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労災隠しが横行か?
テスラ元従業員らが証言した
「未来の工場」の驚きの実態
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Tesla says its factory is safer—but it left injuries off the books

労災隠しが横行か?
テスラ元従業員らが証言した
「未来の工場」の驚きの実態

イノベーションの旗手ともてはやされるイーロン・マスク率いるテスラの自動車工場では、相次ぐ事故で混乱が起きていた。40人もの元従業員や同社関係者へ取材したリビール(Reveal)による調査報道を掲載する。なお、この報道をきっかけにカリフォルニア州当局はテスラに対して労働環境の調査を開始している。 by Alyssa Jeong Perry2018.05.24

X-Menに登場するキャラクターの名前を付けられた巨大な赤いロボットが自動車部品を空中に持ち上げ、従業員がアルミ製の車体に黒いタイヤを取り付けている。フォークリフトや牽引車が、灰色に塗装されたフロアを勢いよく進む。

歩行者用通路とは色調に差があるとはいえ、カリフォルニア州フリーモントにあるテスラ(Tesla)の電気自動車工場の床は灰色一色だ。

工場では深刻な衝突事故が起きており、明確に認識できる歩行者通路がないことを憂慮した総合組み立てラインの当時の安全専任者は、危険を示す警告色として従来から使われてきた黄色を使うべきだ、と上司に進言した。だが、それに対する返事は、「イーロンは黄色を好まない」だった。

最先端のテクノロジーと世界を救うビジョンの融合は、テスラの大きな売り物だ。安全部門の指導員ジャスティン・ホワイトをはじめとする多くの人たちは、大きな力を持ち、今や画期的なロケットの打ち上げを成功させたイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)に刺激されてテスラで働く道を選んだ。

ホワイトやその同僚が目の当たりにしたのは、安全性よりも独特な方法やスピードが優先される、無秩序な工場フロアだった。手っ取り早い方法を正当化したり、懸念を否定したりするために、しばしばマスクCEOの名前が引き合いに出されたという。

度重なる工場内での労災事故への非難が高まる中、最近になってテスラは2017年の労災頻度が大きく下がったことを喧伝した。従業員100人あたり約6.2件という、自動車業界平均相当まで下がったというのだ。

だが、テスラにおける実状は、必ずしもそうではない。リビール(Reveal)の調査では、法的に義務付けられた報告書において、複数の重大な負傷事故の記載を怠ったことが判明している。労災事故の件数を実際の件数よりも少なく見せていたのだ。

2017年4月、タリク・ローガンは、工場で使っていた有毒な接着剤が気化したことによって、衰弱性頭痛に悩んでいた。ローガンは母親に対し、「本当にひどい頭痛がしていて、何かがおかしい」とメッセージを送った。

ローガンは激しい痛みに耐えられず働けなくなり、その痛みに何週間も苦しんだ。

だが、吸入による傷害と診断されたローガンのケースは、州法および連邦法によって企業に義務付けられた正式な労災記録に記されることはなかった。また、別の工場従業員の、捻挫、過労、反復的な圧迫による負傷・傷害の報告も、記録されることはなかった。

リビールが入手した社内記録によると、報告書に記載する代わりに、会社の幹部はそれらの負傷を個人的な健康上の問題または応急処置だけで済む軽微な事故と分類していた。

労災事故件数を実際よりも少なくしたことは、テスラにおけるより根本的な問題を示す1つの症状だ。2017年にテスラを退職した、環境・労働安全衛生チームの5名によると、テスラは安全面よりも電気自動車の生産を優先させているという。結果として、従業員は不必要に危険な状況に置かれていると、5人は証言した。

あるときホワイトは上司に対して、爆発事故が発生する危険性について警告したが、生産ラインの停止が必要なことを理由に、生産管理者は問題の解決を先延ばしすると告げた。

2016年9月から2017年1月まで、ホワイトはテスラの総合組み立てラインで働く何千人という従業員の安全を監視し、労災への対応、労災報告の検討、安全講座による指導、工場の危険評価を担当していた。

「あらゆることが生産より後回しでした。誰かが命を落とすのは時間の問題でした」とホワイトはいう。

時価総額約500億ドルのテスラは、1万人を超える従業員をフリーモント工場で雇用している。目覚ましい成長を遂げる一方で、従業員は機械で切断され、フォークリフトに粉砕され、電気爆発で火傷を負い、融けた金属を浴びせられてきた。2017年、テスラは1日あたりおよそ2件となる722件の労災事故を記録した。休業または作業制限が必要な重大な労災事故の割合は、2016年の業界平均よりも30パーセントも悪いものであった。

急激な成長、絶え間ない変化、手ぬるい規則は、上級管理職が逆らうことを恐れるCEOの存在と相まって、従業員の安全のために立ち上がる人がほとんどいない雰囲気を作り出したと、環境・労働安全衛生チームのメンバーだった元従業員は語った。

