KADOKAWA Technology Review
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10
BREAKTHROUGH
TECHNOLOGIES
2018

2018年版ブレークスルー・テクノロジー10

争式生成ネットワーク、人工胚、クラウドAI——。いま、そしてこれから何年間も私たちの仕事と暮らしに影響を与えるであろう10のテクノロジーを発表する。

MITテクノロジーレビューは、2001年から「ブレークスルー・テクノロジー10」と題した特集を組んできた。「ブレークスルー」とは具体的には何なのか、という質問をよく受ける。これは妥当な質問だ。取り上げたテクノロジーの中には、まだ普及していないものもあれば、まさに商品化されようとしているものもあるだろう。MITテクノロジーレビューが真に求めているのは、われわれの生活に重大な影響を与えるテクノロジーだ。

2018年版では、GANと呼ばれる新しい手法で想像力を得る人工知能、生命誕生の再定義や人間生命の初期段階における研究の糸口となりえる人工胚(これには異論の多い倫理上の制約がある)、当面の主要なエネルギー源となるであろう天然ガスを使った完璧な低炭素電力発電の試験プラント(石油科学産業の中心地、テキサス州にある)などを紹介する。リストに上がったテクノロジーはどれも注目に値するものだ。(編集者一同)

3D金属プリンティング

DEREK BRAHNEY

3Dプリンティングは数十年も前からあるテクノロジーだが、その多くは一部の愛好家やデザイナーの間で一度きりの試作品として使われているだけだった。また、プラスチック以外の材料を使った3Dプリンティングの中でも、特に金属プリンティングは非常に高コストで恐ろしく動作が遅かった。

だが今では部品製造が現実的になるほど安価で簡単になってきた。広く普及すれば、多くの製品を大量生産する方法が変わるかもしれない。

短期的には、製造業者が大量の在庫を抱え込まずにすむだろう。中古車などの交換部品などはニーズに合わせてプリントすればいいからだ。

長期的には、限られた種類の部品を大量生産する大規模工場は、顧客の要請に応じて多様な品種を作る小規模工場に置き換わるかもしれない。

3D金属プリンティング

ブレークスルー
金属3Dプリンターで金属製品がすばやく安価に製造できるようになった。
なぜ重要か
顧客の要求に応じた大型で複雑な金属製品を作る能力が、製造業を一変するかもしれない。
キー・プレーヤー
マークフォージド(Markforged)、デスクトップ・メタル(Desktop Metal)、ゼネラル・エレクトリック(GE)
実現時期
実現済み

3D金属プリンティングを使えば、従来の金属加工技術では作れないような軽量で高強度の部品や複雑な形を作れる。また金属の微細構造も、より正確に制御できる。2017年、ローレンス・リバモア国立研究所の研究者が、従来の方法の2倍の強度を持つステンレス部品を作る3Dプリンティングを開発したと発表した。

同じく2017年、ボストン郊外に拠点を置く3Dプリンティング・スタートアップ企業のマークフォージド(Markforged)は、初めて10万ドルを切る金属3Dプリンターを発売した。

ボストンに拠点を置く別のスタートアップ企業、デスクトップ・メタル(Desktop Metal)は、2017年12月、初の試作用金属3Dプリンターの出荷を開始した。デスクトップ・メタルは、従来品と比べ100倍のスピードでプリントできる製造業向けの大型金属プリンターも発売予定だ。

金属部品の3Dプリンティングは容易にもなってきている。デスクトップ・メタルは、3Dプリンティング用の設計ソフトウェアを提供している。ユーザーがプリントしたい部品の仕様を入力すると、ソフトウェアが仕様に合ったコンピューター・モデルを構築するのだ。

自社の航空部品に3Dプリンティングを使うことを長年提唱してきたゼネラル・エレクトリック(GE)は(「10 Breakthrough Technologies of 2013: Additive Manufacturing」を参照)、高速で大型部品をプリントできる新しい金属3Dプリンターの試験機を作った。 GEは完成機を2018年に発売する予定だ。

(エリン・ウィニック)

