KADOKAWA Technology Review
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ゴーストウルフを追って——
脱絶滅企業が揺さぶる
「種」という概念
Tristan Spinski
生物工学/医療 Insider Online限定
Colossal Biosciences said it cloned red wolves. Is it for real?

ゴーストウルフを追って——
脱絶滅企業が揺さぶる
「種」という概念

アメリカアカオオカミは、これまでその存在自体が長い間、議論の的となってきた種である。その保護をめぐる論争は、昨年、コロッサル・バイオサイエンシズがクローンを作成したと発表したことで、さらに混迷を深めることになった。 by Boyce Upholt2026.05.12

この記事の3つのポイント
  1. コロッサル社がアカオオカミのクローン4頭を極秘裏に作成し、科学者コミュニティに衝撃を与えた
  2. アカオオカミは種の定義が曖昧で、コヨーテとの交雑問題や12頭の創始個体に依存する遺伝的脆弱性を抱える
  3. 遺伝的純粋性より生態学的機能を重視すべきとの主張は保護政策の根拠を掘り崩す可能性もはらむ
summarized by Claude 3

オオカミのようなものを捕獲したいなら、夜明け前に出発するのが一番だ。

そこで、今年1月のある朝、まだ東の地平線に朝焼けが残る頃に、私は2人の若手科学者と車に乗り込み、一面の霧の中へ向かった。西へ64キロメートルほど進むと、ヒューストンの工業地帯が広がり、黄金色の輝きを放っていた。タナー・ブルサードの古いトヨタ・タコマが土手の上の道をガタガタ揺れながら走ると、休んでいたフタオビチドリが驚いて飛び立ち、ヘッドライトの光を横切って飛んで行った。

ブルサードは暗闇の中をじっと見つめ、罠を探した。そして、「こっちに1つ仕掛けました」と言い、少し速度を落とした。マクニーズ州立大学の大学院生であるブルサードは、物静かで思索的な性格だった。顎ひげを生やした顔が、黒い野球帽の下に半分隠れていた。「何もかかっていません」と、ブルサードは淡々とした口調で言った。トラックはそのまま走り続けた。

オオカミとその近縁種(イヌ、ジャッカル、コヨーテなど)はイヌ科に分類される。そして、テキサス州東部のこの土地をかつて支配していたイヌ科の動物は、アメリカアカオオカミ(学名:Canis rufus。以下、アカオオカミ)だった。しかし、白人入植者がこの大陸にやって来るとすぐに、アカオオカミは迫害されることとなった。オオカミたちとの戦いは「200年続いた」と、連邦政府の研究者たちはかつて、驚くほど印象的な報告書の中で述べている。「オオカミは敗れました」。1980年までにアカオオカミは野生下での絶滅が宣言され、個体数は飼育下で繁殖している少数の個体群にまで減ってしまった。

しかし、その後数十年にわたり、メキシコ湾岸沿いの一帯でオオカミのような姿をした奇妙な生き物が生き続けていることに、人々は気づいていた。そして2018年、科学者たちはついに、この地域のコヨーテの一部が単なるコヨーテではないことを確認した。そのコヨーテは背がより高く、長い脚を持ち、わずかにシナモン色がまざった毛色をしていた。その動物の身体には、アカオオカミの遺伝子が含まれていた。そうしてこの奇妙な動物は、「ゴーストウルフ(幽霊オオカミ)」として知られるようになった。

ルイジアナ州南西部出身のブルサードは、両親の牧場を駆け抜けるコヨーテたちを見て育った。それらが単なるコヨーテではなく、何かそれ以上のものだったかもしれないという、ワクワクするような事実。それが、迷走していた彼の学問の道に、明確な指針を与えた。2023年、ブルサードは7年間の休学を終え大学に復帰したばかりだった。そして芽生えつつあったオオカミへの執着が、彼の関心の的を絞り込んだ。ブルサードは学士課程を修了する前から、ある著名な自然保護NPO団体に実地調査のデータを提供し始めた。

そして昨年、ブルサードは修士課程を始める直前に、当惑させられるようなニュースで目を覚ました。コロッサル・バイオサイエンシズ(Colossal Biosciences、以降、コロッサル)という名前のスタートアップが、1万年以上前に絶滅した大型のイヌ科動物であるダイアオオカミを復活させたと主張したのだ。専門家たちは、このプロジェクトの有用性や、このクローン(厳密には、一部の遺伝子を改変したハイイロオオカミ)を本当にダイアオオカミと呼べるかどうかということについて、議論を戦わせた。しかし、ブルサードにとって重要だったのは、コロッサルがこのとき同時に発表したもう1つの事実だった。同社は、アカオオカミのクローンを4頭作成したというのだ。

