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陰謀論研究10年の専門家が
当事者になって分かった
「信じてしまう」理由
Matthieu Bourel
気候変動/エネルギー Insider Online限定
What it’s like to be in the middle of a conspiracy theory (according to a conspiracy theory expert)

陰謀論研究10年の専門家が
当事者になって分かった
「信じてしまう」理由

10年間、誤情報を研究してきたジャーナリストが山火事ですべてを失った。「バイデンのせいだ」と言う被災者の隣人に、何も言えなかった。トラウマを抱えた被災者が陰謀論に惹かれる理由を、初めて内側から理解した瞬間だった。 by Mike Rothschild2025.12.05

この記事の3つのポイント
  1. 大規模火災の被災者が体験を語る聴取会で筆者は、バイデン大統領が消防機の運航を禁じたとする陰謀論を耳にした
  2. 陰謀論研究者だった筆者自身が火災で家を失い、これまで客観視していたデマが身近な現実となった
  3. 災害後のトラウマが陰謀論への傾倒を促す心理を実体験し、被災者への共感と理解が深まった
summarized by Claude 3

今年5月、薄暗い土曜の朝だった。米カリフォルニア州アルタデナの街全体が山火事で焼き尽くされてから数か月後のその日、数十人の生存者が、溜め込んだ不満や怒り、非難、苦しみを吐き出すために地元の教会に集まっていた。次々と語られる恐ろしい話を聴きながら座っていた私は、同席していた非常に丁寧な態度のコンサルタントたちに、同情しそうになった。報酬を受けてその場にいるにもかかわらず、目の前で語られることに何もしてやれないのだ。

ロサンゼルス郡の依頼を受けた第三者の仲裁人が主催したこの集まりは、生存者が「緊急警報と避難に関する体験を共有」し、数か月前のイートン火災への対応がどこで成功し、どこで失敗したかを検証するための聴取会だった。

どれほど多くの失敗があったのかは、すぐに明らかになった。

2025年1月7日火曜日の夕方、パサデナのイートン・キャニオンで干からびた茂みから小さな火災が発生した。猛烈なサンタアナ風が火の粉を北隣のアルタデナに吹き飛ばした。アルタデナは、歴史的に黒人と中流階級が多く暮らす町である。8日朝までに、町の大部分が炎に包まれていた。住民たちは夜通し必死に動き回り、持ち出せるものをかき集めて安全な場所へ避難した。

その後、多くの住民が避難勧告を受け取っていなかったと主張し、消火活動にあたる消防隊員の姿も見かけなかったと語った。行政職員との接触もほとんどなかったという。大多数の住民は、自力でなんとかしなければならなかったのだ。

さらに悪いことに、山火事にとって「安全な」場所は存在しないが、アルタデナはとりわけ脆弱だった。築100年の木造住宅が密集しており、その多くは火災安全基準を満たす改修工事が数十年遅れていた。雨の降らない冬の間に木々や植生が枯れ果てていた。近隣の山で頻繁に発生する火災が、町にまで広がるとは、住民も行政もほとんど想定していなかった。その結果、リソースは限界まで使い果たされ、多くの家が燃え続けるまま放置された。

だから、その朝の教会に集まった人々には、怒るべき理由がたくさんあった。彼らは、自らの辛い体験、コミュニティ全体が受けた心の傷、さらには人づてに聞いた惨状までも次々に吐き出した。参加者は胸をえぐられる想いでひとつひとつの話にうなずき、共感を示した。

ロサンゼルス郡は、警報を受け取れなかった私たちを見殺しにした!

住んでいた家は賃貸で保険に入っていない私は、車中泊で過ごしてるんだ!

支援金が何百万ドルも集まっているのに、自分たちには何も届いてない!

デベロッパーがアルタデナの土地を買い漁って価格を釣り上げ、この場所を作った黒人家族を追い出そうとしている!

ジョー・バイデン大統領がロサンゼルスを飛行するために、消防機は意図的に離陸禁止にされた!

