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検査受けられず——なぜ米国の新型コロナ対策はお粗末なのか?
Justin Sullivan / Getty Images
What the hell is going on with coronavirus testing in the US?

検査受けられず——なぜ米国の新型コロナ対策はお粗末なのか?

新型コロナウイルス感染症の拡大を止めるためには、できる限り多くの人に対して迅速に検査をする必要があるとされている。しかし、米政府が新型コロナウイルス感染症の検査を増加させていると発表してから数週間経つにもかかわらず、多くの人が検査を受けられずにいる。 by Neel V. Patel2020.04.01

2週間前、私は体調を崩した。最初は喉の痛みから始まり、次いで鼻の奥の圧迫感や頭痛、そして鼻水や咳といった症状が出始めた。体には倦怠感を感じ、吐き気で食事をするのも大変だった。

実際、私は発熱を除く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に当てはまる多くの症状(味覚や嗅覚の喪失という症状も出たが、これはCOVID-19の兆候である可能性が高まっている)を抱えていた。しかし、2回受けた外来診療では新型コロナウイルス感染症の可能性を医師から否定された。医師らがそのように判断したのは、明らかな発熱の症状がなかったことと、最近国外に出ていなかったことが理由だという。

新型コロナウイルス感染症の症状は、通常の風邪やインフルエンザの症状と大部分が重複している。そのためかかりつけの医師や地域の診療所に診察を受けた場合、新型コロナウイルス感染症の検査をすることは理にかなっているように思える。

「すべての国々にシンプルなメッセージをお伝えします。検査、検査、とにかく検査をしてください」。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長は3月16日、報道陣に対してそう述べた。「感染が疑われる場合は必ず検査をしてください。陽性者は隔離し、症状が出るまでの2日間に濃厚接触を行った人物を追跡し、彼らにも検査を実施してください」。

米連邦政府が新型コロナウイルス感染症の検査を増加させていると発表してから数週間が経った。しかし、多くの人々は未だに検査を受けられずにいる。仮に検査で陽性になった人と接近したことが明らかな人であっても、無症状であることを理由に多くの人が検査を拒否されている。全米各地で、新型コロナウイルス感染症の検査を受けるに値する十分な理由を持ちながらも検査を実施できない医師患者たちから証言に次ぐ証言が相次いでいる。先月米国で問題になった新型コロナウイルス感染症の検査に関する初期の問題は解決されたと政府当局が発表してから数週間が経つ。検査を望む人は誰もが検査を受けることができるとトランプ大統領が述べた後も、全米各地で人々は検査を受けられずにいる(ただし、セレブであれば話は別のようだ)。

こうした状況は、検査の実施や感染者の接触状況の追跡、感染者および感染の可能性のある人々を厳密に隔離することでアウトブレイクに対応している国々とは非常に対照的だ。

感染者数が9000人強で横ばいになりつつある韓国は、積極的な検査活動(中国のような厳格な方策ではない)が感染者数の増加曲線を平坦化するのに効果的であることを示す一例となっている。韓国は1日約2万人の検査を実施しており、綿棒を用いて数分で検査をして、翌日検査結果をテキストメッセージで受信する無料の「ドライブスルー検査」などを提供している。現時点で、韓国の全国民の約170人に1人にあたる32万7000人以上が検査を受けている。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の初の感染者が確認されたのが韓国と同じく1月20日だった米国と比較してみよう。ハーバード大学国際衛生研究所所長のアシシュ・K・ジャー医師はAP通信に対し、米国は1日最大15万人の検査を実施すべきだと述べた。だが実際には、1日の検査実施数は4万件程度に過ぎないのが現状だ。3月24日の時点で、米国で検査を受けた人の数は人口の約943分の1にあたる35万人強に留まっている。(日本版注:厚生労働省の3月25日の発表によると、2月18日~3月23日までの国内(国立感染症研究所、検疫所、地方衛生研究所・保健所等)におけるPCR検査の実施件数は4万2736件)。

言い換えれば、新型コロナウイルス感染症の拡大を止めるために必要となる、できる限り多くの人に綿密な検査をする措置が実際には取られていないということだ。

「韓国では人々は検査を非常に明確かつ迅速に受けられます」。ジョンズ・ホプキンス大学の公衆衛生実践およびコミュニティ・エンゲージメント学部の副学部長を務めるジョシュア・シャーフスタイン医師はそう話す。「単に検査を実施できるだけでなく、うまく組織化されている必要があります」。韓国と比較すると、米国の医療制度は「このような状況に対処できるように作られていません」。