人工胚

UNIVERSITY OF CAMBRIDGE

生命創造を再定義するブレークスルーの1つとして、英ケンブリッジ大学の発生学者はマウスの幹細胞のみを使って本物の胚のようなものを成長させた。卵子も精子も使わず、別の胚から抽出した細胞だけでだ。

研究者は3次元の土台の上に注意深く細胞を配置し、観察し、魅了された。細胞が動き出し、数日たったマウスの胚の特徴であるエンドウ豆のような形に並んでいったのだ。

「幹細胞が多くの可能性を秘めていることは誰もが知っています。幹細胞が非常に美しく、また完璧に自己組織化することに気づかなかったのです」と、研究チームのリーダー、マグダレーナ・ゼルニカ=ゲッツ教授は当時インタビューに答えた。

人工胚

ブレークスルー
研究者は、卵子や精子を使わずに幹細胞のみで胚のような構造体を作り出した。これは生命誕生のまったく新しい道筋となるだろう。
なぜ重要か
人工胚の登場により、研究者は謎に包まれた人間の生命の始まりを探究がしやすくなるが、一方で生命倫理をめぐる新しい論争を引き起こしている。
キー・プレーヤー
ケンブリッジ大学、ミシガン大学、ロックフェラー大学
実現時期
実現済み

ゼルニカ=ゲッツ教授は、自身が作った「合成」胚はおそらくマウスには成長しなかっただろうという。それでも、こういった合成胚の存在は、いずれは卵子がなくとも哺乳類が生まれる可能性を示唆している。

だが、それがゼルニカ=ゲッツ教授のゴールではない。ゼルニカ=ゲッツ教授は、初期胚の細胞がどういった特別な役割を担っているのかを研究したいという。その次の段階は、ヒトの幹細胞から人工胚を作り出すことだ。研究はミシガン大学とロックフェラー大学で進められている。

合成ヒト胚によって、発生の初期段階で起こる事象の解明という恩恵がもたらされるかもしれない。人工胚は容易に操作された幹細胞から発生するため、成長過程を調べるために研究室では遺伝子編集などのあらゆるツールを利用できるだろう。

だが、人工胚は、生命倫理上の問題を投げかける。本物の胚と見分けがつかなかったらどうするのか? 胚が痛みを感じるまでのどのくらいの間、研究室で成長させられるのか? 生命倫理学者は、研究競争がこれ以上進む前にこういった問題に取り組む必要があると主張している。

(アントニオ・レガラード)

センシング・シティ

SIDEWALK TORONTO

スマートシティ建設の多くが遅れている。意欲的だった目標がトーンダウンするか、超富裕層以外の住民が閉め出されているのが現状だ。キーサイド(Quayside)と呼ばれるトロントの新しいプロジェクトでは、都市を徹底的に考え直し、最新のデジタルテクノロジーをもとに再構築することで、この失敗のパターンを変えようとしている。

アルファベット(グーグル)傘下のサイドウォーク・ラボ(Sidewalk Labs=本社ニューヨーク市)は、トロントの臨海工業地区に建設予定のハイテク・プロジェクトをカナダ政府と協力して進めている。

センシング・シティ

ブレークスルー
トロントの近郊都市では、最新デジタル技術を駆使した最先端の都市設計を世界で初めて完成させようとしている。
なぜ重要か
スマートシティによって、都市部でも手に入りやすく、また住みやすく環境に優しい地域となる。
キー・プレーヤー
サイドウォーク・ラボとウォーターフロント・トロント
実現時期
プロジェクトは2017年10月に発表された。2019年には建設が始まる予定だ。

プロジェクトの目標の1つは、大気環境から人々が作り出す騒音レベルまで、あらゆる情報を巨大なセンサーのネットワークによって収集し、それに基づいて都市設計や政策、テクノロジーに関して決定することだ。

計画では、すべての車両は自律運転車となり、住民に共有される予定だ。ロボットが地下で動き回り、郵便配達などの雑用をこなす。サイドウォーク・ラボによれば、同社開発のソフトウェアやシステムへのアクセスをオープンにし、まるでモバイルアプリのようにサードパーティ企業がサービスを構築できるによる予定だという。