「その発表に、オオカミ研究界のほぼ全員が驚きました」と、ブルサードは自分が罠を設置した野生動物保護区を私たちと一緒に周りながら話した。米国動物園水族館協会(Association of Zoos and Aquariums)は、飼育下繁殖を通じてアカオオカミたちを維持するプログラムを運営している。しかし同協会の幹部たちは、クローン作成プロジェクトが進行中であることをまったく知らなかった。ブルサードの指導教官の1人である生態学者のジョーイ・ヒントンも同様だった。ヒントンは、コロッサルがクローン用のDNAを採取するのに使用したイヌ科動物を罠で捕獲した当人だった。ヒントンの元共同研究者たちの一部は同社と協力関係にあったが、彼自身はクローンの作成が検討されていることを知らなかった。

科学者たちの間では、脱絶滅(絶滅種の復活)という考え全体についてすでに意見の不一致があった。そのような状況で、今度はコロッサルが前述の謎めいたクローンを作成したのだ。クローンの所在は秘密にされていた。一部の科学者にとっては、そのクローンの目的さえよく分からなかった。いったいどのようにしてアカオオカミの個体群を復活させるのか、不透明だったのだ。

科学者たちにとって、アカオオカミはその正体をはっきりと特定することが難しく、常に議論の的となっていた種だった。アカオオカミの研究コミュニティには、小規模で情熱的な集団にありがちな人間関係の対立がすでに生じていた。そんな中で、さらにコロッサルがもう1つの論争の的になったのだ。しかし、おそらく最も興味をそそる疑問は、同社が作成したのは、果たしてアカオオカミのクローンなのかどうかということだった。

アカオオカミは、米国東部のオオカミと考えることができる。かつてテキサス州からイリノイ州、ニューヨーク州に至るまでのあらゆる場所の森林、草原、湿地帯をうろついていた、頂点捕食者である。ハイイロオオカミよりも小さい(しかしコヨーテよりかなり大きい)このオオカミ種は、しなやかですらっとした体型の動物であり、ある古い野生観察図鑑によれば、「狡猾なキツネのような見た目」をしているという。その長い身体と長い足は、明らかに長距離を駆け抜けるために作られている。毛並みは滑らかで、毛が寝ており、色はさまざまだった。光の当たり方によっては赤みがかった色調に見えるが、その名前とは裏腹に白や灰色の個体もいた。特定の地域や個体群には、不吉な全身真っ黒の個体すらいた。

そういった詳しいことが分かっているのは、初期の自然学者たちが残したわずかな記録のおかげである。作家アンドルー・ムーアが新著『The Beasts of the East(東部の獣たち)』(未邦訳)で書いているように、1930年代にある哺乳類学者が東部のオオカミを独立した種として分類することを決定した頃には、アカオオカミは東海岸から姿を消しており、生息域全体でも急速に個体数が減っていた。その哺乳類学者は、残存していた頭骨やその他の標本の調査をもとに、アカオオカミという名前を選んだ。それらのオオカミが最後の生息地でそう呼ばれていたからだ。この名称は後に、ラテン語で「Canis rufus:カニス・ルーフス」という正式な学名が定められた。

アカオオカミに迫り来る絶滅の危機は、コヨーテにとって好都合な結果となった。カニス・ルーフスは、数千年前に共通の祖先から分岐したオオカミの遠い親戚であり、あるイヌ科生物学者が私に話したように、「人新世のオオカミ」と見なすことができるかもしれない。比較的小柄なため、必要な餌の量が少なく、現代の人間によって作られることが多いより狭く分断された土地でも生き延びることができる。

アカオオカミは、獲物をめぐる競争に勝ち、コヨーテを米国東部から締め出していた。しかし、オオカミの数が減ると、コヨーテが徐々にこの地域へ入り込むようになった。ルイジアナ州とテキサス州に生息していた最後のアカオオカミたちは、見慣れない小柄な相手でも、連れ合いがまったくいないよりはましだと判断した。間もなくその地域の遺伝子はごちゃ混ぜ状態となり、オオカミとコヨーテの両方、および数世代にわたる交雑の結果生まれた2つの種の中間的なさまざまな特徴を併せ持った雑種が生息するようになった。科学者たちが「雑種集団(ハイブリッド・スウォーム)」と呼ぶこのような個体群は、減少しつつある種に遺伝的な脅威をもたらす。より多くのコヨーテが東へと流れ込み、すべてのイヌ科動物が交雑を続ければ、「純粋な」オオカミはいなくなってしまうだろう。

長年にわたり、誰もそのことに気づいていないようだった。おそらく、この地域の猟師たちはこの新しい雑種をオオカミと間違えていたのだろう。あるいは、オオカミの毛皮からより高い報奨金が得られることに喜んでいたかもしれない。しかし、1960年代に絶滅危惧種という概念が初めて登場すると、生物学者たちは姿を消しつつあるこのオオカミのことを心配するようになった。

