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欧州防衛の未来を約束する
100万機の自律ドローン、
「出口」なき軍拡の始まり
Helsing
倫理/政策 Insider Online限定
Europe’s drone-filled vision for the future of war

欧州防衛の未来を約束する
100万機の自律ドローン、
「出口」なき軍拡の始まり

「残忍な抑止力」——。欧州が整備を進めるドローン攻撃網について、欧州の防衛関係者はこう語る。ウクライナの年産450万機、1分未満のキルチェーン、評価額120億ドルのヘルシングが主導する自律兵器の大量配備。しかし、この「出口なき軍拡」は本当に平和をもたらすのか、それとも引き金に手をかけ続けるだけなのか。 by Arthur Holland Michel2026.02.09

この記事の3つのポイント
  1. NATO演習でAI自律型ドローン攻撃網「ASGARD」が実戦テストされ、標的検知から攻撃まで1分未満の完全自動化を実現
  2. ロシア脅威に対抗するため欧州各国が1兆ドル規模の防衛投資を計画し、ヘルシングなど新興企業が急成長している背景
  3. 人間制御の維持と完全自律化の狭間で倫理的課題が深刻化し、抑止力が逆に制御不能な戦争を招くリスクが懸念される
summarized by Claude 3

2025年の春、「ブラック・ラット(Black Rats)」の異名を持つ英国第4軽旅団の兵士3000人が、エストニア東部地域の湿った森林地帯に降り立った。彼らはヨークシャーから空路、海路、鉄道、陸路を使って駆けつけてきた。到着後、前線に集結した1万4000人の別部隊に合流し、塹壕を掘り、遠くから聞こえる敵の装甲車の轟音を待ち構えた。

この部隊派遣は、NATO(北大西洋条約機構)の「ヘッジホッグ(Hedgehog)」と呼ばれる演習の一環で、ロシア軍の大規模侵攻に対するNATOの対応能力を検証する目的で実施された。当然のことながら、この演習にはNATO屈指の重火力兵器が投入された。69トン戦車、アパッチ攻撃ヘリコプター、超音速ミサイルを発射可能なトラック搭載型ロケットランチャーなどである。

しかし、英陸軍の戦術家によると、この演習で最も強力な武器を持ち込んだのは第4旅団であった。そして厳密に言えば、それは物理的な武器ではなかった。第4旅団は、「ASGARD(アスガルド)」というコードネームで構想された、「デジタル標的網」と呼ばれる、目に見えない自動化された情報ネットワークによって支援されていた。

このシステムは4カ月という期間で急ごしらえされた。数年単位が通常の兵器開発としては驚異的なペースだ。システムの目的は、標的を探すあらゆるもの(軍事用語でいう「センサー」)と、標的を攻撃するあらゆるもの(「シューター」)を、単一の共有無線電子頭脳につなげることだ。

たとえば、偵察ドローンが雑木林に隠れている戦車を発見したとしよう。従来の作戦では、ドローンを操縦する兵士が、作戦の頭脳である将校たちのいる中央指揮系統に情報を伝え、将校たちは戦車を攻撃するかどうかを共同で決定する。

一方、デジタル標的網はタコのように機能する。ニューロンがあらゆる末端まで届くため、それぞれの触手が自律的に動くと同時に、中心的な目標に向かって協調して働くことが可能となる。

ヘッジホッグ作戦中、エストニア上空を飛行するドローン群は広い軌道を辿った。そして、高度な物体認識システムによって地上をスキャンした。もし、そのうちの1台が隠れた戦車を発見した場合、その画像と位置情報が、たとえば大砲など、近くのシューターに直接送信される。あるいは別の戦車、もしくは、カタパルトに載せられて発射待機状態にある徘徊型武装ドローンに送信される。

各兵器を担当する兵士たちは、サムスン製のスマートフォンを使ってデジタル標的網とつながっていた。標的検知のアラートが鳴ると、ドローン操縦士は、「命中確率(pKill)」などに基づく標的選択オプションが表示された画面上のドロップダウン・メニューをタップするだけで済む。ドローンは瞬時に空へ飛び立ち、警戒していない標的へとほぼ不可逆的な軌道を辿って向かう。

世界大戦で欧州大陸が変容してから80年、ヘッジホッグ作戦には、欧州防衛における新たな冷酷な計算が窺える。「ロシアがドアをノックしています」と、ドイツ軍サイバーイノベーションハブ(Cyber Innovation Hub)の責任者であるスヴェン・ヴァイツェネッガーは言う。戦略家や政治家たちは、ロシアの侵攻を阻止するため、ますます自動化された戦場の装備に期待を寄せている。

「人工知能(AI)を活用した情報収集、監視、偵察、そして大量配備されたドローンは、戦場で決定的な役割を果たすようになっています」。エストニア国防省イノベーション部門の責任者であるアンジェリカ・ティックは話す。エストニアのような小国にとって、こうしたテクノロジーによって、「私たちの実力以上に力を発揮することが可能になります」とティックは言う。

ここでいう「大量配備」という表現はまさに核心を突いている。ウクライナは対ロシア戦争のために、ドローン生産規模を2024年の220万機から2025年には450万機に増強した。EU(欧州連合)の防衛・宇宙担当委員であるアンドリュス・クビリュスは、ロシアとのより大規模な戦争が発生した場合、米ウェストバージニア州とほぼ同じ面積で人口約290万人のリトアニアを維持するだけで、EUは年間300万機のドローンが必要になると推計している。

