転んだらどうする? 人型ロボットの安全基準づくりが進行中
身長1.8メートル、体重65キロの人型ロボットが突然転倒したら——。従来のような緊急停止が通用しない人型ロボットの安全基準づくりが急ピッチで進んでいる。 by Victoria Turk2025.06.13
- この記事の3つのポイント
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- 人型ロボットは緊急停止すると転倒するため、緩やかな減速など新しい安全機能が必要だ
- 転倒以外にも人間との意思疎通や心理的影響など、幅広い安全課題が存在する
- IEEE、ISOなど国際機関が人型ロボット専用の安全基準づくりを急いでいる
人型倉庫作業ロボットの「ディジット(Digit)」は昨年、スパンクス(Spanx、補正下着ブランド)の箱の取り扱い作業を開始した。ディジットは、台車とコンベヤーベルトの間で最大16キロの箱を持ち上げることができ、人間の作業員の重労働の一部を代替している。ディジットが作業するのは、物理的なパネルやレーザーバリアによって人間の作業員と隔てられた、立入禁止または限定エリア内である。というのも、ディジットの特徴である後方に折れ曲がる膝を持つ脚は通常は安定しているものの、時折転倒する可能性があるからだ。たとえば、3月に開催された展示会では、箱をうまく持ち上げているように見えたが、コンクリートの床に突然倒れ込み、運んでいた容器を落としてしまった。
このような誤作動が人の近くで発生することは非常に危険である。身長1.8メートル、体重65キロの機械が人間に倒れかかったり、ロボットアームが人体の敏感な部位に誤ってぶつかったりするような事態は、誰も望まない。「喉が良い例です」と、ディジットを製造するアジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)の最高技術責任者(CTO)、プラス・ベラガプディは言う。「たとえロボットが23キロのトートバッグを持ち上げる力のほんの一部でも、喉に当たれば深刻な怪我につながりかねません」。
人型ロボットに関する新たな基準を検討する調査グループでは、安全面において最も重要な懸念事項として「物理的安定性」、すなわち転倒を防ぐ能力を挙げている。IEEEヒューマノイド調査グループは、人型ロボットは産業用アームや既存の移動型ロボットとは本質的に異なる特性を持つため、オペレーター、エンドユーザー、一般市民の安全を守るには新たな基準が必要だと主張している。同グループはMITテクノロジーレビューに初期の調査結果を提供しており、今夏後半に報告書の完全版を公開する予定だ。この報告書では、人型ロボットがより協働的なシナリオで活用される前に規格策定機関が対処すべき課題として、身体的・心理社会的リスク、プライバシーおよびセキュリティの問題などを挙げている。
人型ロボットは、工業用途に向けた最初の不確かな一歩を踏み出したばかりだが、最終的には人間と密接に連携して作業することを目的としている。そもそもロボットを人型にする理由のひとつは、人間のために設計された環境において、より自然に行動できるようにするためである。つまり、保護壁の後ろに留まるだけではなく、人々と空間を共有できるようになる必要がある。しかし、そのためにはまず、安全でなければならない。
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人型ロボットの際立った特徴のひとつは「動的に安定している」ことだと、規格策定機関ASTMインターナショナルのディレクターであり、IEEEヒューマノイド調査グループの議長でもあるアーロン・プラザーは述べている。これは、直立状態を維持するために常に動力が必要であり、脚(あるいはその他の四肢)を使って力を加えながらバランスを取っていることを意味する。「従来のロボット工学では、何かが起こると赤い非常停止ボタンを押して電源を切れば、それで停止します」とプラザー議長は説明する。「しかし、人型ロボットにはそれが通用しません」。そのように電源を切れば、ロボットはおそらく転倒し、より大きな危険を生む可能性があるのだ。
効きの遅いブレーキ
もし緊急停止でなければ、安全機能はどのような形をとるべきだろうか? アジリティ・ロボティクスは、ディジットの最新バージョンにいくつかの新機能を導入し、転倒の問題に対処しようとしている。たとえば、人が近づきすぎた場合など、ロボットはただちに動力を遮断して倒れるのではなく、緩やかに減速することが可能だ。「ロボットには、基本的に安全な状態へ移行するための一定の時間が与えられていま …
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