さらにマスクCEOは「黄色」に加えて、多すぎる工場内の標識やフォークリフトがバックする際に出す警告音を毛嫌いしていると言われていたという。マスクCEOの好みは周知され、標準的な安全標識を減らすことにつながったとも元従業員は証言している。

「もし誰かに『イーロンはそれが嫌い』と言われれば、仕事を失う可能性があることを心配していました」と、環境コンプライアンスの元マネージャー、スーザン・リグメイデンはいう。

入社から2、3カ月が経ったころ、ホワイトは非常に危機感を募らせて「事故のリスクが高すぎます。毎日誰かが怪我をしていて、危うく車に潰されたり、轢かれそうになったりしている状況は看過できません」と、人事部長にEメールを送った。

ホワイトはその翌日、安全チームのリーダーは危険に対処できていないと、マスクCEOの側近であるサム・テラーCEOオフィス室長にもEメールを送った。

「安全のことを考えると夜も眠れません。テスラでは安心して眠れないことを告白しなければなりません」とホワイトは書いた。

CEOオフィスからの返事はなかった。ホワイトは部署を移り、数カ月後には幻滅して会社を辞めた。

テスラの担当者は、「ホワイトの主張はすべて根拠のないもの」として退けた。会社は労災事故を正確に記録しており、従業員の安全を極めて重要視している、と主張している。その証拠に、最近実施した匿名の社内調査で、社員の82%が「テスラは社員の健康、安全、福祉に真摯に取り組んでいる」と回答したと述べた。

この記事が発表される前、記事は進行中の労組結成の動きを助ける道具であり、さらに「テスラおよびテスラで働くことが実際にどのようなものであるかについて、完全に誤った事実」を書いているとして、テスラの広報担当者はリビールを非難する声明文を送った。

「当社の考えでは、調査報道として書かれている記事は、実際には組合支持者と直接協力する過激派組織によるイデオロギーに動機づけられた攻撃であり、テスラに対する計算された偽情報のキャンペーンを展開しようとするためのものです」。

テスラの広報担当者は、黄色く塗られた工場内のレールと柱の写真も送りつけてきた。

リビールは、現職と退職した社員・幹部40人弱にインタビューし、何百ページもの書類を調査している。リビールに話をしてくれた従業員の中には、労組結成の取り組みを支援してきた者もいたが、リビールが個別に接触を図った他の従業員は、労組結成活動に関与していない。

無秩序な工場フロア

テスラは、元社員の言葉を借りれば「アイアン・マン(注:CEOのイーロンにかけた皮肉)のために働くのが好き」という最先端の機械を自慢している。しかしその一方で、きちんと設計や整備がされていない吊り上げ機を信頼して重い自動車部品を持ち上げた結果、度重なる事故が発生したと、安全チームの元メンバーは話す。

テスラには初の大衆市場向け新セダン「モデル3」(価格は3万5000ドル)の増産という、大きなプレッシャーがかかっている。当初マスクCEOは、2017年末までに月産2万台と発言していたが、その後、月産1万台と半減した計画さえも約束を果たせなかった。

テスラはよく狂ったような生産状態になると、リビールのインタビューを受けた元社員の多くが語った。出荷のためにに、とにかく急いで次善策がひねり出され、1日12時間勤務の連続、設備の故障、不十分な技能研修に直面したという者もいた。

そのドタバタは、文字通り安全衛生に関する手続きが、ときにおざなりになることを意味した。2017年、建設作業員が新しいモデル3の組み立てラインを作るために建物のコンクリートを壊したが、初めに粉塵の抑制や試験をしなかったため、がんを引き起こすシリカ粉塵が撒き散らされたと、リグメイデンほか2名の安全衛生チームの元メンバーが語った。

生命や身体が危険にさらされるにもかかわらず、元テスラの安全専任者は、安全教育はひどく不十分であったと語った。テスラは、すべての従業員が少なくとも4日間の研修を受けると話している。しかし、新規採用の従業員は往々にして、生産ラインの空きを埋めるために早々に研修を切り上げさせられたと、ホワイトや安全チームの別の元メンバーは話している。

元チーム・メンバーたちは取材を受けることに躊躇したものの、現在および将来のテスラ従業員の状況を改善するのを手助けするために承知した。報復やキャリアが傷つくことを恐れて、匿名扱いを願い出た人もいた。

テスラ に対するインタビューで、2017年5月入社のギャビー・トレダーノCPO(最高人材責任者)は、元安全衛生専任者の証言に繰り返し疑問を呈し、「彼ら自身が仕事に失敗した」かもしれないとの考えを示した。

トレダーノCPOは、テスラ初の環境・労働安全衛生担当副社長として、ローリー・シェルビーを2017年10月に採用したことを大げさに話した。

「当社の門をくぐり、この工場に入って来るあらゆる人に対して、当社は責任があり、そして大切に思っています」(シェルビー副社長)。アルミ製造会社アルコア(Alcoa)で安全担当副社長を務めた経歴を持つシェルビー副社長は、「私は …

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