによって保証されるため、完璧な暗号であるという。
発見から数年のうちに、研究者は研究室で量子暗号の手法を実証した。今日では、スイスのジュネーブにあるIDクォンティック(ID Quantique)などの企業が、量子暗号の商業利用を実現しつつある。
ただ、量子暗号の全体的な仕組みはやや直感に反している。プライベートなメッセージを送信するのには量子力学は全く使わない。元のメッセージを暗号・復号化する際の1回限りの鍵として使用する乱数のセットである「ワンタイムパッド」と呼ばれるコードを、量子的なプロセスを使って送信するだけだ。その後、メッセージを暗号化して通常の通信経路で送信し、通常の方法で復号化する。こうした手法を「量子鍵配送」と呼ぶ。
ワンタイムパッドを用いて暗号化したメッセージは解読が不可能であることがコンピューター科学者に知られている。つまり、ワンタイムパッドが保証するセキュリティを実現できるかどうかは、秘匿性を完璧に確保してワンタイムパッドを送れるかどうかにかかっている。
ここで面白い疑問が生じる。量子力学を利用してワンタイムパッドを安全に送れるのなら、同じようにして元のメッセージを送信すればよいのではないだろうか。
清華大学(Tsinghua University)のウェイ・チャン准教授と同僚たちは、まさにこのことに取り組んでいる。新しい手法は「量子安全直接通信(quantum secure direct communication:QSDC)」と呼ばれており、チャン准教授のチームは同手法を500メートルの光ケーブルで初めて使用した。
これまでワンタイムパッドが使われていた理由は単純だ …
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