ASGARDのようなプロジェクトは、これらの数値に、戦争におけるもう1つの重要な要素である「スピード」を掛け合わせることになる。英国当局は、標的の最初の探知から攻撃決定までのデジタル標的網のキルチェーンは、1分未満で完了できると主張している。結果として、プレスリリースでは、このシステムによって「今後10年間で英国軍の攻撃力が10倍になる」と述べられた。その完成は2027年を予定している。ドイツ軍は独自の標的網「ウラノスKI(Uranos KI)」を早ければ2026年にも配備する計画だ。

これら取り組みの背後にある理論は、新興テクノロジー企業が考案し、異例の速さで前線に投入され、アルゴリズムのネットワークによって標的へと誘導される高性能ドローンを適切に組み合わせることで、全面戦争が発生した場合に欧州に圧倒的な勝利をもたらすというものだ。あるいは、欧州大陸に圧倒的な優位性がもたらされることで、そもそも誰も攻撃しようとは考えなくなるだろう。マドリードを拠点とし、防衛スタートアップ企業に特化したベンチャーキャピタリストであるエリック・スレジンガーは、この効果を「残忍な、銃と鋼鉄の、心胆を寒からしめる抑止力」と表現している。

しかし、この新たな戦争の数学に過度に依存することは、危険な賭けとなる可能性がある。大規模なドローン戦争に実際に勝利するには、金銭的なコスト以上の代償を払うことになるだろう。これらテクノロジーがもたらす人的被害は、前線のはるか後方まで及ぶ。創設当初から平和のプロジェクトであったEUにおける生き方、戦い方、死に方を根本的に変えることになる。そして、たとえそうなったとしても、勝利は決して保証されていないだろう。

むしろ、欧州は、誰も引き金を引くことなどできない、恒久的な引き金に手をかけようとしているのかもしれない。

作って、売る

ASGARDプロジェクトには20社が参加した。ベンチャーキャピタルの支援を受けた意欲的なスタートアップ企業から、ジェネラル・ダイナミクス(General Dynamics)のような防衛大手まで、その範囲は多岐にわたる。どの企業も欧州の未来において重要な役割を果たす可能性がある。しかし、このプロジェクトにドローンとAIの両方を提供した「ヘルシング(Helsing)」ほど、現在の欧州軍事における時代思潮を的確に捉えた企業はほかにない。

ヘルシングは、理論物理学者、マッキンゼーの元パートナー、そして生物学者からビデオゲーム開発者へと転身した人物が2021年に創業した。同社はスポティファイ(Spotify)のダニエル・エク最高経営責任者(CEO)から1億ユーロ(当時約1億1500万ドル)の初期投資を受け、欧州の新たな防衛技術エコシステムの頂点に急速に上り詰めた。

ミュンヘンに本社を置くヘルシングは、元政府関係者や軍関係者を多数擁し、欧州の主要都市に確固たる拠点を築いている。一連の注目度の高い政府との契約や提携、さらには追加の資金調達に後押しされ、同社の評価額は2025年6月に120億ドルへと急成長した。いまや欧州で最も価値の高い防衛スタートアップ企業であり、他社との差は圧倒的だ。欧州で新たな冷戦が突如として激化すれば、真っ先にその最前線に立つ可能性が最も高い企業なのだ。

同社はもともと、軍事用ソフトウェアを開発していた。しかし最近では、AI支援型ミサイルドローンや無人自律戦闘機といった物理的な兵器にも手を広げている。

これは、欧州における需要の変化を反映した面もある。2025年3月、欧州委員会は「一世代に一度の欧州防衛投資の急増」を宣言した。今後数年間で約1兆ドルを兵器に投入する新たな取り組みにおける7つの優先投資分野で、ドローンとAIをそのうちの2つに挙げた。ドイツだけでも、ドローン兵器の製造に約120億ドルを割り当てている。

一方で、ヘルシングは欧州の軍産複合体のあり方を形作ろうともしている。欧州における従来の兵器プログラムでは、政府が硬直的な契約プロセスを通じて、企業に製造内容を指示する。しかし、ヘルシングはこのプロセスを根本から覆そうとしている。増え続ける新興防衛企業と同様に、ヘルシングは、同社のアントワーヌ・ボルデス最高科学責任者(CSO)が「より伝統的なテクノロジー系スタートアップ企業の力」と表現する手法によって導かれている。

「資金を調達し、その資金でテクノロジーを生み出し、それを市場に投入します」と、以前はメタ(Meta)でAI研究のリーダーを務めていたたボルデスCSOは話す。欧州各国の政府関係者はこのモデルに好意的な姿勢を示しており、企業からアイデアを持ちかけられた際に、軍がより容易に資金を投入できるような、機敏な契約手段を呼びかけている。

ヘルシングが欧州防衛の将来像として提示したプレゼンテーションには、陸、空、海、そして宇宙で使われる兵器がぎっしりと詰まっている。ヘルシングが想定する戦場の最上層では、同社がロフト・オービタル(Loft Orbital)と共同で開発を進めている偵察衛星群が「世界中の軍事資産を検知、識別、分類する」ことになる。

その下層では、小型偵察ドローンとミサイルの機能を …

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