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Nvidia’s Deep-Learning Chips May Give Medicine a Shot in the Arm

エヌビディア、深層学習で医学研究が飛躍と発表

深層学習用のハードウェアで時代の波に乗るエヌビディアは、医療分野での進展が著しいという。人間の医師を支援する用途から、人間には見つけられない病気の兆候を探し出すなど、来年にかけて、医学研究は深層学習で飛躍的な進化を遂げそうだ。 by Will Knight2017.03.30

半導体部品メーカーのエヌビディア は、最先端の学習アルゴリズムを発展させるハードウェアによって、現在の人工知能ブームに乗っている。エヌビディアは医療や医学分野こそ、自社のテクノロジーの次の大きな市場だと考えている。

エヌビディアで医療分野の研究を率いるキンバリー・パウエル事業開発部長は、エヌビディアは医学研究者とともに、さまざまな分野に取り組み、来年以降この事業を拡大させるつもりだという。

月曜日にサンフランシスコで開かれたMIT Technology Review主催のEmTech Digitalカンファレンスでパウエル事業部長は「医学分野の画像研究には素晴らしい進歩があります。私たちは現在、多くの病院の医療関係者のもとを訪ねて、医療関係者が新しい人工知能の応用に期待していると知りました」と述べた。

特に注目されているのは、機械学習の手法のひとつ「深層学習」で、医療用画像の処理や膨大な医療データの調査に使われている。深層学習は、大ざっぱにいえば脳内のニューロンの活動にヒントを得た手法だ。すでに高い性能が示されており 、画像を検索したり、音声ファイルを処理したりする用途でとても有効だ(“10 Breakthrough Technologies: Deep Learning”参照)。

AIの手法は、医学研究分野で確かな支持を得たようだ。昨年、グーグルのあるチームは深層学習が眼病の診断の自動化に有効だと示した。一方、スタンフォード大学のグループは科学雑誌ネイチャーに、この手法が経験を積んだ皮膚科医と同じように皮膚がんを特定できることを論文として発表した。ニューヨークのマウントサイナイ病院のグループは患者の電子健康記録(EHR)の解析に深層学習を使うことで、驚くほど高い精度で患者がどんな病気を発症するか予測した。

こうした注目すべき成果は一例にすぎない。パウエル事業開発部長は講演で、医療用画像処理の学会は、深層学習の論文に占拠されつつあると述べた。

エヌビディア製の画像演算装置は、深層学習に必要な並列処理の実行に極めて適しており、エヌビディアはすでに相当数の法人向け製品を大学の深層学習の研究者や企業向けに販売している。エヌビディア は強力な研究用コンピューター「DGX-1」や自動運転車用システム「Drive PX」など、数多くの深層学習専用製品を販売している。

パウエル事業開発部長は、エヌビディアのハードウェアは病院や医学研究機関などでさらに広く普及すると信じている。深層学習が診断の信頼性を向上させ、専門家が不足している途上国の医療水準を急速に引き上げる、と述べた。また、将来は創薬分野も深層学習が適した有力分野になるという。

深層学習は医師が見逃してしまうような症状を発見することにも適している。たとえばエヌビディアは、メイヨークリニックのブラッドリー・エリクソン医師(神経放射線科)とともに、深層学習を脳の画像診断に応用することを研究中だ。パウエル事業開発部長によれば、エリクソン医師は画像から脳疾患に関連する遺伝的要因を特定することに、ある程度の成果があった、という。

イベントの前半には、ニューヨーク大学のゲイリー・マーカス教授が、医学はAIが最も大きな影響を与える分野だと述べた。「がんのことを考えてください。病気との関連性を特定するリスク要因は、人間には見つけにくいのです。しかしアルゴリズムなら発見できます。AIのキラーアプリは私たちの医学研究の大きな進歩といえるでしょう」

しかし、医学に深層学習のような手法を応用するには大きな課題がある。この手法は複雑で、医師にとって、なぜアルゴリズムが特定の病気を発見できるのかは明確でなく、わかりにくい。パウエル事業開発部長はこの課題を認める一方、アルゴリズムの判断理由については、深層学習ネットワークの長所でもある画像分析などの新手法でもまだ解決できてない、と述べた。「現在の研究の大きなテーマです」とパウエル事業開発部長はいう。

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MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。
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