KADOKAWA Technology Review
×
Samsung’s Flaming Phones Will Be a Slow Burn for the Company

リコール費用6800万ドル以上のサムスン、真の問題はブランドの炎上対策

市場価格の急落や、セールスの失敗は、サムソンを待ち受ける大損害の幕開けに過ぎない。 by Jamie Condliffe2016.10.12

サムスンはGalaxy Note 7スマホの生産を中止し、発火の危険性があるとしてユーザーへ使用中止を呼び掛けた。しかし、発火によるGalaxy Note 7の生産中止は、製品そのものよりブランドに長期的なダメージを及ぼす可能性がある。

Galaxy Note 7は過熱事故の報道以降、サムスンは1カ月以上対応に追われている。9月初め、Galaxy Note 7スマホは本体の一部が発火した後、リコールされた。発火は本体内部とリチウムイオン電池の接触が原因だとされている

ブルームバーグが引用したサムスンの報告書によれば「生産過程の不具合により(略)陰極と陽極が接触し合い、(略)電池内の極板にかかった電圧が(略)過熱を引き起こした」ことで、発火した事例もある。

サムスンはGalaxy Note 7を速やかにリコールした。しかし、サムスンが安全だとして提供した交換機種でも、過熱や発火があったという。結果として、サムスンはGalaxy Note 7の完全な生産中止を決断せざるを得なかった。韓国証券取引所への通達で、サムスンは「お客様の安全を第一に考え、Galaxy Note 7の生産・販売中止を決定した」と説明した。

米国消費者製品安全委員会は、サムスンによる初期段階での販売中止を正しい決断だとし、ユーザーにはGalaxy Note 7の使用を直ちに中止するように呼びかけている(ユーザー向けに開設されたサムスンがリコールのページ)。一方、他の企業も、危険性のある機種で付加的な問題が発生しないよう、予防措置が取り始めている。特に、オキュラス VRは炎上の危険性があるGalaxy Note 7をユーザーが装着しないようにVR機器にGalaxy Note 7を接続できないよう設定を無効にした

この24時間でサムスンの株価は8%も下落し、時価総額は170億ドルを下回った。ちなみに、アップルの株価は昨年12月以来最高値に達している

サムスンは、当面ダメージを受けそうだ。Galaxy Note 7は大画面スマホの主力商品で、販売中止はクリスマスシーズンの駆け込み商戦への大打撃になりそうだ。アップルやグーグルにとって、サムスンの損失は朗報だ。両社のiPhone 7 Plusピクセルは、大画面スマホの購入を考えている消費者をその気にさせるだろう。アップルやグーグルへの機種乗り換えがGalaxy Note 7の利益を上回れば、サムスンの痛手は2倍だ。

リコールにかかる費用も高額だ。MIT Technology Reviewの取材に答えたキーストーン法律事務所(ロンドン)のジェイソン・カリス事務弁護士は、広告・発送費用は1台ごとに約13.5ドルかかるとして、現段階の販売台数は最低でも250万台あるため「機種の回収だけでも、約4000万ドルかかるでしょう」という。カリス弁護士の試算では、リコールに必要な総費用は6800万ドルとなり、作業には「何年もかかる」という。

回収作業が終われば、次は訴訟手続きに追われることになる。「ユーザーは間違いなく、利益の損失や迷惑を被ったと主張するでしょう。そしてGalaxy Note 7の故障によって使用できなくなった場合には、間違いなく間接損害(英米法の概念で、端末代など、リコールに伴う直接損害以外の損害)に対しても申し立てがされます」とカリス弁護士は説明した。しかし、間接損害の費用を試算するのは困難だ。

しかし、計り知れない最大のダメージは、サムスンの評判そのものだ。ダメージが最終的にどの程度なのかは、文字通りの意味でも、比喩的な意味でもこの炎上事故が収まるまでは判断できない。

「リコールのような状況が起きてしまえば、サムスンがブランドイメージを守るためにできることはほとんどありません。サムスンが唯一できるのは、迅速かつ誠実に対応することです」(カリス弁護士)

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  4. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
タグ
クレジット Photograph by George Frey | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  4. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る