鉄鋼脱炭素のスタートアップが方針転換、重要金属の生産へ注力
鉄鋼生産のグリーン化に取り組むスタートアップ、ボストン・メタルが7500万ドルを調達し、ニオブやタンタルといった重要金属の生産に本格参入することが、MITテクノロジーレビューの独自取材で明らかになった。産業脱炭素化支援が弱まる米国で、鉄鋼脱炭素を掲げてきた同社が生き残りをかけた転換に踏み切った。 by Casey Crownhart2026.05.21
- この記事の3つのポイント
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- ボストン・メタルが7500万ドルを調達し、鉄鋼から重要金属生産へ事業の軸足を移す
- ブラジル施設の事故・資金難を経て、MOE技術でニオブ等の高付加価値金属を量産する戦略に転換
- 重要金属での収益化が技術実証を兼ね、将来のグリーン鉄鋼事業への布石となる見通し
スタートアップ企業のボストン・メタル(Boston Metal)が7500万ドルの資金調達ラウンドを実施し、重要金属の生産に乗り出すことが、MITテクノロジーレビューの独自取材で明らかになった。
同社はこれまで、世界の温室効果ガス排出量の約8%を占める鉄鋼生産のクリーン化に取り組む企業として広く知られてきた。今回の追加資金を得て、新たな注力分野が同社の事業継続を支える可能性がある。米国では産業脱炭素化への支援が弱まりつつある中、この転換は重要な意味を持つ。
ボストン・メタルは鉄鋼に加え、自社技術を他の金属にも応用する取り組みを進めており、子会社のボストン・メタル・ド・ブラジル(Boston Metal do Brasil)はブラジルにニオブ、タンタル、スズを生産する商業施設を建設中だ。タデウ・カルネイロCEOによると、今回の資金調達はこの施設の操業支援に加え、バナジウム、ニッケル、クロムといった重要金属の将来的な生産に向けた取り組みを後押しするものだという。資金調達の背景には、今年初めにブラジル施設で発生した産業事故に起因するキャッシュフロー問題があった。
ボストン・メタルのコア技術は溶融酸化物電解(MOE:Molten Oxide Electrolysis)と呼ばれるものだ。溶融した電解質に溶かした鉱石を充填した反応炉に電流を流す仕組みである。電気によってすべてが約1600℃まで加熱され、化学反応が引き起こされることで、目的の金属が鉱石から分離される。分離された金属は反応炉の底部に集まり、そこからサイフォンで取り出すことができる。
2025年初頭、ボストン・メタルは米マサチューセッツ州ウォーバーンにあるパイロット工業セルで過去最長の稼働を完了し、約1トンの鉄鋼を生産した。
しかし現在の注力対象は、より付加価値が高く高値で取引できる他の金属だ。同社のブラジル子会社は、低品位原料を投入して重要金属の混合物を製造する工業規模プラントの試験・立ち上げに取り組んでいる。例えばニオブは一部の鉄鋼合金に使用されるほか、ジェットエンジンやMRIスキャナーの超電導磁石に用いられる合金にも使われている。タンタルはロケットノズルやタービンブレードといった航空宇宙用途のほか、医療機器や電子機器にも使用されている。
ブラジルのプラントは2024年に建設が始まり、約18カ月を要したが、正式な稼働開始を遅らせるいくつかの課題に直面した。
1月には、反応炉を断熱して腐食を防ぐ設備である耐火システムに問題が発生し、電解質が漏洩した。オペレーターはシステムを停止して金属を取り出したが、負傷者や環境問題は一切なかったとカルネイロCEOは述べている。
しかしこの漏洩はプラントの開業スケジュールに影響を及ぼし、同社はマイルストーンを達成できず、約束されていた資金を失う結果となった。同社は事業を再編し、4月に71人の従業員を解雇した。
今回の新たな資金調達は、プラントの今後の運営を支援するものだ。「この遅延によってキャッシュフローに大きな打撃を受けましたが、投資家たちが力強く支援してくれました」とカルネイロCEOは語る。ボストン・メタルは現在ブラジルの施設を修復中であり、2026年9月には稼働を開始できる見込みだと同氏は付け加えた。
今回の資金調達は他の重要金属プロジェクトの支援にも充てられると、カルネイロCEOは述べている。同社は将来的に、現在ほぼ全量を輸入に頼っているクロムを生産する米国内プラントの建設を計画している。
ボストン・メタルの累計調達額はこれで5億ドルを超えた。今回の資金調達ラウンドには既存投資家に加え、インドの大手鉄鋼メーカーであるタタ・スチール(Tata Steel Limited)も参加している。
付加価値の高い重要金属を今生産することで、ボストン・メタルは自社技術を実証し、将来の鉄鋼プロジェクトへの道を開くことができると、ブレークスルー研究所(Breakthrough Institute)の気候・エネルギー部門長であるシーバー・ワンは述べている。「鉄鋼のグリーンプレミアムを喜んで払う人はいません。だからこそニオブなのです」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。