こうした主張のひとつは、明らかに他とは異なる性質のものだった。そして、なぜそうなのか私は分かっていた。

2つの列車の衝突

悲劇が起きると、誤情報や陰謀論がその後に続く──。今ではおなじみの流れだ。大量銃乱射事件の後に湧き上がる「偽旗」や「銃規制のためのやらせ」といった陰謀論、新型コロナウイルスや2020年の大統領選挙をめぐるデマを思い出してほしい。自然災害では、陰謀論が文化戦争的な動機からの気候変動否定論と真正面から衝突し、状況はより複雑になる。そうした理論は、本当の原因を覆い隠し、偽の原因を前面に押し出す。そして、双方がソーシャルメディアやテレビで戦うことになる。

私は、過去10年にわたってジャーナリストかつ研究者として陰謀論と誤情報に関する記事を書き、その思想の広がりを研究してきた。Qアノンの台頭から、ドナルド・トランプ大統領が暗殺未遂を自作自演したか否か、反ユダヤ主義や反ワクチン陰謀論、人身売買に対する異常な執着の高まりまで、幅広いテーマを扱ってきた。著書を3冊出版し、議会で証言し、1月6日委員会(米国議会議事堂襲撃事件の調査委員会)のための報告書まで作成した。長い間、それが私の人生だった。

それでも、当事者になったことは一度もなかった。イートン火災までは、違ったのだ。

私の家は1925年に建てられたコテージで、1月に焼け落ちた住居のひとつだ。避難するようにとの正式な通知が届いたのは、火災が始まってから9時間後、午前3時25分だった。私たちは10分以内に荷物をまとめて玄関に鍵をかけ、6時間後には、すべてが焼けてなくなっていた。私たちは、死んでいてもおかしくなかった。アルタデナでは18人が亡くなり、そのうち17人は避難勧告が遅すぎた地域に住んでいた。

かつて私は、テレビで被災者が「すべてを失った」と泣き崩れる姿を見ても、プロとして距離を保てていた。「気の毒に」とは思ったが、常に冷静でいられた。そして、取材対象としていた陰謀論も、やがては沈静化し、自分の仕事の守備範囲から外れていった。その頃には、次の災害とそれに伴う混乱を追う準備ができていたのだ。

だが今、私はその「かわいそうな人々」の一人だった。イートン火災は、私の人生のすべてを変えてしまった。そして私は考えた。これで、私の仕事までもが変わってしまうのだろうか。それはまるで、平行に走っていた2本の列車が突然ぶつかり合ったような感覚だった。

長い間、私は陰謀論を「自分の外側」の問題として語ることができていた。ところが今、デマは私の目の前に現れ、私自身の人生の一部になっていた。そして私は考えた。ジャーナリズムに携わる者として、荒唐無稽な考え──たとえば、バイデン大統領に責任があるという説──に反論する義務があるのだろうか?

それとも、自分自身と自分の精神状態を守るために、黙っているべきだったのだろうか。

ちょうどよい真実

イートン火災が発生したのは、ロサンゼルスのパシフィック・パリセーズ地区でも別の壊滅的な火災が起きていた時期と重なっていた。それに続く数日間で広がったバイデン大統領に関する噂も、事の顛末とその首謀者についての無数の噂や虚偽の主張、作り話、誹謗中傷のひとつにすぎなかった。

主張の多くは、文化戦争的なナンセンスか、政治的なネタにすぎなかった。明らかにフェイクだと分かるAIスロップ(ハリウッドの看板が燃えていたわけではない)や、特に気に留める必要のないティックトック(TikTok)の短い動画も見かけた。

それは、まるで別の世界の話のように感じられた。その世界では、森の下草は「掃除されておらず」、無能な「DEI(多様性・衡平性・包摂性)採用された消防士」が家の消火を怠り、カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムは絶滅危惧種の魚を守るために「開栓」を拒んだ巨大な水源から水が使えなかったということになっていた。

火災が意図的に起こされたという主張もあった。オリンピックの開発用地を確保するため、あるいは人身売買の証拠を隠すためというのだ。ロサンゼルス市がすべての消防資金と装備をウクライナに寄付していたという噂も流れた。

火災は不法移民のせいだという声もあった(実際に1人が火災の原因として疑われたが、起訴はされていない)。「アンティファ(ANTIFA、日本版注:極右思想やファシズムに反対する、決まったリーダーを持たない非中央集権的な左派・極左の運動体)」やブラック・ライヴズ・マター(BLM)活動家の仕業だという主張もあった(市内で黒人の住民が最も多い地域のひとつが焼失した事実は、なぜか無視されていた)。そして例によって、ユダヤ人のせいだとする主張もあった。今回非難されたのは、ロサンゼルスの水資源の大半を所有していたとされる「裕福なユダヤ人夫婦」で、彼らが水を放出しなかったのだという。

こうした主張の多くは、災害が起こるたびに同じようなシナリオで動く、「ただ質問しているだけ」という体裁のインフルエンサーたちによって広められていた。そして、X(旧Twitter)を通じて急速に拡 …

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