サイドウォーク・ラボは公共インフラを注意深く監視する予定だが、そのためにデータ管理やプライバシーについての不安が広がっている。だが、サイドウォーク・ラボは、コミュニティや地方政府と協力して不安を緩和できると考えている。

「キーサイドでの試みで特徴的なのは、このプロジェクトが並外れて意欲的であるだけでなく、控えめでもある点です」と、サイドウォーク・ラボの都市計画担当役員のリット・アガーワラはいう。こうした謙虚さによって、これまでのスマートシティ構想では悩みの種だった落とし穴をキーサイドでは回避できるかもしれない。

キーサイドでの開発を監督する公的機関のウォーターフロント・トロント(Waterfront Toronto)によれば、すでに米国の多くの都市でサイドウォーク・ラボの次の候補地になりたいとの声が上がっているという。「サンフランシスコやデンバー、ロサンゼルス、ボストンなどから説明してほしいとの要望があります」(ウォーターフロント・トロントのウィル・フライセグCEO)。

(エリザベス・ウォイキ)

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街を丸ごとスマホ化する
グーグルが考える本物のスマートシティ
アルファベット(グーグルの親会社)傘下のサイドウォーク・ラボがカナダのトロントで手がける初のスマートシティ・プロジェクトが始動した。都市をプラットフォームとして捉え、世界中の都市にツールを提供していく巨大な構想は、Androidのように世界を席巻するのだろうか。

みんなのための人工知能

MIGUEL PORLAN

これまで人工知能(AI)は主にアマゾンやバイドゥ、グーグル、マイクロソフトなどの巨大テック企業や、一部のスタートアップのものだった。そのほかの多くの企業にとってAIシステムは高すぎるし、完全な実装が難しいのだ。

ではどうしたらいいのだろうか? クラウドベースの機械学習ツールを使えば、非常に広範なユーザーがAIを使えるようになる。クラウドAI市場はこれまでは、アマゾンの子会社アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が独占してきた。グーグルは、他の機械学習ソフトウェアを構築できるオープンソースのAIライブラリであるテンソルフロー(TensorFlow)で対抗している。最近グーグルは、事前訓練済みのシステムであるクラウドオートML(Cloud AutoML)を発表した。これでAIを簡単に使えるようになるという。

みんなのための人工知能

ブレークスルー
クラウドベースのAIは、安価で導入しやすい。
なぜ重要か
現在、AIを導入しているのは比較的一部の企業に限られているが、クラウドベースのサービスによって、広く使われるようになり、経済の活性化が見込める。
キー・プレーヤー
アマゾン、グーグル、マイクロソフト
実現時期
実現済み

クラウド・プラットフォームであるアジュール(Azure)を持つマイクロソフトは、アマゾンと協力してオープンソースの深層学習ライブラリであるグルーオン(Gluon)を提供している。グルーオンは、スマホアプリを構築するのと同じくらい簡単に、AIの重要なテクノロジーであるニューラル・ネットを作れるという。ニューラル・ネットは、人間の脳の学習方法を模倣したAIの基幹技術だ。

このうちのどの企業がクラウドAIサービスで主導権を握るのかは定かではない。だが、勝者にとっては大きなビジネスチャンスだ。

これらの製品は、AI革命がさまざまな分野に広がるために必要不可欠なものだ。現在、AIは主にテック業界で効率化、および新製品や新サービスを生み出すために活用されているが、多くの企業や産業界はAIの進歩を生かそうと奮闘してきた。AIを完璧に組み込むことができれば、医学界や製造業、エネルギーといった産業界は一変し、経済的な生産性は飛躍的に向上するだろう。

だが、ほとんどの企業でAIの活用法を理解する人材がまだ不足しており、アマゾンやグーグルはコンサルティング・サービスを立ち上げている。クラウドによってAIが誰の手にも届くようになれば、本当のAI革命が始まるだろう。

(ジャッキー・スノウ)