生物学者たちが思いついた最善の解決策は、大量駆除プログラムだった。それから数年にわたり、猟師たちはテキサス州とルイジアナ州で数百頭のイヌ科動物を捕獲した。その中で、(唸り声や頭骨の形状に基づいて)真のアカオオカミと見なされた個体は、飼育下で繁殖させるため急いで連れ去られた。残りの大部分は安楽死させられた。1980年、アカオオカミは野生下での絶滅が宣言された。簡単に言えば、アカオオカミは、存続させようとする回りくどい努力の中で、意図的に絶滅させられたのだ。

結局わずか14頭だけが、この過酷な状況を生き延びた。現在のアカオオカミたちは、そのうちの12頭の子孫である。その12頭が「ノアの箱舟」となった。つまり、今日生きている数百頭のアカオオカミの起点(遺伝的基盤)となったのである。現在、「種の保存計画」対象個体群として、約280頭のアカオオカミが飼育下で生きている。それとは別に、ノースカロライナ州沿岸の連邦保護区にも約30頭が生息しているが、政府はそれらの個体を「非必須」で「実験的」な存在と見なしている。米国魚類野生生物局(US Fish and Wildlife Service)によると、「カニス・ルーフス」として知られる保護対象種の認定個体として分類されるためには、その個体の血統の少なくとも87.5%が12頭の創始個体までさかのぼれる必要がある。

この捕獲・繁殖プログラムを主導した科学者は、連邦政府のこの取り組みによってアカオオカミの遺伝子プールが急激に狭められ、その結果、まったく新しい種が生まれる可能性さえあることを理解していた。例えば、前述の顕著に黒いオオカミは、新しい個体群では1頭も存続しなかった。しかし、他にどのような選択肢があっただろうか? 侵入してきたコヨーテの血が混ざっていない、(飼育下で生み出された)新しい種類のオオカミがいる方が、オオカミがまったくいなくなるよりはましに思えたのだ。

私はコロッサルのクローンのことを知った後、テキサス州東部へ赴くことにした。クローンたちは名称不特定の保護施設に隠されていたが、少なくともその遺伝物質の提供元となった動物たちなら、この海岸線地帯で見られるかもしれなかった。私は1月のある温かな日の午後にウィニーという名前の小さな町に到着し、テクス・メクス料理(テキサス風メキシコ料理)の店でブルサードと、もう1人の大学院生パトリック・カニンガムと合流し、アカオオカミを研究する上での課題について話し合った。

「精度の高い参照ゲノムが手元にないのです」とカニンガムは言った。12頭の創始個体の子孫からDNAを採取することはできるが、これまでに殺されてきた無数のオオカミたちのDNAは採取できない。古い標本から利用可能なDNAを抽出することは困難だ。そのため、この種がかつてどのような姿をしていたのか、その全体像を思い描くには限界がある。

一方、これまでに入手していた遺伝子の研究には、議論の余地があることが判明している。プリンストン大学の遺伝学者ブリジット・フォンホルトが、種の保存計画個体群のゲノムを詳細に分析したところ、そのDNAには、オオカミに似た他の米国のイヌ科動物と区別できるような特徴がほとんど見つからなかった。2016年に『サイエンス・アドバンシス(Science Advances)』誌に掲載された論文の中で、執筆者であるフォンホルトらは、かつて独立した南部のオオカミ種が本当に存在したのかどうか、疑問視した。おそらく、12頭の創始個体は、オオカミの血がわずかに混ざったコヨーテに過ぎなかったのかもしれない。

フォンホルトはその論文で、絶滅危惧種保護法(Endangered Species Act)に対し、多角的で新しい解釈を適用するよう求めた。私たちは種そのものよりも、動物の集団が果たす機能に重点を置くべきであると、フォンホルトは主張した。その考え方に立てば、アカオオカミは真に絶滅の危機に瀕しているオオカミと同じ役割を果たし、その遺伝子の一部を継承する生物として、保護されるべき存在だった。だが、カニス・ルーフスにとって、この論文が発表されたタイミングは不運であった。

ノースカロライナ州にある前述の連邦保護区をうろついているアカオオカミたちは、この種を野生に戻すことに向けた第一歩になるはずだった。しかし、地元住民の一部は、オオカミのそばで暮らすという考えを決して喜ばなかった。州当局も、2016年までに個体群回復プログラムに反対する立場に転じており、中止を求めていた。数年前には120頭ほどにまで達していた野生のアカオオカミの個体群は、減少を続けていたが、米国魚類野生生物局は、アカオオカミのさらなる放獣を一時停止していた。そして今度は、フォンホルトが率いる科学者グループが、アカオオカミには「(コヨーテや他のオオカミと区別できるような)独自の系統・血統が欠如」していると主張したのだ。なぜ独自の系統・血統が存在しない種に資金を費やすのか、 …

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