KADOKAWA Technology Review
×
Innovators Under 35 Japan 2026 候補者募集開始!
訴えは遅すぎた——マスク対アルトマン裁判、あっけない幕切れ
AP Photo/Nathan Weyland
Here’s why Elon Musk lost his suit against OpenAI

訴えは遅すぎた——マスク対アルトマン裁判、あっけない幕切れ

3週間にわたる証言、「間抜け野郎」トロフィー、法廷外の抗議者——注目されたマスク対アルトマン裁判は5月18日、あっけない結末を迎えた。陪審員団は全員一致で、マスクの提訴は時機を逸していたと判定した。激しい攻防は、実質的な判断なしに終わった。 by Michelle Kim2026.05.20

この記事の3つのポイント
  1. 陪審員団は出訴期限超過を理由にマスクの請求を棄却する全員一致の勧告的評決を下した
  2. マスクは2022年以前から営利化を疑う理由があったとオープンAI側が主張し、陪審員がこれを支持した
  3. マスクは実質的争点が審理されていないとして控訴を表明している
summarized by Claude 3

マスク対アルトマン裁判の陪審員団は5月18日、イーロン・マスクに大きな打撃を与えた。マスクがオープンAI(OpenAI)を訴えたのは時機を逸していたとする全員一致の勧告的評決を下し、その結果、マスクの請求は適用される出訴期限法によって棄却されることになった。米国連邦地方裁判所のイヴォンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事は直ちにこれを受け入れた。

マスクはXで今回の判決を不服として控訴すると発表した。「判事も陪審員も、事件の実質的な争点について実際には判断を下さず、単に手続き上の日程的な技術論に基づいて判断しただけだ」と彼は書いた。

オープンAIは2015年、マスクと研究者グループによって、財務的リターンを生み出す必要性に縛られることなく、人類の利益のためにAIを開発するという使命を掲げた非営利団体として共同設立された。マスクは創業初期に同社へ3800万ドルを寄付したが、それはオープンAIのCEOであるサム・アルトマンと社長のグレッグ・ブロックマンが、同社を使命に専念する非営利団体として維持すると約束したことに基づくものだったとされている。

マスクはオープンAIに対して2つの請求を提起した。第1に、アルトマンCEOとブロックマン社長が同社を非営利団体として維持するという約束を破り、長年にわたって膨張した営利子会社を設立することで、マスクが寄付によって設立した慈善信託に違反したと主張した。第2に、アルトマンCEOとブロックマン社長がマスクの犠牲の上に不当に利益を得たと主張した。マスクは2024年にオープンAIを提訴した。

マスクは裁判所に対し、オープンAIの営利子会社を公益法人に転換した2025年の組織再編を無効にすること、およびアルトマンCEOとブロックマン社長をそれぞれの役職から解任することを求めた。

オープンAI側は、マスクが訴訟を起こす前にすでに提訴期限が切れていたと主張した。慈善信託違反の請求に関する出訴期限は3年、不当利得の請求に関する出訴期限は2年である。これはすなわち、マスクがアルトマンCEOとブロックマン社長による慈善信託違反の疑いを発見した、あるいは発見する理由があった時点は2021年以降でなければならず、不当利得の疑いについては2022年以降でなければならないことを意味する。

マスクはアルトマンCEOとブロックマン社長が約束を破ったことを2022年になって初めて知ったと主張したが、オープンAI側は、マスクには2021年よりずっと前からそれを疑う理由があったと主張した。

マスクは陪審員に対し、オープンAIに対する自身の認識には「3つの段階」があったと語った。第1段階では、同社を「熱狂的に支持していた」。第2段階では、「彼らが本当のことを話しているのかどうか、信頼を失い始めました」と述べた。第3段階では、「彼らが非営利団体を食い物にしているのは確かです」と語った。

以下に、裁判で証言された出来事の経緯を掘り下げる。3週間にわたる裁判の詳細は、関連記事をお読みいただきたい。

2017年:マスクが営利子会社の設立を提案

オープンAI設立から2年後の2017年、マスクと他の共同創業者たちは、人間のほぼあらゆる認知タスクで競争できる強力なAIである汎用人工知能(AGI)を構築するのに十分な資金を調達するため、営利子会社の設立を試みた。彼らはその組織の支配権をめぐって激しい権力闘争を繰り広げた。マスクはまた、オープンAIを自身の電気自動車会社であるテスラ(Tesla)と合併させることも提案した。

裁判中、オープンAIの弁護士たちはこれらの協議についてマスクを追及し、マスクは2017年の時点でアルトマンCEOとブロックマン社長が会社の方向転換を計画していることを知っており(そうした計画に参加さえしており)、当時すでに提訴する理由があったと指摘した。