競争式生成ネットワーク

ILLUSTRATION BY DEREK BRAHNEY | DIAGRAM COURTESY OF MICHAEL NIELSEN, “NEURAL NETWORKS AND DEEP LEARNING”, DETERMINATION PRESS, 2015

AIの認識能力が向上している。100万枚の画像を見せれば、歩行者が横断する様などを異常な精度で解析する。だが、AI自身が歩行者の画像を作り出すことは絶望的だ。もしそれが可能ならば、さまざまな状況における大量の現実的な歩行者の合成画像を作れるだろう。この合成画像を使えば、自動運転車は道路に出ることなく自分で学習できる。

問題は、まったく新しい何かを作ることは想像力を必要し、そしてその想像力が今までAIを混乱させてきたということだ。

競争式生成ネットワーク

ブレークスルー
2つのAIシステムが対決することで、超現実的な独自の画像や音声を作り出す。これまでのAIにはできなかったことだ。
なぜ重要か
このテクノロジーによってAIが想像力のようなものを得ると、人間への依存度が減り、デジタル模倣機として驚くほど強力なツールに変貌するかもしれない。
キー・プレーヤー
グーグル・ブレイン(Google Brain)、ディープマインド(Deepmind)、エヌビディア(Nvidia)
実現時期
実現済み

2014年、当時モントリオール大学の博士課程に在籍中だったイアン・グッドフェローが、最初に解決策を思いついた。バーで学問的議論を展開していたときだった。競争式生成ネットワーク(GAN: Generative Adversarial Networks)として知られるこのアプローチは、2つのニューラル・ネットワークをデジタルいたちごっこで互いに戦わせるものだ。

いずれのニューラル・ネットワークも同じデータセットで訓練する。1つは生成モデル(generator)と呼ばれ、すでに見たことがある画像をさまざまに変化させ、歩行者にもう一本別の腕があるような画像を作り出す。もう1つは、識別モデル(discriminator)と呼ばれ、とらえたサンプルがいままでに訓練したことがあるものなのか、あるいは生成モデルによって作られた偽物なのかを特定する。さて、腕が3本ある人間は本物だと判断するだろうか?

ときが経つにつれ、生成モデルの画像生成能力が向上し、識別モデルが偽物を見分けられなくなる。本質的に、生成モデルは本物の歩行者のような画像を認識して作り出すように教えられている。

このテクノロジーは、過去10年間で最も期待できる成果の1つとなった。人間ですら騙されるような結果を機械が作り出せるようになったのだ。

GANは本物のような音声や偽物画像を作り出すために使われてきた。半導体メーカーのエヌビディア(Nvidia)がGANにセレブの写真を与え、本物と見分けのつかない実在しない人のもっともらしい顔写真を何百枚と作り出したことは、注目せずにはいられない例の1つだろう。他の研究グループは、ゴッホの作品らしく見えるもっともらしい偽絵画を作り出した。さらにいうと、太陽が降り注ぐ道路を雪の降る道路にしたり、馬をシマウマにしたりと、GANは異なる方法で画像を再形成できる。

いつも完璧な結果が得られるというわけではない。GANはハンドルを2つ付けた自転車や、眉が変なところについた顔なども作り出す。だが、多くの画像や音声が驚くほど本物そっくりなため、GANが見たり聞いたりした世界の基本的な構造を理解し始めていると、一部の専門家は信じている。つまり、想像力を得たAIは、目の前の世界を理解する別の能力を持つ可能性があることを意味している。

(ジェイミー・コンドリフ)

※MITテクノロジーレビュー[日本版]では「Generative Adversarial Networks」の日本語訳として「競争式生成ネットワーク」を採用しています。

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深層学習システムは何かを認識することは得意だが、何かを創り出すことは不得意だ。グッドフェロー博士が考案したGAN(競争式生成ネットワーク)は、機械に想像力を与えようとしている。

バベルフィッシュ・イヤホン

GOOGLE

人気SFラジオドラマ「銀河ヒッチハイク・ガイド」では、黄色いバベルフィッシュを耳の中に入れると一瞬で翻訳してくれる。現実の世界ではグーグルが、159ドルでピクセル・バッズ(Pixel Buds)というイヤホンを発売し、当座の解決策を示した。このイヤホンはスマートフォン「ピクセル(Pixel)」とグーグル翻訳のアプリ上で動作し、実際にリアルタイムで翻訳する。

