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AIの「すごさ」、プロと一般人の見え方がまるで違う理由
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Getty Images
Why opinion on AI is so divided

AIの「すごさ」、プロと一般人の見え方がまるで違う理由

スタンフォード大学の「AIインデックス2026」によれば、AIが雇用に与える影響を肯定的に見る割合は専門家73%に対し、一般市民はわずか23%。50ポイントの開きがある。ただ、この差は知識量の違いではなく、「どんな使い方をしているか」の違いから生まれている可能性が高い。 by Will Douglas Heaven2026.04.17

この記事の3つのポイント
  1. スタンフォード大学のAIインデックス2026年版は、米国のAI優位性とTSMC一社への世界的依存という現実を数値で裏付けた
  2. AI専門家と一般市民の間には技術への評価に50ポイントの巨大な認識ギャップが存在し、両者は異なる体験に基づいて判断している
  3. AIは「ギザギザの最前線」現象により得意分野では驚異的だが多くの領域で不十分という二つの現実が併存している
summarized by Claude 3

立ち止まることのない業界において、スタンフォード大学の年次報告書である「AIインデックス(Artificial Intelligence Index)」は、一息つく機会を提供している(結局のところ、これは短距離走ではなくマラソンなのだ)。

先日発表された2026年版のレポートは、印象的な統計で満ちている。その価値の多くは、すでに持っているかもしれない直感的な感覚を裏付ける数字を得ることから来ている。例えば、米国が他の国よりもAIに力を入れているという感覚だ。米国は5427カ所のデータセンターを有している(そして増加中である)。これは他のどの国よりも10倍以上多い。

また、AI業界が依存するハードウェアのサプライチェーンに重大なボトルネックが存在することも改めて示している。おそらく最も注目すべき事実は次の点である。「TSMC(台湾積体電路製造)という単一企業が、主要なAIチップのほぼすべてを製造しており、世界のAIハードウェア・サプライチェーンは台湾の一つのファウンドリーに依存している」。単一のファウンドリーである。これは極めて驚くべきことである。

しかし、2026年AIインデックスから私が得た主な結論は、現在のAIの状況が矛盾に満ちているということである。本誌のミシェル・キムが解説記事で述べたように、「AIのニュースを追っているなら、おそらく目まぐるしい変化に戸惑っているだろう。AIはゴールドラッシュだ、バブルだ、仕事を奪う存在だ、と言われる一方、AIは時計すら読めないという」。(スタンフォード大学の報告書は、グーグル・ディープマインドのトップクラスの推論モデルであるGemini Deep Think=ジェミニ・ディープ・シンクが国際数学オリンピックで金メダルを獲得した一方、アナログ時計を半分の確率でしか読めないと指摘している)

ミシェルはレポートの要点を見事に整理している。しかし、私にはどうしても頭から離れない疑問がある。なぜ現在のAIの実態を正確に把握することがこれほど難しいのだろうか。

最も大きな隔たりは、専門家と非専門家の間にあるようだ。「AI専門家と一般市民は、この技術の進展を大きく異なる形で捉えている」とAIインデックスの著者らは述べている。「AIの雇用への影響については、米国の専門家の73%が肯定的であるのに対し、一般市民では23%にとどまり、50ポイントの差がある。経済や医療についても同様の分断が見られる」。

これは非常に大きな差である。何が起きているのだろうか。専門家は一般の人々が知らない何を知っているのか(ここでいう「専門家」とは、2023年および2024年のAI会議に参加した米国拠点の研究者を指す)。

その一因として、専門家と非専門家がまったく異なる経験に基づいて見解を形成していることが挙げられると私は考える。「AIにどれだけ驚嘆するかは、コーディングにAIをどれだけ使っているかと完全に相関している」と、あるソフトウェア開発者が先日、Xに投稿した。冗談めいてはいるが、的を射ている部分もある。

トップクラスの最新モデルは、コード生成能力においてこれまで以上に向上している。コーディングのような技術的タスクは正誤が明確であるため、より自由度の高いタスクと比較してモデルの訓練しやすい。さらに、コーディング能力を持つモデルは収益性が高いことが実証されており、開発者はその改善に多くのリソースを投入している。

つまり、コーディングやその他の技術的作業にこれらのツールを使用する人々は、この技術の最も優れた側面を体験していることになる。一方、それ以外の用途では結果はより不安定である。大規模言語モデル(LLM)は依然として初歩的な誤りを犯す。この現象は「ギザギザの最前線(jagged frontier)」と呼ばれるようになっており、モデルが得意な領域と不得意な領域が大きく分かれていることを示している。

影響力のあるAI研究者、アンドレイ・カルパシーもこの点に言及している。「私のタイムラインを見る限り、AI能力の理解に関するギャップは拡大している」と彼はその投稿への返信で述べた。さらに、パワーユーザー(すなわちコーディング、数学、研究にLLMを活用する人々)は最新モデルを常に追い続けるだけでなく、最高性能のバージョンに月額200ドルを支払うことも珍しくないと指摘する。「今年に入ってからのこれらの分野での進歩は、驚異的としか言いようがない」と彼は続けた。

LLMは依然として急速に進化しているため、今日Claude Code(クロード・コード)に料金を支払って利用している人は、6カ月前に結婚式の計画のためにClaudeの無料版を試した人とは、実質的に異なる技術を使っていることになる。この2つのグループの間では、議論がかみ合わないのも無理はない。

では、私たちはどのように捉えるべきなのか。私は、現在には2つの現実が存在すると考える。確かにAIは多くの人が認識している以上に優れている。一方で、多くの人にとって重要な多くの領域では、依然として不十分であり、その状態が続く可能性もある。将来についてどちらの立場から予測を行うにせよ、この点を念頭に置くべきだ。

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ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めた。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピューターサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識を持つ。
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