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新型コロナ予測、グーグルとフェイスブックがCMUに協力
How Facebook and Google are helping the CDC forecast coronavirus

新型コロナ予測、グーグルとフェイスブックがCMUに協力

カーネギーメロン大学の研究グループは、フェイスブックとグーグルの協力を得て、新型コロナウイルス感染症の症状の有無を調べる大規模なアンケート調査を実施中だ。地域ごとの感染拡大を予測し、米政府の対策資源の配分に活用してもらう考えだ。 by Karen Hao2020.04.14

感染症の広がりを予測するためには、カーネギーメロン大学(CMU)のライアン・ティブシラニ准教授が言うところの「重症度ピラミッド」を理解することが極めて重要だ。ピラミッドの最下層には無症状病原体保有者(体調に影響が出ていない感染者)が位置し、その上に症状が表れている病原体保有者、入院患者、重症入院患者の層が続く。ピラミッドの最上層が死亡となる。

重症度ピラミッドの各層とその上の層との間には明らかな関連がある。ティブシラニ准教授は、「たとえば重症患者が何人いるか分かれば、だいたい何人が死亡するか予測できます」と話す。ティブシラニ准教授が所属するCMUのデルファイ(Delphi)研究グループは、米国で極めて優れた成果を挙げているインフルエンザ予測チームの1つだ。

ピラミッド上層部に属する人数を予測するためには、下層部の人数を明確に測定する必要があることになる。しかし、米国でそうしたモデルを作成することは非常に難しい。検査数が不足しており、無症状の病原体保有者の人数を算定できないからだ。さらに言うと、検査結果も、症状のある病原体保有者が何人いるかを正確に反映していない。国によって検査対象の基準は異なり、入院が必要な感染者だけを検査するようにしている国もある。検査の結果が出るのに1週間以上かかることもしばしばだ。

残る選択肢は、症状のある病原体保有者の数を大規模な自己申告型のアンケート調査で把握することだ。だが、そうした取り組みは、調査対象が全人口に対して十分に大きな割合を占めていなければ有用ではない。そこで、米国疾病予防管理センター(CDC)のパンデミック対応に協力しているデルファイ研究グループは、米国最大のプラットフォームに注目した。フェイスブックとグーグルだ。

Facebook will help CMU Delphi research group gather data about Covid symptoms

フェイスブックとグーグルは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と見られる症状があるかどうかを自己申告で収集する。フェイスブックはCMUが実施するアンケート調査で、自社プラットフォームの米国ユーザーの一部を対象とする予定だ。グーグルは自社の「オピニオン・リワーズ(Opinion Rewards)」というアプリを利用する。このアプリでは、ユーザーは質問に答えるとアプリ内ストアのクレジットを得られる。こうした得られた新たな情報に基づいてデルファイ研究グループは米国内の郡ごとの感染者数を予測し、政策立案者による効率的な資源の配分を支援したい考えだ。

フェイスブックとグーグルがアンケート調査の結果を知ることはない。両社は、デルファイ研究グループが管理して処理する質問をユーザーに割り当てているにすぎない。同研究グループもまた、いずれの企業とも生データを共有しないという。それでも、この共同調査は典型的なデータ共有の取り組みとは大きく異なっており、プライバシーに関する懸念がある。「企業は、パンデミックという事態でなかったら、健康という個人的な情報に関与したり、直接それを求めたりするリスクを負いたくないでしょう」(ティブシラニ准教授)。

こうした協力関係が無ければ、研究者たちは他の手段でデータを得なければならず、対応に苦慮していたことだろう。他にも、150万回以上ダウンロードされている英国の「新型コロナウイルス感染症症状トラッカー(Covid Symptom Tracker)」など、症状を自己申告できるアプリはいくつかある。しかし、ティブシラニ准教授によると、こうしたアプリのユーザーはどれも、フェイスブックとグーグルが実施する調査ほど体系的かつ広範囲ではないという。フェイスブックとグーグルの共同調査により、毎週数百万件の回答が得られることを期待しているとティブシラニ准教授はいう。

ティブシラニ准教授は、フェイスブックやグーグルとの取り組みをパンデミック収束後も続けるかどうかは分からないとしている。地球規模の危機という緊急性と圧力が無ければ、こうしたプラットフォームやそのユーザーが、今回のように自身の健康に関わる情報を提供しようとは思わないかもしれない。それでも、ティブシラニ准教授と研究グループのメンバーは現在、手に入りつつある情報に感謝している。「この調査は大きな効果を生む可能性があると思います」とティブシラニ准教授は話している。

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MITテクノロジーレビューの人工知能(AI)担当記者。特に、AIの倫理と社会的影響、社会貢献活動への応用といった領域についてカバーしています。AIに関する最新のニュースと研究内容を厳選して紹介する米国版ニュースレター「アルゴリズム(Algorithm)」の執筆も担当。グーグルX(Google X)からスピンアウトしたスタートアップ企業でのアプリケーション・エンジニア、クオーツ(Quartz)での記者/データ・サイエンティストの経験を経て、MITテクノロジーレビューに入社しました。
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