一人がイヤホンを装着し、もう一人はスマホを持つ。イヤホンを装着した人が自分の言語(英語がデフォルト設定)を話すと、アプリが翻訳してスマホから大きな音で読み上げてくれる。スマホを持った人が返答すると、翻訳された返答がイヤホンを通して流れてくる。

バベルフィッシュ・イヤホン

ブレークスルー
ほぼリアルタイムで翻訳するするうえに、多言語対応で、しかも容易に使えるようになった。
なぜ重要か
ますますグローバル化がすすむ世界では、言語がコミュニケーションの障害となる。
キー・プレーヤー
グーグル、バイドゥ
実現時期
実現済み

グーグル翻訳にはすでに会話モードがある。iOSアプリでもAndroidアプリでも、2人のユーザーが話すと自動的にそれがどの言語なのかを認識し翻訳する。だが、周囲の雑音のせいでアプリが話の内容を理解したり、話を止めて翻訳を始めるタイミングを見つけ出したりするのが難しいことがある。

ピクセル・バッズは、話の最中に右側のイヤホンをタップしたり長押ししたりすることで、こういった問題をうまく回避している。スマホを使わずイヤホン単独で操作ができる上に、スマホそのものをお互いに渡し合うわけでもないため、それぞれが自分のマイクを持ち、お互いの目を見ながら話ができる。

ピクセル・バッズのデザインは格好が悪いと酷評されている。確かに見た目は悪いし、耳につけてもうまく合わないかもしれない。スマホの設定も難しい。

だが、ハードウェアの冴えない点は修正可能だ。ピクセル・バッズは、ほぼリアルタイムで異なる言語を理解する道筋を示している。もちろん、魚も必要ない。

(レイチェル・メッツ)

 

ゼロカーボン天然ガス

MIGUEL PORLAN

天然ガスは当面、世界の主要エネルギー源としての地位が固定されている。安価で容易に手に入る天然ガスによる発電量は、米国電力の30%以上、世界の電力の22%を占める。石炭よりクリーンエネルギーだとはいえ、大量の二酸化炭素を排出することに変わりはない。

米国石油・石油精製産業の中心地、ヒューストン郊外にある試験プラントが、天然ガス由来のクリーンエネルギーを作るテクノロジーを現実化すべく試験を実施している。この50メガワットのプロジェクトを進めるネット・パワー(Net Power)は、少なくとも標準的な天然ガス火力発電所と同程度のコストで発電でき、基本的に発電の過程で発生したすべての二酸化炭素を回収できると考えている。

もしそれが可能ならば、人類は妥当なコストで化石燃料から無炭素エネルギーを作り出す方法を見つけたことになる。こういった天然ガス火力発電所は需要に応じて発電量を調整でき、原子力発電の高い資本コストと、再生可能エネルギーの不安定な供給を避けることができる。

ゼロカーボン天然ガス

ブレークスルー
温室効果ガス排出量を抑えながら、天然ガスを燃やすことで放出される二酸化炭素を低コストで効率的に回収する発電所。
なぜ重要か
米国の電力のおよそ32%は天然ガスで発電されている。これは、電力産業の二酸化炭素排出量の約30%を占める。
キー・プレーヤー
エイト・リバース・キャピタル(8 Rivers Capital)、エクセロン・ジェネレーション(Exelon Generation)、CB&I
実現時期
3〜5年

ネット・パワーは技術開発会社であるエイト・リバース・キャピタル(8 Rivers Capital)とエクセロン・ジェネレーション(Exelon Generation)、エネルギー建設会社CB&Iの提携によって設立された。ネット・パワーは現在発電所を稼働させようと、最初の試験運転を始めたところだ。数カ月の内に早期評価の結果が発表される予定だという。

発電所では、高圧・高温下で燃焼させた天然ガスから二酸化炭素を排出し、超臨界二酸化炭素を特別に作られたタービンを動かす「作動流体」として使う。大量の二酸化炭素を常にリサイクルすることができ、残りは安価に回収できる。