「非営利団体に資金を提供する小規模な営利部門が存在すること自体には反対していませんでした」とマスクは陪審員に語った。「ただし、尻尾が犬を振り回すようなことにならない限りにおいてです」。

2019年:オープンAIが利益上限付きの営利子会社を設立

2019年、オープンAIは営利子会社を設立し、従業員と投資家は投資に対して上限付きのリターンを受け取る仕組みとなった。同時に、同社はマイクロソフトから10億ドルの投資を確保した。オープンAI側は、この時点でもマスクには提訴する理由があったと主張した。

しかしマスクは、この動きが非営利団体の使命に違反しているとは思わなかったと証言した。「利益上限付きの状況であれば、非営利団体の目標に違反したことにはなりません」と、マスクは裁判の序盤に陪審員に語った。「当時、訴訟を起こす根拠は何もありませんでした」。

2020年:マイクロソフトが独占ライセンスを取得

2020年、マイクロソフトがオープンAIのGPT-3モデルの独占ライセンスを取得した際、マスクはXに「これはオープン(公開)とは正反対のように見える。オープンAIは事実上マイクロソフトに支配されている」と投稿した。オープンAI側は再び、この時点でマスクには提訴する理由があったと主張した。

しかしマスクは、その投稿を読んだ後、アルトマンCEOから「オープンAIは非営利団体として使命を継続しています」と安心させる言葉をかけられたと証言した。マスクは懐疑的ではあったものの、その時点ではまだ提訴する理由はなかったと述べた。

2022年:マイクロソフトがオープンAIへの100億ドル投資を準備

マスクが証言したところによれば、オープンAIが非営利の使命を放棄したと知ったのは2022年になってからのことだ。当時、マイクロソフトはオープンAIへの100億ドルの投資を準備しており、この取引は2023年に成立した。

マスクはそのニュースを読んだ後、アルトマンCEOに「オープンAIの評価額が200億ドルになっているのを見て衝撃を受けた。これは詐欺だ」とテキストメッセージを送った。

マスクは陪審員に対し、この瞬間こそが「営利部門という尻尾が犬を振り回している」と気づかせた出来事だったと語った。マイクロソフトが100億ドルを拠出するのは「非常に大きな財務的リターン」を期待しているからに違いないと考えた。そして、この時点で「オープンAIは実質的に200億ドルの評価額を持つ営利企業になった」と悟ったと主張した。

「2023年の取引は性質が異なります」と、マスクの代理人の一人であるスティーブン・モロ弁護士は最終弁論で繰り返し強調した。

陪審員がオープンAI側の主張を支持

証拠がマスクの主張――オープンAIがもはや使命に専念する非営利団体ではないと初めて認識したのは2023年だという主張――を裏付けるかどうかを判断するのは、陪審員の役割だった。本日発表された評決において、陪審員団はマスクが2021年以前にアルトマンCEOとブロックマン社長に欺かれていると疑う理由を実際に持っていたと認定した。なお、実際に欺かれていたかどうかについては判断を示さなかった。

裁判所は可能な場合、出訴期限のような手続き上の理由で事件を解決することが多い。それは、実質的な争点に取り組むよりも、より明快に事件を解決できる方法だからだ。

マスクは、カリフォルニア州などの地方裁判所の判決を審査する連邦控訴裁判所である第9巡回控訴裁判所に、今回の判決を不服として控訴すると表明している。

人気の記事ランキング
  1. It’s time to address the looming crisis in entry-level work. 「コーディングを学べ」もう通用せず、AIが若者の雇用を奪い始めた
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2026 「Innovators Under 35 Japan」2026年度候補者募集のお知らせ
  3. Anthropic’s Code with Claude showed off coding’s future—whether you like it or not 「Claudeに任せてしまおう」 たった1年で激変したソフトウェア開発
ミシェル・キム [Michelle Kim]米国版 フェロー
AIジャーナリズムのためのターベル・センター(Tarbell Center for AI Journalism)の支援を受けて執筆している、MITテクノロジーレビューのAI担当記者。これまでに、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)で労働とテクノロジーをテーマに取材し、フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌では韓国政治について執筆していた。ジャーナリズムに転身する以前は、米カリフォルニア州で企業弁護士として勤務。
▼Promotion
社会実装都市「ひろしま」の魅力に迫る ローカル ✕ イノベーション
MITテクノロジーレビューが選んだ、AIの10大潮流 [2026年版]

AIをめぐる喧騒の中で、本当に目を向けるべきものは何か。この問いに対する答えとして、MITテクノロジーレビューはAIの重要なアイデア、潮流、新たな進展を整理したリストを発表する。

特集ページへ
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る