これは米国民にとって恐るべき話だ。イタリアも新型コロナウイルス感染症の検査の初動が非常に遅れた。比率としては韓国の3分の1程度だった。その結果、感染者は通常通りに生活を続け、感染者数が爆発的に増加するまで自分たちがウイルスを拡散していることに気づかなかった。ジョンズ・ホプキンス大学によると、イタリアでは約7万人が新型コロナウイルス感染症の検査で陽性を示しており、死者は6820人に上っている。米国も、感染者を特定し、彼らの追跡方法を明確にできなければ、すぐに同様の状況に陥る可能性がある。

米国疾病予防管理センター(CDC)の公式ガイドラインは、「新型コロナウイルス感染症に合致する兆候や症状」を示している入院患者、症状が出ている弱者(65歳以上、既往歴あり、免疫系が弱っている)、14日間以内に新型コロナウイルス感染症の感染が確認された人物と接触して症状を示している人、新型コロナウイルスの影響が出ている地域(中国、イタリア、イラン、韓国など)への渡航歴がある者に対する検査を優先するよう求めている。シャーフスタイン医師によると、この指示は、少なくとも熱や咳の症状が出ている「中程度」の症状を示している人々に対して検査をするべきだということを意味しているという。

しかし、現場の状況はかけ離れている。たとえばニューヨーク市ロサンゼルスをはじめとする都市は、深刻な症状が出ていない人には検査をしないよう働きかけている。

この方針は、無症状の人であっても感染を拡大させてしまうことを考えると問題だ。感染から症状が現れるまでに最大14日かかる可能性がある。できるだけ多くの人を早期に検査すれば、陽性者が自己隔離して拡散を抑えられる。早期の検査が有効な対応であることは明らかだ。

「各地の検査実施現場に明確な基準を設けるべきです」とシャーフスタイン医師は語る。「病院に重症患者が運び込まれたら、もちろん検査が実施されるでしょう。しかし一般市民に対しても、症状が出た場合にどうすればいいのか、どこで検査を受ければいいのかといった指示を出すべきです。症状が出ているのに街中を歩き回っている人々が数十万人単位で存在している可能性があるのです」。

なぜ検査の実施件数が増えないのだろうか。米国における検査不足は差し迫った障害だが、「問題の根底には混沌とした医療制度があります。基本的に米国の医療はしっかりと組織化されていません。今回の状況もその流れの中から生じています」とシャーフスタイン医師は指摘する。

2月、米国疾病予防管理センターは国内各州の研究所に初期のPCR検査キットを提供したが、失敗に終わった。この検査で使用された試薬が不良品だったことが原因で、偽陽性を示す例が多数見られることがすぐに明らかになったのだ。提供された検査キットは使うことができず、各地の研究所は検査をするために患者のサンプルを米国疾病予防管理センターに送らざるを得なくなった。

米国食品医薬品局(FDA)は、「緊急使用認証」が無ければ地方および民間の研究所が独自の検査を展開できないという従来の規制を緩和することで、流れを変えようとした。現在では、感染者数が特に多いシアトル(ワシントン大学のウイルス研究所では1日3000件の検査キットを処理しているが、処理能力不足に陥っている)をはじめ、多くの研究所が検査数を大幅に増加させている。約2週間前、トランプ政権はFDAによる新型検査の承認をはじめとした、検査キットの生産および管理を加速させるための新たな方策を発表した。この動きにより、先週には新たに50万件の検査が実施可能になるはずだった。

私たちに足りないのは物理的な検査キットだけではない。医療従事者たちはマスクや予防衣を着用して感染を防ぐ必要があり、サンプルを採取するための鼻腔用綿棒などの基本的なツールを必要としている。こういった器具の不足がボトルネックとなっている

この無秩序な状況の中で、衛生当局は、すぐに支援が必要な患者に割く時間やリソースを奪うような要求を出すことは避けたいと考えだ。そのため、各地の医師および衛生当局は検査を受けられる人と受けられない人の選別を強いられている。

「この国の医療システムは人々が今必要としていることと、議員の皆さんが求めているものを満たせるようには作られていません」。米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウシ所長は3月12日、議会でそう証言した。「医療システムに欠陥があることを認めてください」。

私は新型コロナウイルス感染症に感染していたのかもしれないし、感染していなかったのかもしれない。どちらだったのか確証はない。今後もそれが明らかになることはおそらくないだろう。自分が感染していて知らぬ間にウイルスを拡散させていたかもしれないと思うと不安になるし、他にも同じような状況に置かれている人は数え切れないほど存在している。それもすべて、米国の検査がこれほどまでにお粗末な状況にあることが原因なのだ。

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MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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