コスト削減の重要なポイントは、この二酸化炭素の売却にかかっている。現在、主な使い道は油井からの石油抽出だ。市場は限られていて、クリーンエネルギーでもない。だが、ネット・パワーは最終的には、セメント産業における二酸化炭素の需要と、プラスチックや他の炭素系材料を製造する企業における需要の高まりを見込んでいる。

ネット・パワーのテクノロジーは、天然ガス関連のすべての問題(特に抽出分野)を解決するわけではない。ただ天然ガスを使うのであれば、できるだけクリーンにすべきだ。開発段階のクリーンエネルギー関連テクノロジーの中で、ネット・パワーのテクノロジーが二酸化炭素排出削減において最も進んでいる。

(ジェームズ・テンプル)

完璧なオンライン・プライバシー

MIGUEL PORLAN

本当の意味のインターネット・プライバシーが、やっと実現した。たとえば、誕生日を明かすことなく18歳以上だと証明したり、銀行口座残高などの詳細を明かすことなく金融取引をするのに十分な財産を持っていることを証明したりできるのだ。これによって、プライバシーの侵害や個人情報が盗まれるリスクが限定される。

このツールは「ゼロ知識証明」とよばれる新しい暗号プロトコルだ。研究者はこのプロトコルに数十年間も取り組んできたが、暗号通貨に取りつかれる人が急増したこともあり、2017年になって急に注目されるようになった。暗号通貨のほとんどでプライバシーが守られているわけではないからだ。

完璧なオンライン・プライバシー

ブレークスルー
コンピューター科学者は、実証に必要な情報を明かさずに証明する暗号ツールが完成させた。
なぜ重要か
オンライン上で何かをするために個人情報を入力しなければならない場合でも、簡単にプライバシーを守り、なりすまし犯罪被害にも遭わずにすむようになるだろう。
キー・プレーヤー
Zキャッシュ(Zcash)、JPモルガン・チェース、ING
実現時期
実現済み

実際に信用できるゼロ知識証明を使った暗号通貨が、Zキャッシュ(Zcash)だ。Zキャッシュは2016年後半に運用を開始した電子通貨で、Zキャッシュの開発者はzk-SNARK(非対話型ゼロ知識証明)という方法を使ってユーザーに匿名で取引させている。

取引が誰でも見られるビットコインや他のパブリック・ブロックチェーン・システムでは通常ありえないことだ。取引は理論上匿名だが、他のデータと結びつけられると追跡されユーザーの特定までもが可能になるからだ。時価総額が第2位の暗号通貨イーサリアムの考案者であるヴィタリック・ブテリンによれば、zk-SNARKは「まさに革新的なテクノロジー」だという。

このテクノロジーを使えば、銀行は顧客のプライバシーを危険にさらすことなく、決済システムにブロックチェーンを導入できるかもしれない。2017年、JPモルガン・チェースが独自のブロックチェーン・ベースの決済システムにzk-SNARKを取り入れた

周囲の期待は大きいものの、zk-SNARKは計算負荷が重く、動作が遅い。またzk-SNARKでは、悪用された場合、すべてのシステムを危険にさらす可能性のある暗号キー、いわゆる「信用された設定(trusted setup)」を作らなければならない。研究者は、ゼロ知識証明をさらに効率的に取り入れ、そうした暗号キーを必要としない別の方法を模索中だ。

(マイク・オルカット)

遺伝子占い

DEREK BRAHNEY

いつか赤ん坊が出生時にDNA通知表をもらう日が来るかもしれない。通知表には、心臓病やがん、たばこ依存症などになるリスク、平均より優れた頭脳を持つかどうかなどが記されている。

