KADOKAWA Technology Review
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The U.K. Finally Commits to Building Its Huge New Nuclear Plant

イギリス政府
巨大原発の新設を許可

中国政府系企業が原子炉本体を建設し、施設全体をフランス企業が建設する原子炉の問題は、安全保障よりも電力価格が異常に高いことだ。 by Jamie Condliffe2016.09.16

イギリスのテリーザ・メイ首相は、何カ月もかかった再検討を経て、新しいヒンクリーポイントの原子力発電所Cの建設にゴーサインを出した。

新しい原発の建設には180億ポンド(約240億ドル)が見込まれているが、建設許可の審査は波乱に満ちていた。計画に何年もかかった後、今から1カ月半前には計画が着手されると見られていたが、メイ首相が突然計画の見直しを命じたのは、安全保障上の懸念からだといわれている。見直しは、原発を共同開発する英仏中3国間の外交関係に重大な緊張を引き起こした。

その後の数週間で、イギリス政府は計画を精査し、細かな修正を加えた。だが最大の変更は、計画の分担率が第3位のフランス国有電力会社EDFが建設途中で株式を売却しようとした場合、英国政府が阻止できる条件の追加だ。フィナンシャル・タイムズ紙によると(有料記事)、原子炉自体を建設する中国国有の中国広核集団(分担率はEDFと同じ第3位)もEDFも、改定された契約を歓迎した。

しかし、環境団体はこの修正条項を「たわ言」だという。確かに、この変更は最も議論の的になっている契約内容とは関係がない。問題は、新原発が発電する電力1メガワット時あたり、固定価格で92.5ポンド(約120ドル、現在英国の電力卸売り価格の約2倍にあたる)を英国政府がEDFに支払うことなのだ。

英国政府は初めから電力会社に有利な条件で交渉を始めたわけではない。ヒンクリー・ポイント原発には現在もうひとつ稼働中の原子炉B(2023年に営業運転終了予定)があるが、イギリスの原子力テクノロジーは近年低下の一途だ。時間的制約とさび付いたテクノロジーのせいで、最終的にイギリスは海外に目を向け、新原発の建設主体を探す以外に選択肢がなくなってしまったのだ。だが、電力価格を下げる交渉をするために、もう少し打つ手はあったはずだ。

とはいえ、イギリス政府はこの経験から学んだようだ。ヒンクリー・ポイント原発に関する声明で「最重要社会基盤の所有と運営への政府の取り組みを改革し、国外所有によって生じるあらゆる影響を国家安全保障の目的から確実に精査するよう改める」という一文がある。

ヒンクリー・ポイントの大失敗を二度と再び起こさないためにはこれで十分かもしれない。「安全保障」のような大事でなく、イギリスの電力料金のためだけでも、そうあってもらいたい。

(関連記事:The Guardian, Financial Times, “Huge British Nuclear Project Becomes a Diplomatic Flash Point”)

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MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
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