100万人規模の遺伝子研究のおかげで、こういった通知表を実現する科学が一気に進歩した。

遺伝子占い

ブレークスルー
遺伝子を使って心臓病や乳がんになる可能性、あるいはIQですらも予想できるようになった。
なぜ重要か
DNAによる未来予想は公衆衛生にもたらされる次の大きな進歩になりえるが、遺伝子差別のリスクが増大するだろう。
キー・プレーヤー
ヘリックス(Helix)、トゥウェンティー・スリー・アンド・ミー(23andMe)、ミリアド・ジェネティックス(Myriad Genetics)、UKバイオバンク(UK Biobank)、ブロード研究所(Broad institute)
実現時期
実現済み

判明したのは、一般的な病気のほとんどや、知能などを含めた多くの行動や形質は、1つや2つの遺伝子だけでなく、多くの遺伝子が影響し合った結果だということだ。進行中の大規模遺伝子研究から得られたデータを使って、科学者は「多遺伝子リスクスコア」を作り出している。

新しいDNA検査が示すのは確率であり、診断ではない。だが、医学に大きな恩恵をもたらすかもしれない。たとえば、乳がんになる可能性の高い女性の方が低い女性よりも多くのマンモグラム(乳房のエックス線検査)検査を受ければ、こういった検査で多くの本物のがんが発見され、誤診を減らせるかもしれない。

製薬会社はアルツハイマー病や心臓病などの予防薬の臨床試験でも、これらのスコアを使える。より病気になりやすい被験者を選ぶことで、医薬品の効能効果をより正確に評価できる。

問題は、予想が完璧にはほど遠いということだ。アルツハイマー病を発症する可能性を誰が知りたいのだろうか。がんになる可能性が低い人が検査から外れ、その後がんにかかったらどうするのだろう?

多遺伝子スコアが疾患だけでなく人間の形質も予想できることも、議論の的になっている。たとえば、IQテストの結果の約10%を予想できるのだ。スコアの精度が向上すれば、DNAによるIQ予想がごく普通に手に入るようになるだろう。だが、両親や教育者はそうした情報をどう使うのだろうか?

行動遺伝学者のエリック・タークハイマーは、遺伝子データが良いことにも悪いことにも使われる可能性があるために、このテクノロジーには「刺激的な面と不安な面の両方があります」という。

(アントニオ・レガラード)

関連記事
病気もIQも予測、多遺伝子スコアは何をもたらすのか?遺伝子診断は、糖尿病やアルツハイマー病といった一般的な病気の発症予測だけでなく、知能指数の予測まで可能になりつつある。

材料の量子的飛躍

JEREMY LIEBMAN

高性能の新しい量子コンピューターへの期待が高まる一方、困惑も広がっている。量子コンピューターは現在のコンピューターとは比べものにならないほどの計算能力を持つが、この能力の活用方法が見い出せていないのだ。

魅力的で可能性のある使い道が1つある。分子を正確に設計することだ。

材料の量子的飛躍

ブレークスルー
IBMが7キュービットの量子コンピューターを使って小さな分子の電子構造をシミュレートした。
なぜ重要か
分子を詳細に理解することで、化学者はもっと効果的な医薬品や、エネルギーの発電や送電に効率的な材料を開発できるだろう。
キー・プレーヤー
IBM、グーグル、ハーバード大学のアラン・アスプル=グジク教授
実現時期
5〜10年

化学者は、効果の高い医薬品のための新しいタンパク質や、次世代電池向けの新しい電解質、太陽光を直接液体燃料化する化合物や非常に効率的な太陽電池などをすでに夢見ている。

従来のコンピューター上で分子をモデル化するのはばかばかしいほどに負荷がかかるため、こういったものはまだない。比較的簡単な分子における電子の振る舞いをシミュレートしてみると、現在のコンピューターの能力を大きく超えた複雑な計算にぶち当たるだろう。

だが、量子コンピューターにはふさわしい問題だ。1と0で表されるデジタルビットの代わりに、そのものが量子システムである「キュービット」を使うのだ。最近、IBMの研究者が7キュービットの量子コンピューターを使って、3つの原子でできた小さな分子をモデル化した。

さらに大きなキュービットの量子コンピューターを開発すれば、さらに大きくて意味のある分子を正確にシミュレーションできるだろう。もちろん、より効率的な量子アルゴリズムを作ることも同じくらい重要だ。

(デビッド・ロットマン)

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